“最強”だったハインケス・バイエルン ペップ、アンチェロッティでもチームを変えられず

バイエルンを支えてきたロッベンとリベリ photo/Getty Images

チームは危機的状況に

バイエルンは28日に指揮官カルロ・ アンチェロッティを解任したが、 今の混乱を収められる手腕を持つ指揮官がいるだろうか。 バイエルンの問題は想像以上に根深く、 指揮官を交代したくらいで解決できるものではない。 一部ではアンチェロッティが前指揮官ジョゼップ・ グアルディオラの影を振り払うことができなかったと言われている が、それ以上に大きいのはユップ・ハインケス氏の影だ。

ハインケス氏は2011-12シーズンからチームを指揮し、 2012-13シーズンにはブンデスリーガ、DFBポカ ール、チャンピオンズリーグの3冠を達成。 国内リーグではたったの1敗しか喫することがなく、 勝ち点はブンデス史上最多となる91を記録。得点98、 失点18と攻守両面で圧倒的な数字を残しており、 当時のバイエルンを止められるチームは存在しなかった。 しかし今考えると、このチームが今の世代のピークだった。

その翌シーズンよりクラブは勇退したハインケス氏の後任にグアル ディオラを招聘。 クラブはグアルディオラがバルセロナで築いたような黄金期を求め 、欧州サッカーの支配を狙っていたことだろう。 グアルディオラもその期待に応えようとポゼッションをベースにし た哲学をチームに持ち込んだが、 チームの骨格はほとんど変わっていない。 なぜならチームの主役はいつでもフラン ク・リベリとアリエン・ロッベンだったからだ。 グアルディオラのポゼッションサッカーは魅力的だったが、 ファイナルサードでの崩しにはロッベンやリベリ、 あるいはドウグラス・ コスタのように強烈な個を持つ選手が必要だった。 グアルディオラもロッベンやリベリに1対1の状況を与えることを 1つのテーマとし、 サイドバックが中に絞ってサイドにスペースを作り出すなど工夫を 施していた。

グアルディオラは国内リーグ制覇を継続し、 チャンピオンズリーグでは3シーズン続けてベスト4にチームを導 いた。結果だけを見れば悪くはないが、 チームの中身はハインケス政権からほとんど進化していない。 アンチェロッティが指揮を執った2016- 17シーズン以降も同じだ。結局前線ではロッ ベン、リベリが輝きを放ち、そのチャンスメイクからロベルト・ レヴァンドフスキが決めるパターンが多かった。ロッベン、 リベリはどんどん歳を重ねるが、世代交代は一向に進まない。 グアルディオラ、アンチェロッティの名将2人でも、 バイエルンに新たなスタイルを植え付けることはできなかったのだ 。

しかもこれから後任を務める指揮官には気の毒な話だが、 ハインケス氏が3冠を達成してしまったことでクラブの要求は高く なっている。 グアルディオラはチャンピオンズリーグで3シーズン続けてベスト 4に導いたが、クラブはこれに満足していなかった。 ハインケス政権での3冠達成で理想が高くなってしまい、 グアルディオラ、そしてミラン、レアル・ マドリードでチャンピオンズリーグ制覇を達成 した同大会のスペシャリストとも言えるアンチェロッティにも当然 のごとく欧州制覇が要求された。 もちろんアンチェロッティの後任にも同じことが求められるだろう 。ひとまずブンデスリーガ制覇は当たり前で、 それに加えてチャンピオンズリーグ制覇が求められることになる。

しかしその要求に応えつつ、 高齢化の進むチームで世代交代を進行させていくのは限りなく難し いミッションだ。グアルディオラ、 アンチェロッティも世代交代を進めることはできず、 特に前線の顔ぶれはハインケス政権時からほとんど変化がない。 両名の指揮官ともタイトル獲得のミッションを達成するために、 ロッベンとリベリに頼らざるを得なかった。 その2人もベテランの域に入り、ロッベンは33歳、リ ベリは34歳だ。 まだピッチに入れば特別なクオリティを発揮してくれるが、 確実にピークは過ぎている。 2人が揃ってプレイできるのも長くて残り2、3年だろう。 チームは未来を見据えて大きく変化しなければならない時期にある 。

問題は新たなチーム作りを進める間クラブが我慢できるかどうかだ 。 今やバイエルンはすっかりチャンピオンズリーグの優勝候補に挙げ られるようになったが、 それはロッベンとリベリという超人的なアタッカーがいたからだ。 2人が抜けてしまえば攻撃力が大きく落ちることになり、 代わりを務められる選手は世界を探しても限られている。 クラブは一旦ハインケス政権での大成功を忘れ、 チームの現実を見るべきだろう。 ピークを過ぎた2人に頼り切るスタイルで成功を収めるのは難しく、 ましてや世代交代を進めるとなれば取りこぼしも増えるはず。 クラブがこれを我慢できるかどうかだ。 そして後任を務める指揮官にはプライドの高いロッベン、 リベリらのメンタルを上手くコントロールするだけの能力と経験が 求められる。 アンチェロッティでもコントロールできなかったことを考えると、 これは簡単な仕事ではない。

今後の舵取り次第では、 バイエルンのチーム力が大きく落ちる可能性も十分に考えられる。 昨季にはフィリップ・ラーム、シャビ・アロンソも引退し、 ロッベンとリベリの時代も終わりに近づいている。 この偉大すぎる世代からどう脱却するのか。 アンチェロッティを解任したバイエルンには大きな変化が求められ ている。

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