[特集/アトレティコの現在地 01]クラブに強者のメンタリティを植え付けた 闘将シメオネのアトレティコ10年改革

 ラ・リーガで2009-10シーズンは9位、2010-11シーズンは7位。2011年の12月にディエゴ・シメオネが監督に就任するまで、アトレティコ・マドリードはリーガにおける“古豪”という印象も強かった。だが、アルゼンチンの闘将の下で近年のアトレティコは再びかつての栄光を取り戻している。シーズン途中からの指揮となった2011-12シーズンこそ5位に終わったが、シメオネはそこから8シーズン連続でトップ3をキープ。2013-14シーズンには18年ぶりのリーグ優勝も成し遂げた。

 シメオネがアトレティコの監督に就任して、今季はちょうど10シーズン目に当たる。シメオネがアトレティコで歩んできた道のりは、決して平坦なものではなかった。どれだけ先鋭的なアイデアを打ち出しても、いつかはその戦術が通用しなくなる時がやってくる。堅守速攻は彼らの代名詞だったが、それだけでは勝てない時期も。では、そんな状況に直面しながらも、なぜシメオネはひとつのクラブで未だに結果を残し続けることができているのか。その理由は、彼が継続してきた試行錯誤にある。

闘将が作り替えた[4-4-2] 堅守速攻で一世を風靡

闘将が作り替えた[4-4-2] 堅守速攻で一世を風靡

アトレティコの監督就任10シーズン目を迎えたシメオネ。今季は開幕から盤石の体制を築き、ここまでリーガで首位をキープしている photo/Getty Images

 2011-12シーズンの冬にディエゴ・シメオネ監督が就任して、アトレティコ・マドリードの歴史は変わった。このシーズンはラ・リーガで5位だったが、ヨーロッパリーグでは優勝。シメオネ就任とともに堅守のスタイルが明確化した。

 2012-13シーズンはジエゴ・コスタ、ティボー・クルトワ、コケ、アルダ・トゥランらが躍動してリーガは3位。国王杯で17年ぶりの優勝。

 そして2013-14、このシーズンはシメオネ指揮下の最初のピークになるとともに、その後の停滞を予感させている。

 得点源だったラダメル・ファルカオが退団、代わりにバルセロナからダビド・ビジャが加入。ジエゴ・コスタとビジャの2トップによる[4-4-2]が機能し、18年ぶりのリーガ優勝を成し遂げた。シメオネがリメイクした[4-4-2]の戦術的な意味は大きかった。

 アトレティコが作り替える前の[4-4-2]は、MFとDFによる[4-4]のブロック守備が定番だった。言い方を変えると、FWは守備ブロックに組み込まれていなかった。FWも相手DFに対しての守備はするが、ボールが自分より自陣側に送られてしまえば守備の任務は終わりで、前線に攻め残るのが常だった。しかし、これでは8人の守備ブロックと2トップの間のスペースを自由に使われてしまう。そのため[4-2–3-1]のトップ下にこのスペースの守備をさせる形が多くなり、[4-4-2]は廃れる寸前だった。

 しかし、シメオネ監督は[4-4-2]を復活させている。解はシンプルだった。8人の守備ブロックを10人に増員した。つまり、FWは前線で守備をした後、ボールが自分を越えたらMFの手前のスペースを埋めるべく後退した。FWが下がることで必然的に相手のセンターバックはフリーになる。だが、そこへバックパスするとアトレティコのハイプレスのスイッチが入る。FWは再びDFにプレッシャーをかけ、後続のMF、DFが一気に押し上げていく。

 [4-4-2]のブロック守備の基調はミドルゾーンでのプレッシングだ。すでに1980年代の後半にはイタリアのACミランが完成形を示し、やがて世界中のチームがそれに追随していった。アトレティコの[4-4-2]もミランがモデルといっていい。ただ、シメオネはミドルゾーンと同じ作法で低いゾーンでの守備を安定させた。さらに、FWの守備タスクを増やした10人ブロックと、相手がバックパスしたときのハイプレスを加え、ハイプレス、ミドルプレス、ロープレスを有機的につなぎ合わせることに成功した。

 一糸乱れぬポジショニング、球際の強さ、反転速攻の鋭さ。ガリガリと相手のパスワークを削り取り、錐で穴を開けるようなカウンターアタックは、バルセロナ方式のポゼッション・スタイルを追随しはじめたチームにとって明らかな脅威だった。

 チャンピオンズリーグのファイナルは、同じ街のレアル・マドリードとの対決。リーガを制したアトレティコのほうに期待感はあった。ところが……。

苦悩のキッカケとなったCL決勝 強みを活かせぬ試合が急増

苦悩のキッカケとなったCL決勝 強みを活かせぬ試合が急増

2013-14シーズンにCL決勝まで駒を進めたアトレティコだが、レアルにボールを持たされることで強みを発揮できず。先制点を挙げるも、最終的には延長の末に1-4で敗れた photo/Getty Images

 2013-14シーズンのファイナルは、BBCを擁する攻撃力のレアルと鉄壁の守備を誇るアトレティコの“ほこたて対決”になるはずだった。もしそうなっていたら、おそらくアトレティコが勝っていたのではないかと思う。ところが試合が始まってみると、矛を持ったのはむしろアトレティコだった。

 2シーズン後のファイナルもほぼ同じ構図といっていい。レアルはアトレティコにボールを譲り、いわば矛と盾を強制交換するゲームに臨んでいる。どちらも長所を捨てた形の、本来の立場を逆転させた対決は最終的にレアルが勝利した。2013-14シーズンは延長の末に4-1、2015-16シーズンはやはり延長1-1からのPK戦だった。レアルの勝利はどちらも際どい。勝因はアトレティコの得意なゲームにしなかったことだろう。

 レアルはアトレティコほど堅守ではないが、ある程度の守備力はある。カウンターの威力は世界屈指。相手にボールを渡すのは本来の戦い方ではないが、どちらもマイナスならオールマイティなレアルのほうが残るものが大きい。土壇場で臆面もなく対戦相手の「アトレティコ」に扮したレアルの図々しさは、さすがにCLに勝ち慣れているだけのことはあった。アトレティコの最大の障壁は同じ街のクラブだった。

 最初のファイナルから、アトレティコはCLにおいて4年連続でレアルに行く手を塞がれている。それだけでなく、彼らとどう戦えばいいかをレアルから学んだチームは多かった。アトレティコにはボールを持たせてしまえばいい、レアルのように勝てるかどうかはべつにして、それでとりあえずアトレティコを困らせることはできる。

 レアル、バルサにも互角に戦える力を蓄えたアトレティコだったが、リーグ戦はライバルに勝てばいいわけではなく総合勝ち点の勝負である。格下相手の取りこぼしがあるかぎり、滅多に取りこぼさないレアルやバルサの上を行くのは困難だった。

堅守速攻からの大転換 “両刀型”への進化

堅守速攻からの大転換 “両刀型”への進化

長きにわたってアトレティコの中心的存在となっていたガビ。少し地味ながらも、高い戦術理解度を武器にシメオネのチームを支えた photo/Getty Images

 堅守速攻だけではレアル、バルサの上には行けない。攻撃力の増強は、2度のCLファイナルで同じ街のライバルに突き付けられた課題だった。

 そのなかで、シメオネがまず手を付けたのはプレイゾーンの移動である。

 ボールを左右どちらかのサイドへ展開したら、サイドはそのまま変えない。そのまま同サイドを攻め切るべく、フィールドの半分にほぼ10人が移動した。攻撃は広く、守備は狭く。これが攻守の原則だが、アトレティコは原則を無視して狭く攻撃しはじめた。

 スペースは狭くなり、味方を増やせば敵も増えるので、ボールサイドを崩し切るのは容易ではない。だが、それでいいのだ。上手く狭小地域を突破できればゴール前は相手を釣りだしているぶんスペースがあり、より決定的な形でフィニッシュができる。ただ、シメオネの狙いはそれではなかったはずだ。

 わざわざ攻め切るのが難しい狭小局面を作ったのは、アトレティコの攻撃力に期待したのではなく守備力に期待したに違いない。狭く攻撃しているぶん、そこでボールを失ってもただちにプレスできる。守備力には自信がある。そして、奪い返した時点で相手の陣形は崩れているので最初よりも攻撃がしやすい。

 相手がアトレティコにボールを渡すなら、相手陣内へ攻め込んで、そこで得意の守備力を発揮すればいい。それは得点力増強にもつながる。純粋な攻撃力でレアル、バルサの上を行くのは無理としても、高い場所の狭小局面でのもみ合いになればアトレティコに分がある。格下相手の取りこぼしも減る。そういう算段だ。

 だが、シメオネの大胆なアイデアもそれほどの効果は得られなかった。

 2017-18シーズン、リーガは2位。ELは優勝した。ソシオの数は10万人を超え、ライバルのレアルを上回った。シメオネ監督が率いてからの魂のこもったプレイぶりは多くの支持を得て、口癖の「1試合1試合」は流行語にもなった。3強の一角としての地位は確立された。ただ、このシーズンを最後にクラブの象徴ともいえるガビとフェルナンド・トーレスが退団している。

 とくにシメオネのサッカーを体現する存在として、ガビの貢献は計り知れなかった。地味な選手だが、その地味さが“チョロ・イズム”だった。

 2018-19は転換のシーズンになる。トマ・レマル、ロドリを補強したアトレティコは、堅守速攻の看板を外す。ある意味、危険な賭けだった。守備に軸足を置くことをやめ、レアルのようなオールマイティへの一歩を踏み出したのだが、見た目にアトレティコは「普通のチーム」になってしまったといっていい。リーガは再びの2位。CLはベスト16。今回の相手はレアルではなかったが、ユヴェントスへ移籍したクリスティアーノ・ロナウドの3ゴールで沈められた。

 2019-20シーズンはさらに攻撃力を増強。長年チームを支えてきたディエゴ・ゴディン、フィリペ・ルイス、ファンフランが退団し、アントワーヌ・グリーズマンもバルサへ移籍した。ジョアン・フェリックス、マルコス・ジョレンテ、レナン・ロディ、キーラン・トリッピアーの新戦力を加え、完全に新たなサイクルに入った。リーガは3位、CLはベスト8という結果だった。

 そしてシメオネ体制10年目の2020-21シーズン、アトレティコは着実に勝利を重ね、第27節(3月14日現在)時点で首位を快走。レアルとバルサよりも抜きん出た存在として、ついに今季はリーガの主役を演じている。

 ルイス・スアレスの加入が大きい。FWの守備タスクを増やして[4-4-2]を復活させたシメオネだが、今度はスアレスの守備を軽減する3バックのシステムを打ち出してここまでを戦い抜いてきた。

 かつてはレアル、バルサと違う道で活路を開いてきたアトレティコだが、ついに正面から攻め合って勝つスタイルにその戦術を変化させている。

 成功と苦難の時期を繰り返しながらも試行錯誤を重ね、シメオネは監督就任からいくつもの解を見つけ出してきた。今季はいわばそういった“10年改革”の集大成となるシーズン。勝ち数も昨季記録した「18」をすでに上回っており、成果は確実に挙がっているといっていい。

 その時代や選手に合わせて、柔軟な思考で環境に適応する術の持ち主。1試合1試合を積み重ねてここまで来たシメオネは、偉大な指導者に違いない。

文/西部 謙司

※電子マガジンtheWORLD第255号、3月15日配信の記事より転載

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