[特集/新生日本代表へ3つの提言 03]2023年デビューの5選手 新戦力の可能性と代表定着への課題

 2023年3月23日のウルグアイ戦で新たなスタートを切った日本代表は、これまでに4試合を行っている。見据えるのは2026年W杯で、森保一監督はすでに5名の新戦力を代表デビューさせている。

 瀬古歩夢、バングーナガンデ佳史扶、中村敬斗、森下龍矢、伊藤敦樹。それぞれどんなストロングポイントを持ち、日本代表のなかでどんな役割が期待されているのか。そして、代表定着に必要なものとは。可能性に満ち溢れた5名を考察する。

スイスで経験を積む瀬古 復帰が待たれる佳史扶

スイスで経験を積む瀬古 復帰が待たれる佳史扶

バルベルデのプレスをかわしパスを出す瀬古。スイスでの戦いを経て落ち着きが増している photo/Getty Images

 瀬古歩夢は高校生のころからC大阪トップで活躍し、最終ラインで落ち着いたボールコントロール、正確なフィードを見せていた。2021年には東京五輪を戦うメンバーに選出され、大会後の2022年1月には日本代表に初招集された。

 ところが、ちょうどこの時期にスイスのグラスホッパーへの移籍話が進行しており、代表合宿への参加を辞退。タイミングが合わず日本代表デビューはお預けとなっていたが、1年後のウルグアイ戦でようやく先発することとなった。

 任されたポジションは左センターバックで、板倉滉とコンビを組んだ。足元が正確でボールをさばけるのはもちろん、対人プレイの強さも魅力。ウルグアイ戦では思い切りのいい深いタックルで相手を倒すシーンもあり、メンタルの強さを感じさせた。
 グラスホッパーは3バックが基本で、瀬古歩夢は左右のセンターバックだけでなく、中央で出場することもある。さらに、チームが4バックで戦ったときにはアンカーを務めたこともあり、確実にプレイの幅を広げている。

 森保一監督もこのあたりの能力に注視しており、6月のペルー戦では後半途中から遠藤航に代わって出場し、ボランチを務めている。ただ、その直後にマークを外してミドルシュートを許して失点しており、これは今後への反省材料となった。

「(代表に)食い込んでいくチャンス。競争に入っていかないと」

 3月のシリーズで瀬古歩夢から聞かれた言葉である。左右両足を遜色なく使えて、センターバックとボランチができる。身体が強い選手が多いスーパーリーグ(スイス)でコンスタントに出場を重ね、経験を積んでいる。守備での安定感、簡単にシュートを打たせない厳しさがより磨かれたなら、日本代表での出場が増えていくに違いない。

 3月のコロンビア戦で左サイドバックに抜擢されたのが、バングーナガンデ佳史扶だ。利き足である左足を駆使してのボールタッチが正確で、縦に攻め上がる迫力があり、自分でボールを前に運べる。FC東京では経験豊富な長友佑都を抑え、左サイドバックのポジションを獲得してシーズン当初から出場していた。サッカー選手として良い流れにあるなかコロンビア戦を迎えたが、難しい戦いを強いられた。このシリーズから日本代表はサイドバックが中央に入って攻撃を組み立てるスタイルにトライしており、バングーナガンデ佳史扶にも偽サイドバックの動きが求められた。斜めに攻め上がる場面が何度か見られるなか、持ち味である縦への突破力、自分で運ぶドリブルを見せる場面が少なく、59分には右ヒザを痛めてピッチを退いている。

「 戦術的にチャレンジしているところがあるなか、新たに組んだ選手もいました。新しい選手、新しい戦術で融合しないといけないです」(コロンビア戦後の森保一監督)

 21歳のバングーナガンデ佳史扶はパリ五輪世代であり、今後はそちらがベースになるかもしれない。ただ、その能力を考えればゆくゆくは日本代表ということになる。右ヒザの負傷から復帰後、5月下旬に今度は脛腓靭帯を痛めていまは戦線離脱中となっている。

 スピード、パワー、キレがあるため、自身が考える以上に下半身へ負担がかかっているのかもしれない。まずはコンディションを整え、強い身体を作ってピッチに戻ってきてほしい。

中村の台頭で攻撃力アップ 激戦区で定着狙う森下

中村の台頭で攻撃力アップ 激戦区で定着狙う森下

新たにデビューしたひとり、中村敬斗はエルサルバドル戦でさっそく代表初ゴールをマーク photo/Getty Images

 昨季にオーストリアのLASKリンツで14得点をマークし、今夏の移籍市場でステップアップとなる移籍を果たすと考えられているのが中村敬斗だ。3月のウルグアイ戦で終了間際に三笘薫と代わってピッチに立ち、日本代表デビューを飾った。左サイドを主戦場とするウイングで、三笘薫とはまた違ったドリブルを見せる。

 足元に近いところへボールを置き、相手を見ながら頻繁にボールタッチする。ユラユラと身体を揺らしながら仕掛け、“ここ”というタイミングでボールを運んで相手を抜き去る。仕上げの場面では冷静さが際立ち、ラストパス、フィニッシュともに精度が高い。

 右サイドにボールがあるときのポジショニングも的確で、クロスに右足や頭でダイレクトに合わせるときがあれば、身体を開いてクロスを受け、相手をかわして左足で決めることも。得点パターンが豊富で、日本代表で2試合目の出場となった6月のエルサルバドル戦では久保建英の右サイドからのラストパスを中央に絞って受け、ダイレクトでゴールに流し込んで初得点をマークしている。

 ウルグアイ戦は89分からの出場で、プレイ時間が短かった。それでも、「世界のトップレベルに近づける感覚はなんとなくわかった気がします。(出場は)2 分、3 分でしたが、出るのと出ないのではぜんぜん違います。けっこう自信になりました」と試合後に語っていた。そして、2戦目で初得点である。向上心や吸収力があり、結果を残すたしかな実力を持っている選手である。

 三笘薫と中村敬斗。日本代表は左ウイングに2本のヤリを擁している。しかも、この2本は動きや切れ味が違う。それでいて、どちらもゴールに直結する仕事をする。中村敬斗の台頭で、日本代表にどんな攻撃のバリエーションが生まれるか。試合を重ねるに連れて、存在感が増していくと考えられる。

 Jリーグで好調を維持する名古屋の左サイドを支えているのが森下龍矢で、勢いそのままに6月のシリーズで日本代表入りし、エルサルバドル戦でさっそくデビューした。名古屋では中盤左サイドでプレイするが、代表では左サイドバックでフル出場。試合早々に1人少なくなった相手に主導権を握ったなか、森下龍矢は外連味のない動きを見せた。

 持ち味はスピードとキレのあるドリブル、正確なパス&シュートで、Jリーグ第10節横浜FM戦では左サイドでボールを受け、中央へカットイン。そのまま右足を振り抜き、観衆が思わず立ち上がる強く印象に残るゴールを決めている。

 エルサルバドル戦は「(持ち味を)走力の部分では出せた」(森下龍矢)という一戦に。6-0という展開で守備面では課題を見出すのが難しい試合だったが、相手選手との距離感について収穫があったようだ。

「球際のところでいままでよりももう一歩近くなのか、早くなのかというシーンがありました。たぶんボクが遠くて相手に先にボールにタッチされてアフターでファウルになることがありました」と言葉を残している。

 この試合では三笘薫、中村敬斗と左サイドを形成した。どちらもドリブラーで「個」の力でボールを運べる。彼らが勝負するスペースを埋めてはいけないときがあれば、攻撃参加して追い越さないといけないときもある。この部分に関しては、「三笘選手、中村選手がボールを持ったときに、どれだけ質の高いランニングができるかというところが勝負になってきます」と語る(森下龍矢のコメントは日本サッカー協会の公式YouTubeチャンネル『JFATV』より)。

 伊藤洋輝、中山雄太、バングーナガンデ佳史扶、そして森下龍矢。世代交代が必要な左サイドバックのポジションは、激戦区となっている。今回の経験を持ち帰り、名古屋でどんなパフォーマンスを見せるか。今後のプレイに日本代表定着がかかっている。

待望の大型ボランチ伊藤にかかる大きな期待

待望の大型ボランチ伊藤にかかる大きな期待

追加招集された伊藤だが、体の大きさや数人にマークされても動じない落ち着きは代表の武器になる photo/Getty Images

 2021年に流通経済大から浦和に加入し、開幕戦からポジションをつかんだのが伊藤敦樹で、中盤で強度の高いプレイを見せる。大学時代にセンターバックも経験した身長185センチの大型ボランチで、空中戦にも強い日本代表にいなかったタイプの選手だ。

 中盤でボールを刈り取る守備力があり、潰し役をこなせる。足元の技術力も高く、複数の相手に囲まれても、トラップ際に飛び込まれてもボールをロストしない。逆に、俊敏な動きで状況を打開し、ドリブルでボールを前に運ぶことができる。6月のシリーズで最初に招集されていた川村拓夢がケガで辞退となり、追加招集されることとなった。

 チャンスはすぐに訪れ、大差がついたエルサルバドルの76分に守田英正に代わってピッチに立った。[4-1-4-1]のアンカーで普段務めている役割ではなかったが、約15分間を落ち着いてプレイ。無失点勝利に貢献し、デビュー戦を終えた。

「 試合展開もあったので、出場するチャンスがあるかもと思って準備していました。アンカーでの出場は少し難しさもありましたが、バランスを取ることを考えていました」(伊藤敦樹)

 いまは日本代表で第一歩を踏んだに過ぎない。9月にはドイツ、トルコと対戦し、10月にも2試合が予定されている。たしかな守備力があり、得点力もある伊藤敦樹がどこで起用され、経験を積むことでどんなプレイヤーになっていくか。スケールが大きく、ポテンシャルを考えると欧州のど真ん中で戦うとんでもない選手になっているかもしれない。日本サッカーの発展を考えると、そうなっていてほしい。

 ここでは2023年になってデビューした5名をピックアップしたが、他にもいつサムライブルーのユニフォームを着てもおかしくない選手がたくさんいる。W杯の出場枠が拡大したことを考えると、今後にはじまるアジア予選でも積極的に新戦力が起用されると考えられる。誰が与えられたチャンスをモノにし、日本代表に定着していくのか。大事なのは一過性の活躍ではなく、継続性、所属クラブでのコンスタントな活躍になる。

文/飯塚 健司

電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)283号、7月15日配信の記事より転載

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