[特集/激闘プレミア後半戦 02]上位争いに異変アリ! 明暗分かれるビッグクラブの行方

 プレミアリーグは世界最高のリーグであるとともに、最もタフなリーグと言っても過言ではない。そんな過酷なリーグで上位を争うということは、決して簡単なことではないが、そこでいついかなるときも結果が求められるのがビッグクラブの宿命である。

 ただ、リーグを牽引するビッグクラブの中でも、近年は力の差が如実に出ていたのは確か。常に優勝を争ってきたマンチェスター・シティとリヴァプールが頭一つ、いや、二つ三つ飛び抜け、チェルシーは波がある中でもCL圏内に食らいつく。試行錯誤するマンチェスター・ユナイテッドとなかなか変化を加えられなかったトッテナムは、安定した結果が残せていなかった。

 しかし、今シーズンはプレミアリーグ上位の勢力図が大きく変化。シティは相変わらずの強さだが、2強の片割れであったリヴァプールはリーグ戦の折り返し地点というのに6位に沈み、チェルシーに至ってはまさかの二桁順位だ。一方で、ユナイテッドとトッテナムは個性豊かな監督のもとで着実に力をつけてきているのが見てとれる。

 さらに、今シーズンは新たなクラブ体制で復活を狙う古豪ニューカッスルが上位争いをかき乱す。際立つその堅守でこのままCL圏内をキープするだけでなく、優勝争いに加わる可能性も大いにあるだろう。2022-23シーズン後半戦は、これまでとは違ったプレミアリーグが見られそうだ。

ハーランドのシティ加入でより活かされる周囲の能力

ハーランドのシティ加入でより活かされる周囲の能力

好調なシティを牽引する名将グアルディオラと新エースのハーランド photo/Getty Images

 カタールW杯が開幕した直後の2022年11月23日、マンチェスター・シティはペップ・グアルディオラ監督との契約を2025年夏まで延長したことを発表した。過去に指揮したバルサ、バイエルンはほどよい長さで去ったが、シティでは長期政権を築いている。

 6シーズン中、4度プレミアを制しているのだからクラブが手放さないのは当然で、ペップもいまの職場にやりがいを覚えており、今シーズンも好調で首位をキープするアーセナルから離されず、ピタッと背中に張り付いてプレッシャーをかけている。

 ひとつの戦術にとらわれず、選手にマッチした柔軟なチーム作りができるのがペップで、9番タイプのストライカーであるアーリング・ハーランドが加入した今シーズンはサイド、中盤から手数をかけつつ時間はかけないムダのない攻撃を仕掛けている。イルカイ・ギュンドアン、ロドリ、ケビン・デ・ブライネ、ベルナルド・シウバなどのパスセンスや展開力に、フィル・フォーデン、ジャック・グリーリッシュ、リヤド・マフレズなどの突破力。起点になれるしゴールもできるハーランドが前線の真ん中に加わったことで、彼らの能力が実際に得点へとつながるケースが昨シーズンよりも確実に増している。
 シーズン後半に向けて楽しみな選手として、W杯で声価を高めたアルゼンチン代表のフリアン・アルバレスもいる。先発、あるいは交代出場でCFを務める試合があれば、右ウイングや左ウイングでピッチに立つこともある。第5戦ノッティンガム・F戦、第15節フラム戦と先発した試合ではきっちり得点しており、決定力の高さも証明済み。

 ハーランドとアルバレスはともに2000年ミレニアム生まれ。次世代を背負って立つ両雄で、シティはハイレベルで安定しているとともに、いま以上にクオリティが上がるポテンシャルさえ秘めている。首位を走るアーセナルが少しでも足踏みすると、気づいたら順位が入れ替わっていることになる。

お金の力に頼りすぎない堅実補強が実るニューカッスル

お金の力に頼りすぎない堅実補強が実るニューカッスル

9ゴールでチーム内得点王のアルミロン。シティやトッテナムを相手にもゴールを決めており、貴重な勝ち点をもたらしている photo/Getty Images

 好調を維持するそのアーセナルと年明けに第19節を戦い、0-0で引分けてアウェイで勝点1を得たのが3位のニューカッスルで、リーグ戦13試合負けなしで3位となっている。2021年10月にサウジアラビア資本のクラブとなり、潤沢な資金を得てすぐにエディ・ハウ監督を招聘。そこから1年あまりで上位をキープする力を身に付けている。

 ゲームキャプテンを任されることが多い右SBのキーラン・トリッピアー、ハードワークできるテクニシャンである中盤のブルーノ・ギマランイス、身長201センチの左SBであるダン・バーン(CBを務めることもある)。これらの選手は2021-22シーズンの冬に獲得された選手である。

 以前はCFだったジョエリントンを左サイドにコンバートし、インサイドハーフにショーン・ロングスタッフ、ジョー・ウィロック。こうしたメンバーでほぼ[4-3-3]で戦い続け、ハウ監督のもと高いポジションからプレスをかけるスタイルを構築してチーム力を高めてきた。結果、今シーズンは18試合を戦ってわずか11失点で、これはもちろんプレミアのなかでもっとも少ない数字。強度の高い守備をみせるチームに仕上がっている。

 前線にスピード&パワーを持つカラム・ウィルソンというストライカーらしいストライカーを擁するなか、今シーズンは左利きの右ウイングであるパラグアイ代表のミゲル・アルミロンがチーム最多となる9得点とブレイクしている。献身的な守備、ボールを奪ってからの素早い攻守の切り替え、テクニカルな足元。アルミロンはもともとこうした特長を持ち、よりゴールに近いところにポジションを取るようになったことでフィニッシュに関わるシーンが増え、必然としてゴール数が増えている。

 シーズン後半戦に向けて、明るい材料もある。ケガで長期離脱していたアレクサンデル・イサクが1月7日のFAカップ3回戦シェフィールド・ウェンズデイ戦に出場し、戦列復帰している。続く10日に行われたリーグ杯準々決勝レスター戦にも出場しており、いよいよコンディションを整えてきている。現状の守備力に、イサクの復帰で得点力を増すとしたら、他チームにとってこれほどやっかいなことはない。

 さらには、冬の移籍で負担が大きいインサイドハーフの人材を補強するとのニュースもある。モハメド・クドゥス(アヤックス)、ジェイムズ・マディソン(レスター)、マルクス・テュラム(ボルシアMG)、さらにはアドリエン・ラビオ(ユヴェントス) の名前もあがる。ニューカッスルの資金力を考えれば獲得可能だが、これらはあくまでも噂に過ぎない。

 豊富な資金力を持つが、これまでは堅実な補強をしている。上位のアーセナル、シティと比べると、選手の顔ぶれではやはり劣る。ただ、1年後、2年後はわからない。お金の力はやはり偉大で、今後にクオリティの高い選手が徐々に加わると考えられる。そう遠くない未来に、ニューカッスルは資金力に相応しい成績を収めるチームになっているかもしれない。

監督のカラーがハッキリと出るユナイテッドとトッテナム

監督のカラーがハッキリと出るユナイテッドとトッテナム

忖度しない起用で、就任1年目から着実にユナイテッドを成長させてきたテン・ハーグ監督 photo/Getty Images

 この1年でクリスティアーノ・ロナウド、エディンソン・カバーニ、ポール・ポグバ、ファン・マヌエル・マタなどを放出し、逆にリサンドロ・マルティネス、クリスティアン・エリクセン、カゼミロ、アントニーらを獲得。マンチェスター・ユナイテッドはアヤックスから引き抜いたエリック・テン・ハーグ監督のもと、時代にマッチしたハイプレスと素早いトランジションでゴールを強襲するスタイルでCL出場圏内をキープしている。

 というか、14日のマンチェスター・ダービーの結果によっては、今後アーセナルを追いかける一番手になるかもしれない。テン・ハーグ監督はチーム力アップにつながらない戦力をシビアに見極め、結果を出すことで己の正しさを証明してきた。試行錯誤していた時代を経て、ユナイテッドはプレミアの主役へと戻ってきたと言っていい。

 昨シーズン途中にアントニオ・コンテ監督が就任したトッテナムも粘り強さ、勝負強さを取り戻し、CL出場圏内をしたたかにうかがっている。期待された新加入のリシャルリソンは負傷もあってここまで不完全燃焼となっているが、ハリー・ケインが18試合15得点とハイペースで得点し、頼もしくチームをけん引している。

 ただ、大崩れせずプレミアでもCLでも上位に顔を出すが、どうしてもタイトルを取れないのがトッテナムで、2007-08にリーグカップを制したのが最後となっている。ケイン、ソン・フンミン、イヴァン・ペリシッチなど。経験ある選手が揃っている。W杯でまたも負傷したリシャルリソンについても、どうやら早期復帰が見込まれる。個人タイトルではなく、そろそろチームとしてなんらかのタイトルが欲しいところだ。

 この2チームは監督のカラーがハッキリと出はじめている。後半戦が丸々残っていることを考えると、優勝争いに食い込んでいく可能性はまだまだありそうだ。

リヴァプールとチェルシーは冬の補強が浮上の鍵か

リヴァプールとチェルシーは冬の補強が浮上の鍵か

新戦力のガクポはリヴァプールを浮上させられるか photo/Getty Images

 これらのチームと対照的に、リヴァプール、チェルシーは苦戦を強いられている。リヴァプールはユルゲン・クロップが8年目のシーズンを迎え、過渡期を迎えている。サディオ・マネがいなくなり、主力の年齢が上がり、これまで志向してきたゲーゲンプレスも対策を練られ、うまく外されて失点するシーンも目立つ。

 とはいえ、ダルウィン・ヌニェスが確実にフィットしてきていて、冬の移籍マーケットではコーディ・ガクポを補強している。ブレないスタイルがあるだけに、第15節トッテナム戦から第18節レスター戦にかけて4連勝したように、巻き返す力がある。リヴァプールはここから徐々に順位を上げてくるか。

 一方、トーマス・トゥヘル監督を解任し、ブライトンからグレアム・ポッター監督を引き抜いたチェルシーには厳しいシーズンとなっている。状況を打開するべく、今冬すでにダトロ・フォファナ、ジョアン・フェリックスなどを補強しており、積極的に動いている。

 ポッター監督を批判する意見もあるが、その手腕はブライトンで証明されている。中位を抜け出せない現状を判断して監督交代となると、いよいよ迷宮にさまよい込むかもしれない。ただ、いまのチェルシーは選手に迷いがあるのか、動きに元気がないのも事実。新戦力を加えて、ポッター監督の戦術がオートマチックに機能するようになるまでどれぐらいの時間がかかるのか。うかうかしていると、ヨーロッパリーグやヨーロッパカンファレンスリーグの出場権も逃すことになる。


文/飯塚 健司

電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)277号、1月15日配信の記事より転載

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