「 わかられたら辞めるよ」
風間監督はかつてそう言っていた。ファンやメディアがわからなくてちょうどいい、わかられたときには次のわからないものを作っていなくてはいけない。だから見ている人にも面白いと。
「シュートが入りそうだなと思いながら見ていて入るより、あっ入っちゃったのほうが面白いでしょ?」
ファンが「入っちゃった」と感じる速さ。そういうシーンをたくさん作りたいと風間監督は言う。わからないほうが面白いと。
いわゆる風間サッカーのベースは、人とボールを操ることにある。サッカーの要素を最小限にすれば人とボールしかない。人とボールの原理を知り、それを利用する。右へ動こうとする人は左には動けない。ボールの上を触ればボールは動けなくなる。そうした人とボールの原理原則はサッカーが始まったときから変わらない普遍的なものだ。それを徹底的に追求する。培った技術を発揮しやすいツールとして「枠」があり、その「枠」はシステムを収めるには少し小さい。枠内でボールを動かし人も動けば、システムは勝手に崩れる。相手も崩れる。風間監督がいわゆるシステム論を語らないのは、名古屋のサッカーでそれは意味がないからだ。
風間監督は「枠は変化」と言う。変化は「目」から始まると考えられる。それまで見えていなかったものが見えるようになる。目の変化が速度を生むのだが、その速度に技術が後からついていくことになる。
「グラウンドの中は、見えるものと技術を持っている者が自由になる」
風間監督にとって、「自由」はサッカーの根本で、楽しさ、面白さだ。そこは譲らない。だから、見えているなら「やめておけ」とは言わない。現在地に安住していては本当の自由は手に入らないからだ。しかし、目が速くなり、予測が効くようになり、技術もついていけば、チームは進化するが、そこからさらに目は速くなって技術は次の壁にぶち当たる。おそらくその繰り返しなのだ。
これまでサッカーの事象を独自の言葉で定義してきた風間監督だが、「枠」に関しては「説明が難しい」と言う。「変化するモノ、ということでいいと思う」と言ったのは、「枠」そのものの形状よりも、変化することこそが重要だからだ。個が変化し、やがてチームが進化し、壁に当たり、さらに変化を続ける――自由を得ながら不自由になり、また自由を目指す。風間監督下の名古屋はその意味で常に過程のチームで、それを享受している。それは転がり続ける石の自由かもしれない。
インタビュー・文/西部 謙司
※電子マガジンtheWORLD No.235より転載
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