トッテナムを指揮する名将ジョゼ・モウリーニョは、これまで何度も戦い方を批判されてきた。
目的達成のためにエンターテイメント性を捨てて守備に徹することも多く、戦術が守備的すぎると指摘されてきたのだ。それは今のトッテナムでも変わらず、格下相手のゲームでもポゼッション率で下回ることがある。
しかし、その守備戦術がピタリとハマった時のモウリーニョは強い。代表的なのは3冠を達成した2009-10シーズンのインテルだろう。
『Bobo TV』にて、元イタリア代表FWアントニオ・カッサーノ氏は当時のインテルについて「11年前のインテルはフットボールをせずにチャンピオンズリーグを制した」とコメントしているが、これも間違いではないだろう。
特に準決勝のバルセロナ戦2ndレグでは、退場者が出たところから徹底的な守備戦術を選択。GKジュリオ・セーザル、最終ラインのルシオ、ワルテル・サムエル、ハビエル・サネッティら守備のスペシャリストを軸にバルセロナの攻撃を抑えてみせた。
攻撃の方ではディエゴ・ミリートとウェズレイ・スナイデルの2人だけで崩してしまうこともあり、決勝のバイエルン戦でもミリートの2発で勝利を手繰り寄せた。地味な戦いではあったが、あのモウリーニョ・インテルはサッカー史に残る安定感を誇っていた。
ならば今のトッテナムはどうだろうか。前線にはハリー・ケイン、ソン・フンミンと個の力でゴールを奪える実力者が揃い、ガレス・ベイルも徐々に調子を上げてきた。モウリーニョは攻撃面をタレント力に依存するところがあるが、今のチームは当時のインテルにも引けを取らないタレントを備えている。
問題は守備か。ルシオ、サムエルらに比べると、今のトッテナムの守備力は心許ない。モウリーニョが望むレベルには達していないのだろう。
かつて指揮したチェルシーにはジョン・テリーやリカルド・カルバーリョ、レアル・マドリードではぺぺ、セルヒオ・ラモス、ラファエル・ヴァランと、モウリーニョが成功を収めたチームには守備のスペシャリストが揃っていた。
ところが、その後指揮したチェルシー第2次政権やマンチェスター・ユナイテッド、今のトッテナムにはワールドクラスのセンターバックが不足している。モウリーニョのベースとなる堅い守備を築けないところに苦戦の原因はあるのかもしれない。
モウリーニョが再び成功を収めるには、当時のインテルやチェルシーに匹敵する守備陣を抱えることが条件とも言える。トッテナムで成功を収めるには優秀なセンターバックを2枚ほど獲得する必要がありそうだが、スペシャル・ワンと呼ばれたモウリーニョが再び欧州の頂点に立つ日はくるか。