[特集/アトレティコの現在地 02]負けないアトレティコから勝ち切るアトレティコへ リーガ独走の今季戦術を徹底分析

 各選手がハードワークし、堅守をベースにボールを奪ったら素早くカウンターを仕掛ける。闘将ディエゴ・シメオネ監督が作り上げたアトレティコ・マドリードには、そんなイメージが定着していた。昨シーズンまでは。

 しかしラストピースだったルイス・スアレスを手に入れた今シーズンは違う。第26節を終えて50得点はバルサに次いで2番目に多い数字で、これまで苦しんできた攻撃面、得点力が改善されている。そのうえで、リーガ最少18失点としっかりと堅守も維持している。2位バルサに勝点6差をつけており、攻撃的な顔も見せるようになったアトレティコは2013-14シーズン以来の優勝に向けて力強く前進している。

3バックでバルサを完封 布陣に柔軟性が出てきた

3バックでバルサを完封 布陣に柔軟性が出てきた

堅守を維持したまま得点力アップに成功し、優勝へ向けて突き進む photo/Getty Images

 メンバーはほぼ変わっていないが、今季のアトレティコは選手の立ち位置、布陣については変化がみられる。これまでの基本布陣は、選手の距離感がよく、組織的で統率の取れた[4-4-2]だった。そして、展開によっては中盤のサイドでプレイする選手が最終ラインまで下がって[5-3-2]で守るという選択をしていた。

 コロナ禍で第3節グラナダ戦(○6-1)が開幕戦となった今シーズンも最初は[4-4-2]が選択され、ジョアン・フェリックス、ジエゴ・コスタという2トップだった。加入したばかりのスアレスはベンチからのスタートだった。

 だが、続く第4節ウエスカ戦ではジョアン・フェリックス、スアレスの2トップになり、スアレスを軸とした攻撃へと徐々に変化していった。第7節ベティス戦は[4-3-3]でスアレスを頂点に、右にアンヘル・コレア、左にトマ・レマル。前線がこうした変化を遂げるなか、最終ラインは基本4バック(試合中の可変あり)だったが、ここにもついに手が加えられた。
 第9節カディス戦( ○4-0)で[3-4-2-1]を採用。最終ラインは右ステファン・サビッチ、中央ホセ・ヒメネス、左マリオ・エルモソ。中盤がコケ、エクトル・エレーラ、キーラン・トリッピアー、サウール・ニゲス。前線がスアレス、ジョアン・フェリックス、マルコス・ジョレンテという布陣だった。

 あるいはこれは、続く第10節バルサ戦に向けたしたたかな準備だったのかもしれない。カディス戦に続いて[3-4-2-1]で戦い、スアレスを欠いていたにも関わらずヤニック・カラスコが決勝点を奪い、バルサに1-0で競り勝ってみせた。

 この試合のアトレティコは、単純に中盤両サイドのトリッピアー、カラスコが最終ラインに組み込まれて5バックで守るのではなく、バルサを相手にアグレッシブな守備&攻撃を仕掛けることで守備一辺倒にはなっていなかった。右のトリッピアー、左のカラスコはともに運動量が多く、上下動できる。カバーするのがポジション取り、状況判断力に優れるコケ、サウール・ニゲスであれば、安心して攻撃参加できる。

 バルサにも勝利したことで確かな手応え、感触を得たシメオネ監督はここから[3-4-2-1]を数試合続け、勝利を重ねた。しかし、第13節レアル戦には0-2で敗れている。すると、第14節エルチェ戦では原点に戻るかのように[4-4-2]を選択し、しっかりと3-1の勝利を収めて連敗することはなかった。

攻撃面はまだまだ伸びる J・フェリックスがカギか

攻撃面はまだまだ伸びる J・フェリックスがカギか

アトレティコの攻撃をより進化させる存在として期待がかかるJ・フェリックス photo/Getty Images

 アトレティコの3バックが効果的なのは、中盤両サイドが献身的に上下動できることにある。そういった意味で、やはり右トリッピアー、左カラスコの存在が効いている。ただ、両名ともに後半戦になって負傷離脱した時期があり、右はクロアチア代表で驚異的なスタミナを持つシメ・ヴルサリコ、前方への推進力があるジョレンテ。左はサウール・ニゲス、ロディなどでカバーするも、本来の攻撃力を発揮できず引分けの出現率が増えている。

 そうしたなか、3月7日には第26節のマドリードダービーがあった。1週間前の第25節ビジャレアル戦(02-0)を[3-1-4-2]で戦っていたが、前回0-2で敗れているライバルとの一戦を迎えて、シメオネ監督は[4-1-4-1]を採用。スアレスの1トップを起点に攻撃を仕掛けるスタイルで臨んだ。最終ラインは右からトリッピアー、サビッチ、フェリペ、エルモソ。今季は3バックでも試合中にトリッピアーが下がってきてこのカタチになることもあったため、違和感はなかった。

 試合は15分という早い時間帯にスアレスが先制点を奪ったことで、アトレティコにとってはカウンターから追加点を狙えばいい展開になった。そのため、ボールポゼッション、シュートでレアルに押されたが、言わずもがなこうした劣勢には慣れている。攻撃的なサッカーを貫いて完成度を高めてきたチームであれば、劣勢になると慌ててしまうかもしれない。アトレティコは粘る、耐えるを知っているチームで、そのうえに得点力を積み上げてきた。終了間際に失点して1-1で終えたが、これは悪くない結果だった。

 ここから中二日で行われた第18節順延分アスレティック・ビルバオ戦は[4-1-4-1]の中盤がより攻撃に傾いた[4-3-3]で戦い、2-1で勝利している。トップ下4枚のうち、右サイドのジョアン・フェリックス、左サイドのカラスコが高いポジションを取り、ジョレンテ、レマルの内側2枚はインサイドハーフとなり、コケがアンカーを務めた。

 布陣、立ち位置が変わっても、選手たちに求められる献身性は変わっていない。長年をかけて築いてきたベースがあったうえで、シメオネ監督は必要に応じて選手の並びを変えている。期待に応えるべく、最終ラインではサビッチ、中盤ではコケ、サウール、カラスコといった指揮官の考えをこれまでもピッチで体現してきた経験豊富な選手たちが軸となり、根本となるスタイルを支えている。

 そして、なんといっても勝利への意欲が強く、実に献身的。特に、常にゴールを欲しているスアレスである。ラダメル・ファルカオ、アントワーヌ・グリーズマン、D・コスタ、ダビド・ビジャ。過去、チームには高い決定力を持つ選手がいた。堅守のチームがタイトルを獲得するためには、引分けを勝利に結びつけるためには、スアレスのようなストライカーが必要だったのだ。

 そういった意味では、攻撃面にはもっと伸びしろがある。おそらく、戦い方に変化を加えられるジョアン・フェリックスがよりフィットしたとき、アトレティコはより強者となる。シメオネ監督はこの21歳について、「チームに貢献できることがまだたくさんある。前線との連携について、精度を高めてほしい」と期待を込めてアドバイスしている。

 前線とはつまりスアレスやアンヘル・コレアのこと。アトレティコというチームのなかで、いかに自分の能力を発揮するか。シメオネ監督は「他の選手が持っていない特別な才能を持っている」ともコメントしている。チーム状態がよく、いろいろな布陣で戦えている今シーズンに、より高い評価を得られる活躍をみせたいところだ。

 かつての堅守速攻の頑強さを維持しながら、強者のプレイスタイルに転じたアトレティコ。しっかりと勝ち切る試合が多く、もはや格下相手に取りこぼしを心配しなければならないチームではなくなった。レアル、バルサと同じ土俵に立ったアトレティコは、ここから新たな挑戦を始める。

文/飯塚 健司

※電子マガジンtheWORLD第255号、3月15日配信の記事より転載

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