[水沼貴史]無観客開催だからこその“サッカーの楽しみ方” あのルール変更は試合にどう影響する? 

水沼貴史の欧蹴爛漫044

水沼貴史の欧蹴爛漫044

ドイツ・ブンデスリーガは5月16日に再開。長い中断による選手のコンディション低下が懸念されていたものの、第26節のドルトムント対シャルケの一戦では激しい攻防が見られた photo/Getty Images 

各チーム指揮官の“大胆な決断”に注目

水沼貴史です。新型コロナウイルスが蔓延したことで世界中のリーグ戦が中断に追い込まれましたが、5月16日にドイツ・ブンデスリーガが再開されましたね。再開初戦のドルトムント対シャルケ(同リーグ第26節)で解説を担当させて頂きまして、サッカーをできる環境がようやく戻ってきたという喜びを噛みしめながら中継に臨みました。リーグ再開前に各チームに与えられた全体練習の期間が10日ほどと短かったため、試合のクオリティに影響が出ないかと心配していたのですが、思いのほか選手一人ひとりのプレイの強度が高く、無観客という点を除いては違和感なく試合を楽しめましたね。再開初戦1週間前から各チームの選手・スタッフにホテルでの隔離生活の義務付け、スタジアムに入れる選手や運営スタッフの制限(300人程度まで)など、コロナウイルス感染防止のためのガイドラインをこと細かく定め、再開にこぎ着けたブンデスリーガの運営力の高さを感じたここ数週間でした。

先日、国際サッカー連盟(FIFA)が今年中に終えられる予定のリーグ戦やカップ戦に限り、選手交代枠を従来の3人までから“5人まで”に増やすことを認めましたが(交代回数はハーフタイムを含め4回まで)、再開されたブンデスリーガを観ていて、各チームの監督がこのルール変更を最大限に活用しているなと思いました。監督としては試合の流れに乗りきれなかった選手を早い時間帯に代えることができたり、2枚代えや3枚代えがしやすく、これによって戦い方や布陣を頻繁に変更できるので、試合中の軌道修正がしやすいのでしょう。キックオフから膠着状態が続き、スコアレスドローに終わるという試合は、今季いっぱい減るのではないでしょうか。

このルール変更のメリットを特に感じたのが、5月30日に行われたシャルケ対ブレーメンの一戦(ブンデス第29節)です。この試合ではハーフタイムに投入されたブレーメンのFW大迫勇也が、後半46分にDFクリスティアン・グロスと交代させられるという場面がありました。交代枠3人までの試合では、途中投入した選手を代えるというのは監督にとって勇気のいる采配ですし、普段では滅多にお目にかかれない光景ですよね。最大5人まで交代可能となれば、相手のパワープレイ対策に特化した選手をベンチ入りさせておいて、リードしている試合の終盤に守備固めとしてその選手を投入するべく、交代枠を残しておくということがしやすくなります。実際にブレーメンはグロス投入で最終ラインの人数を増やして相手のパワープレイをはじき返し、1-0で逃げ切ることができました。
また、怪我などの理由で長時間のプレイは難しくても、試合の流れを変えてくれそうなパワーヘッダーやドリブラー、そしてベテランのパサーなどをベンチ入りさせておいて、点が欲しい試合の終盤に入れるという戦略も交代枠3人までの時よりも立てやすくなります。今後は選手層の厚いクラブはもちろんのこと、複数の布陣や戦術を使い分けることができる監督が有利になることは間違いないでしょう。プレミアリーグやJリーグでもこの“交代枠5人制”が採用されるようですが、再開の目途が立ったブンデス以外のリーグを楽しみにされている皆さんには、各チームの監督が行った選手交代により、試合の流れがどう変わったかを今まで以上に観察してほしいですね。

2月下旬より開催が見送られていたJリーグの再開日が決定。当面は無観客で行われるが、スタンドがサポーターで埋め尽くされる日が戻ることを願うばかりだ photo/Getty Images 

間もなく再開のJリーグ 無観客開催ならではの“醍醐味”とは

話は変わりますが、2月下旬より開催が見送られていたJリーグの再開日が決まりましたね。一時期は全選手への実施が難しいという話も出ていたPCR検査を2週間に1回、Jリーグ全56クラブの選手やスタッフ、そしてレフェリーを対象に行える環境も整いました。村井満チェアマンをはじめとする多くの関係者のご尽力によってJリーグ再開の目処が立ったことを、私自身嬉しく思っています。

ぜひこの場で強調しておきたいのが、公式戦を再開するにあたって各クラブの関係者が「いち早く決めてほしい」と思っていることであったり、サポーターが「知りたい」と思っていることを素早く決めて明確な指針を発表できる、Jリーグの運営力の高さです。下部リーグへの降格制度を今シーズンに限り廃止することを早い段階で決めて発信したことも良かったですし、J1からJ3の各カテゴリーで「全日程の75%が消化され、かつ全クラブがホーム・アウェイを問わず50%の試合を開催した場合のみ順位決定をする」という大会成立要件を早期に示し、競技の公平性を担保したことについても素晴らしかったと私自身感じています。全国のJクラブを東西の2ブロックに分けて対戦カードを組み、感染拡大のリスクを減らそうというプランが持ち上がるなど、安全面に関しても申し分ない取り組みができていると思います。このJリーグの運営力であったり、サポーターに対する発信力というものは世界各国のリーグの中で高い部類に入るのではないでしょうか。J2とJ3は6月27日、そしてJ1は7月4日に再開予定ですが、全クラブが無事に再開初戦を迎えられることを願っています。

7月10日までは無観客で開催される予定ということで、日頃Jリーグの解説を担当している私としてはいかに視聴者の皆さんにその試合の熱気を伝えようかと今も考えているのですが、やはり無観客だからこそ聞こえてくる“音や声”を皆さんには楽しんで欲しいですね。選手同士が激しく体をぶつけ合った際に響く「ゴン!」という重い音、ある選手が味方を鼓舞するために発した力強い言葉、そして試合の流れを変えようと奮闘する監督の戦術的指示。視聴者に聞かれると恥ずかしい言葉もピッチ上で飛び交うかもしれませんが(笑)。プレイヤーや指導者としてJリーグに携わってきた私だからこそ深彫りできる音や選手たちの声というものを大事にして、彼らがどんな思いでその試合に臨んでいるかを伝えていきたいと思っています。現役Jリーガーの皆さんには過密日程の疲労からくる怪我に気をつけつつ、サッカーをできる喜びというものを噛みしめながら今シーズンのJリーグに臨んでほしいですね。彼らの全力プレイが、多くの人の心を打つと信じています。

ではでは、また次回お会いしましょう!



水沼貴史(みずぬま たかし):サッカー解説者/元日本代表。Jリーグ開幕(1993年)以降、横浜マリノスのベテランとしてチームを牽引し、1995年に現役引退。引退後は解説者やコメンテーターとして活躍する一方、青少年へのサッカーの普及にも携わる。近年はサッカーやスポーツを通じてのコミュニケーションや、親子や家族の絆をテーマにしたイベントや教室に積極的に参加。幅広い年代層の人々にサッカーの魅力を伝えている。



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