[特集/CLクライマックス1999-2019 04]うじきつよしが見た、TVに映らないCLの魅力

 チャンピオンズリーグ(以下CL)は、全サッカーファンを惹きつけてやまない。その魅力とは、いったいどこにあるのだろう。CLハイライト番組のMCを長年務め、13年間にわたって現地で取材を続けたうじきつよし氏に話を聞いた。TVだけではわからない、CLの魅力とは?

W杯ともまた違う緊張感 これがCLか!と思い知る

W杯ともまた違う緊張感 これがCLか!と思い知る

05-06シーズン決勝では、前半18分にアーセナル守護神レーマンが退場。波乱のゲームに photo/Getty Images

—正式に「UEFAチャンピオンズリーグ」となったのは96-97シーズンからです。うじきさんは、いつ頃からCLをご覧になっていたのですか。



「’98年のフランスW杯を現地観戦したのですが、その余韻冷めやらぬままに、のめり込むようにCLをチェックするようになっていきました。しっかり観るようになったのは、98-99シーズンからです」

—98-99シーズンと言えば、マンチェスター・ユナイテッド×バイエルンの決勝が有名ですね。

「鮮明に蘇るのは、あの“カンプノウの奇跡”ですよね。90分までバイエルンが1-0でリード。ほぼ決まったかと思ったら、なんと3分の間に連続2得点の大逆転劇です。とんでもないものを観た興奮が収まらず、朝っぱらから友達に電話かけまくったなあ(笑)。当時は今ほどCLもメジャーじゃなかったから、話の通じるヤツと、とにかく喋りたくて」

—あの逆転劇は、今でも語り草になっています。



「鉄人マテウスの“メダル外し”は、その後の敗者の定番になりましたね。その他にもスペクタクルなゲームは数々ありますが、あのドンデン返しは未だにミラクル度ナンバーワンだと思います」

—初めて現地へ観戦に行かれたのは、いつですか。



「05-06シーズンの、アーセナル×バルセロナ戦です。そのシーズンのスタートからスカパー!の『UEFAチャンピオンズリーグ・ハイライト』のMCに抜擢していただいて、その後17-18シーズンまでの13年間、全決勝ゲームを現地で体験・取材する幸運に恵まれました」

—05-06シーズンの決勝は、パリ郊外のサン・ドニで行われました。



「中継スタッフとともに前日練習や記者会見から取材したのですが、練習ではバルサのロナウジーニョが、最後まで一人居残ってフリーキックを練習していたのが印象的でした。ほぼすべてのキックが狙い通りのコースでゴールに吸い込まれていく。その技術に惚れ惚れしたものです。決勝本番では、まさにそのエリアからのフリーキックをゲットしたんです。ところが、ゴールを大きく外してしまった。CL決勝のプレッシャーは、彼のレベルに至っても大きくのしかかってくるのだと、妙に納得したのを覚えています」

—記者会見にも出席されたのですね。



「アーセナルのヴェンゲル監督に対しては、明らかに地元記者も好意的。『ウェルカムホーム!』と声がかかるほど歓迎ムードでした。それに対し、バルサのライカールト監督に対しては一転ピリピリムード。しかし、各国記者の英語、フランス語、スペイン語等での質問に通訳も介さずスラスラと答えてしまうのにはビックリしましたね! 途中思わず『あれ?今何語で答えればいいんだっけ?』なんて聞き返す一幕も(笑)」

—試合当日の会場の雰囲気、サポーターの様子はいかがでしたか。



「やっぱりアンリへの声援が絶大で、まるでアーセナルのホームのようでした。その勢いに乗ってアーセナル有利かなと思ったら、いきなりGKのレーマンが退場になっちゃった。でも10人になっても変わらないテンション。しかもアーセナルが先制。すごかったですね」

—でも試合は結局、バルサがひっくり返してしまいます。



「後半、ラーションが入るとバルサのムード、リズムがぐっと良くなり、明らかに流れが変わったのを感じました。エトーの得点シーンは、まるでそこだけ違うオーラに包まれたよう。異次元のスピードでした。同じサン・ドニでW杯フランス大会の決勝も観たけれど、クラブチームならではの駆け引きがあり、まったく別モノの見方をしなきゃいけないんだなと感じました。こりゃあ奥が深そうだ、これがCLなんだと」

TV観戦ではわからないもの それはサポーターの熱気

TV観戦ではわからないもの それはサポーターの熱気

06-07シーズン決勝。アテネ・オリンピックスタジアムのゲートに群がるリヴァプールサポーター photo/Getty Images

—TV観戦だとどうしても伝わりづらいのが、現地でのサポーターの盛り上がりです。実際に目の当たりにして、いかがでしたか。



「優勝を狙う強豪チームの観戦が多かったせいか、サポーターの要求がものすごく高いと感じました。選手個々のプレイに対して、かなり辛辣な“ご意見ご要望”が飛び交うんです。特にプレミアのサポーターはシビアで、ミスには瞬時に反応します。万単位の人間が一斉に発する“落胆の呻き”は、中継音声とはケタ違いの迫力です」

—選手にとっても、相当なプレッシャーでしょうね。



「もし自分がピッチにいたら、立ち直れないと思うくらいですよ。実際、動揺が見て取れる選手もいました」

—試合前などピッチ外の雰囲気も、相当なものがあると思います。



「06-07シーズンの、リヴァプール×ミランの決勝当日の出来事が思い出されます。CLといえば、会場で売り出されるオフィシャルグッズがお土産の定番なんですけど、とにかくどこの国でも列を作って並ぶなんてことはなく、常に混乱します。このアテネでの決勝のときは、一段と酷かった」

—文字通り、殺到するわけですね。



「もう、会場と同時にショップに押し寄せる人たちで、大混乱ですよ。お金のやり取りもままならない。怒号が飛び交う中で、ついにパニックになった売り子が逃げ出してしまって、観客たちはグッズを取ろうと二重三重に折り重なり……。仮設ショップが倒壊してしまったんです。我先にとグッズを握りしめた観客は、そのまま蜘蛛の子を散らすように逃走!」

—すごい話ですね……。ちなみに、何かお土産はゲットできたのでしょうか。



「けっこう前の方に並んでたんですけど、グイグイ押されてあっという間にダンゴ状態の最前列へ。目の前のショップの壁がバキッ!と傾いて、一瞬できた隙間に降ってきたTシャツを2枚キャッチして、ササッと脱出しました。もちろん、お金はあとで払いました(笑)。このせいではないと思うんですが、翌年のモスクワでは、騎馬警官と軍隊が物々しい警備を敷いていて、ビックリでしたね」

13-14ファイナルは稀に見るアットホームな決勝!?

13-14ファイナルは稀に見るアットホームな決勝!?

リスボンで仲良く盛り上がるレアルサポーターとアトレティコサポーター。和気藹々とした雰囲気 photo/Getty Images

—もっとも印象深いファイナルはどれですか。



「13-14シーズンの決勝。レアル・マドリード×アトレティコ・マドリードの同国・同都市対決ですね。とにかく、CL史上稀に見るユニークな決勝だったと感じています」

—それは雰囲気が、ということでしょうか。



「そうです。同じ街のクラブ同士で、しかも勝手知ったる隣国のポルトガル・リスボン開催。チームもサポーターも移動が楽チン。中にはレアルとアトレティコのサポーター同士が、和気あいあいと車に同乗してきたり、今までの決勝にはないリラックスムードがとても新鮮でした」

—ライバル同士なのでバチバチやっているかと思いきや、そんなこともあるのですね……。



「カードによっては、前日の街中のパブやレストランでサポーター同士のにらみ合い、一触即発のシーンがあったり、ときに本当に暴れたりしますよね。でも、このダブル・マドリードのときは、パブでもホテルでも両サポーターが違和感なく一緒になって、とにかく楽しそうだったのが印象に残っています」

—ゲーム内容は、これまた印象的な逆転劇でした。



「お互い手の内を知り尽くしているので、90分まではかなり地味な展開になりましたけど。先制点を守り愚直にプレスをかけ続けたアトレティコ、なんとかそれをこじ開け、延長に持ち込んで勝利したレアル。その全てを満喫した両サポーター。この年のリーガを祝福するような、稀に見るアットホームなフィナーレでした」

日本人も、小国の選手もCLの舞台で勝負できる!

日本人も、小国の選手もCLの舞台で勝負できる!

ついに日本人選手同士が激突。シャルケの内田篤人とインテルの長友佑都 photo/Getty Images

—日本人選手についてもお伺いさせてください。誰の、どんなプレイが印象に残っていますか。



「まず浮かぶのは、中村俊輔が05-06シーズン、ユナイテッドに食らわせた2試合連続の直接フリーキックです。日本のみならず、セルティックの歴史にも永遠に刻まれる金字塔でしょう!」

—今でもあれを観ると、スカッとした気持ちになれますね。



「内田篤人も忘れちゃいけないと思います。シャルケに移籍した10-11シーズン、決勝ラウンド1回戦のバレンシア戦で見せた存在感。あっという間に右サイドのファルファンとの連携を作り上げて、ベスト8進出に大きく貢献しました。その後のベスト4を賭けたインテル・長友佑都との直接対決も、夢のような展開でしたね」

—ついに日本人選手もここまで来たか、という感慨がありました。



「自分のストロングポイント、得意なスタイルを生かせれば、CLのステージでも勝負できることを何人もの日本人選手が証明してくれた。後に続くJリーガーや、ジュニアたちにとって何よりの目標になっていると思います」

— CLの意義とは、そんなところにもありそうですね。



「世界最高峰の選手たちが繰り広げる、世界最高峰のプレイが見られる。そして停滞することなく、常に新しい挑戦者、戦術が生み出されます。しかも限られたビッグクラブだけでなく、小国のリーグからダークホースが現れるかもしれない可能性も秘めています」

—いわゆる5大リーグ以外の、小国のクラブの活躍で印象深いものはありますか。



「08-09シーズンにチーム初の本戦出場を決めた、ベラルーシのバテ・ボリソフです。出場国のUEFAランキングでは最下位でしたが、ユヴェントスとのホームゲームで2-2、さらにアウェイでも0-0に持ち込む大快挙! サポーターが大喜びしていたのも微笑ましかったですね」

—今季は、中堅クラブとしてイタリアのアタランタが奮闘しています。



「彼らのサッカーには、CLを制するためのヒントがあるのでは?と思っています。攻守の切り替えを切れ目なく。絶え間なく動いて相手にチャンスを与えない。それはクロップ監督率いるリヴァプールにも近いかなと思うけど、プラス『なんだかスゴく頑張る』!(笑)。今後、分析が進むのも楽しみにしています。しかし心配は、彼らのホームタウン、ベルガモが新型コロナウイルスの感染拡大の中心になってしまっていることですね」

—今季は再開が危ぶまれている状況で、心配しているファンも世界中にいます。



「スケジュール的にもまったく先が読めない状況ですよね。もし収束しても、万全なコンディションに戻るには時間が必要になる」

—もし無事に再開できるとしたら、ズバリ優勝はどのクラブだと思いますか。



「出場クラブの国はすべて、感染症による大打撃を受けています。そんな中で勝ちきる条件といえば、やはり経験とメンタルの強さかなと思うんですよね。プレミアで独走中のリヴァプールを破った、アトレティコを推したいと思います!」

うじきつよし:1957年9月18日生まれ。タレント・俳優・ミュージシャン。1980年「子供ばんど」でデビュー。サッカーに造詣が深く、スカパー!のハイライト番組「UEFAチャンピオンズリーグ・ハイライト」のMCを務めた。

※電子マガジンtheWORLD244号、4月15日配信の号より転載

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