三笘ほどのドリブラーは世界を見てもそうはいない 主力2名が抜けてもブライトンの強さは健在

水沼貴史の欧州爛漫082

水沼貴史の欧州爛漫082

第5節でユナイテッドを撃破したブライトン photo/Getty Images

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デ・ゼルビのスタイルは今季も継続

水沼貴史です。夏の移籍市場で狙い通りの補強ができたクラブ、思うような補強ができなかったクラブ……。さまざまあると思いますが、今季もプレミアリーグが大きな盛り上がりを見せていますね。マンチェスター・シティは相変わらずの強さを見せていますし、日本でも監督経験のあるアンジェ・ポステコグルー率いる新生トッテナムが素晴らしいスタートを切っています。トッテナムは今季、面白い存在となるのではないでしょうか。

そんな中で、私が注目してるクラブのひとつがブライトンです。今回はブライトンについて少々お話をしたいと思います。

ブライトンは今夏の移籍市場において、チームの主力であったMFアレクシス・マックアリスターとMFモイセス・カイセドが、それぞれリヴァプールとチェルシーへ移籍。これは間違いなく、チームにとって大きな痛手だったでしょう。シーズンが始まったばかりでもありますし、彼らの不在の影響はまだまだ色々な面で出ていると思います。
全体的なバランスもそうですが、これまで完封した試合がないところからみでも、特に守備面では少なからず影響が出ていると思います。個で守れていた選手がいなくなってしまったのは非常に大きい。相手のカウンターをくらう際にも、昨季まではカイセドがひとりでなんとかしてしまうシーンがたびたび見られましたからね。しかし、これは仕方がないことですし、チームとしても織り込み済みでしょう。

一方で、昨季もそうでしたが、ロベルト・デ・ゼルビのサッカーはどの選手が出ても同じサッカーができる。これが強みです。主力の2枚が抜けても、しっかり同じスタイルを貫いてくるんだなと思いました。

ドルトムントから加入したMFマフムド・ダフードも面白い選手だと思いますし、ワトフォードから加入したFWジョアン・ペドロあたりもいいなと思います。経験豊富なジェイムズ・ミルナーは言わずもがなでしょう。そして、アンス・ファティの電撃加入もありました。あと、新戦力ではありませんが、MFフリオ・エンシソもウルブズ戦で素晴らしい動きを見せていました。それだけに彼の負傷離脱は残念です。

真ん中の要2枚を失っても徹底的にパスを繋ぐサッカーを披露し続け、ここまで4勝1敗と、今季もしっかりと結果を残しています。しかも第1節と第2節では4得点、さらに第4節と第5節ではニューカッスルとマンチェスター・ユナイテッドという強豪相手に3点を奪っての勝利。第3節ウェストハムは相手のカウンターとGKのセーブが素晴らしく、負けてはしまいましたが、試合内容は決して悪くなかった。相変わらず素晴らしい攻撃を見せていますね。デ・ゼルビのスタイルがチーム全体にしっかり定着していて、本当にすごいなと思います。

懸念材料があるとすれば、スケジュールや選手層の面。今季は、昨季にはなかったヨーロッパのコンペティションが入ってきますからね。試合が進むにつれて、その影響が出てくる可能性はあるかと思います。基本的に、各ポジションに2枚以上の選手がいますが、主将でセンターバックを務めるルイス・ダンクの代えがいないことだけはやや不安。守備の要であるだけでなく、攻撃も彼から始まることが多いですからね。過密日程などは中堅クラブにとっての「壁」ではありますが、クラブがより成長していくためには乗り越えなければならない壁だと思います。デ・ゼルビの手腕やチームとしての「真の力」が試されるかもしれません。

今季も素晴らしい活躍を見せる三笘 photo/Getty Images

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昨季以上に「出力」が上がった三笘

そして、日本人としてやはり目が離せないのが、三笘薫の存在でしょう。第5節終了時点で1ゴールアシストと、今季もスタートから大活躍の三笘。特に圧巻だったのが、プレミアリーグの8月のベストゴールにも選ばれたウルブズ戦のスーパーゴールです。敵陣に入ったところからドリブルを仕掛け、ファウル覚悟で止めに行った相手DFをものともせず、そのままゴールを決め切った。欧州全体を見ても、あんなことができる選手はそうそういないでしょう。

少なくとも2人の選手にユニフォームを引っ張られていましたし、それでも相手をぶっちぎった。昨季以上に「出力」が上がった印象を受けましたし、本当に“ヤバかった”ですね。スピードがあるのもそうですが、コース取りもより洗練されていると思います。勢いに乗っていても顔が下がらず、しっかり道を見つけて相手を切り裂いていける。ドリブルの姿勢をひとつ見ても、本当にすごいなと思います。

しかも、三笘の強みはドリブルだけではありません。これだけ好調なドリブラーは「オレが、オレが」となってしまう選手も多くいます。しかし、三笘はチームのためにプレイでき、球離れもいい。ウルブズ戦では、スーパーゴールを決めた勢いで2点目を狙いに行っても良さそうな場面がありましたが、よりゴールの可能性が高いペルビス・エストゥピニャンへパスし、アシストする姿が見られました。視野が広く、しっかり周囲の状況を把握できている証拠です。自分の力を認めながら、チームとしての「最適解は何か」を考えられる。頭の中の冷静さも三笘の強みのひとつでしょう。

昨季1年間、世界一厳しいとも言われるプレミアリーグを戦い切り、多くの経験を得たでしょうし、オフにきちんと身体づくりもしていたでしょう。そういったものを自分の中でしっかり蓄積させて、サッカー選手としてより出来上がってきているんじゃないかなと思います。これからもどんなふうに変わっていくのか、どんな選手に成長していくのか、楽しみで仕方がありません。

絶対的な選手が2名抜けてはしまいましたが、ブライトンはグループとしてしっかり戦える。プレミアリーグでも、欧州コンペティションでもデ・ゼルビのサッカーは通じると思いますし、今季も多くのサッカーファンを魅了するのではないでしょうか。彼らのサッカーは見ていて楽しいですからね。その中に、日本人の三笘がいることも素晴らしいことですし、こんなに嬉しいことはありません。三笘やブライトンが今後、どのように飛躍するのか楽しみです。

それでは、また次回お会いしましょう!

水沼貴史(みずぬま たかし):サッカー解説者/元日本代表。Jリーグ開幕(1993年)以降、横浜マリノスのベテランとしてチームを牽引し、1995年に現役引退。引退後は解説者やコメンテーターとして活躍する一方、青少年へのサッカーの普及にも携わる。近年はサッカーやスポーツを通じてのコミュニケーションや、親子や家族の絆をテーマにしたイベントや教室に積極的に参加。YouTubeチャンネル『蹴球メガネーズ』などを通じ、幅広い年代層の人々にサッカーの魅力を伝えている

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