森保一監督が日本代表で採用する[3-4-2-1]はウイングバックのところに攻撃的な選手を起用することで、きわめて攻撃的にもシフトできるシステムだ。これまでW杯予選でも本大会でも、ここに三笘薫など本来ウイングの選手を置くことで、日本代表は攻撃的な振る舞いを見せてきた。このWBも含めてアタッカーとして起用できるタレントは豊富で、明らかなストロングポイントの1つと言うことができる。
いよいよW杯前の代表ウィークのスケジュールをすべて消化した今、前線の人選をどうするかは大きなポイントになる。これまで代表で結果を出してきた南野拓実、久保建英らが負傷離脱でコンディションを落としている一方、塩貝健人や後藤啓介など所属クラブで存在感を見せていた若手の突き上げがある。中心に据えるべきは誰か。先発には適さなくとも戦略上欠かせないのは誰か。多士済々のアタッカー陣を考察する。
シャドーとWBの互換性 軸はイングランド戦の5人
登録メンバー争いが激しいアタッカー陣だが、これまで違いを見せてきた上田、三笘、中村はほぼ当確か photo/Getty Images
日本代表のポジション表記はGKとDF以外はMF/FWとなっていて、この中からボランチを除いたところがアタッカーに該当するのだろうが、同じウイングバックでも堂安律と菅原由勢、中村敬斗と鈴木淳之介では特徴がかなり違う。
アタッカーとして誰かというより、1トップ、2シャドー、2ウイングバックの5つのポジションについて誰を起用するかという視点で見ていきたい。現状のベストはイングランド戦に先発した5人だろう。上田綺世の1トップ、シャドーに伊東純也、三笘薫。ウイングバックの右に堂安律、左が中村敬斗だ。
シャドーとウイングバックの互換性の高さは世界的にも珍しい。シャドーに久保建英、鈴木唯人、鎌田大地、町野修斗、佐藤龍之介を起用した場合には互換性のメリットは使えない。また、守備面でもイングランド戦先発の5人は機能していたので、この5人のセットが軸になると考えられる。
日本の守備は[5-2-3]でセットされていて、相手のアンカーを1トップがカバーシャドーで消し、CBにシャドーがプレスする形。前回カタールW杯の時もカバーシャドーはしていたが、[5-4-1]でセットされていて相手CBは実質的にフリーだった。シャドーがCBにプレスしウイングバックが前進する形もあったが、ボランチがCBにプレスすることもあり、いずれにしても相手のCBが前進してきたタイミングで迎え撃つやり方だった。
カタールW杯のやり方だと、ほぼ相手CBはフリーなまま。ブロック内に侵入させないことはできたが、相手は何度もやり直しが効くのでボールを奪うという点では弱かった。
現在の日本の守り方は、シャドーが最初からCBをマークしているので相手にとってボールの逃げ場はGKしかない。圧力の強度が増していて、これが現代表の最大の武器にもなっている。
イングランドは日本のプレスへの対応策として、2ボランチ+ダブル偽9番でバイタルへの潜り込みを狙っていたが十分に機能していない。日本の前列のプレスが速く、全体を非常にコンパクトにできていたからだ。決勝点も三笘がプレスバックで奪ってのカウンター。相手のビルドアップを阻止するとともに攻撃に結び付けていて、プレッシングは日本の生命線といっていい。
寄せと連動の速さが効いている。しかし、それだけに消耗も早く強度を保てるのは60分程度だろう。強度低下を防ぐための方策としては選手交代が1つ。もう1つは守備ブロックを下げて撤退すること。イングランド戦ではリードしていたので撤退を選択していたが、リードされていれば撤退はできない。強度を保ち、さらに相手のローブロックを崩すための交代策が必要になるわけだ。
撤退と最大火力 塩貝が重要な戦力か
スコットランド戦で代表デビュー。塩貝は限られた時間の中でしっかり“らしさ”を見せていた photo/Getty Images
撤退するなら守備型の選手への交代になる。ウイングバックは実質的にSBになるので菅原由勢、鈴木淳之介が必要だ。
スコットランド戦のウイングバックの先発は菅原と前田大然だった。63分に中村、堂安の攻撃型にシフトして得点を奪っている。イングランド戦とは逆に、後半から攻撃型へシフトしていた。ちなみにこの試合は鎌田を1ボランチにしてシャドーに三笘、堂安。ウイングバックが伊東、中村。上田と塩貝健人の2トップという最大火力の攻撃布陣を試している。
ボランチが1人なので守備面のリスクは高いのだが、初キャップの塩貝が攻守に驚異的な稼働力を示してシステム上の弱点をカバーしていた。これをオプションの1つと考えているなら塩貝はかなり重要な戦力になる。塩貝でなければやれそうなのは前田。この2人は戦略上不可欠と考えていいかもしれない。
前半を守備重視で始めて、後半に攻勢に転ずるのは前回大会でもみせた日本の得意技。この場合は現状でベストと思われるイングランド戦の5人が揃うのは後半になる。
先手必勝で前半からイングランド戦のように5人を先発させる手もあるが、相手に先制された場合が問題になる。強度の維持とともに、相手がローブロックで逃げ切りの態勢となった場合にどうするか。
狭いスペースを攻略するうえで久保建英、鈴木唯人、佐藤龍之介は有効な交代カードになる。3人ともバイタルエリアに潜り込むプレイが得意。狭いスペースでのコントロールとターン、意外性のあるパスやミドルシュートを持っている。これでも打開できなければ、ボランチを1人外して塩貝か前田を前線に投入するスコットランド戦で試した形に移行することになるのだろう。
最大の激戦区となったシャドー ストライカー上田は確定か
これまで日本代表の攻撃を牽引してきた南野と久保 photo/Getty Images
英国遠征はそれまでシャドーの軸だった久保と南野拓実が負傷欠場していて、シャドーの人選をどうするかという課題があった。スコットランド戦は鈴木唯人と佐野航大がシャドーで先発している。
しかしイングランド戦で答えは出た。三笘と中村、伊東と堂安は互換性があり、つまりシャドーの2つのポジションはこの4人で埋められることがはっきりしたわけだ。さらに鎌田と佐野航大はシャドーとボランチができる。そうなるとシャドー専門の選手を選ぶ必要性があまりなくなり、久保はコンディションが万全なら選ばれるだろうが、鈴木唯人は微妙なところではないか。
町野修斗は少し特殊なケースだ。右シャドーとしてポケットへの飛び出しという武器がある。シャドー候補の中でも最もストライカー寄り。これまで南野が果たしてきたセカンドトップとしては有力かもしれない。
英国遠征では出番のなかった佐藤龍之介は、ここから短期間で一気に成長する可能性はある。Jリーグではウイングバックのプレイ経験もあり、三笘、伊東、堂安、中村の直接的なバックアップになりうるタイプである。
1トップとしてポストプレイの強さ、得点力、守備への貢献で上田は絶対的だが、1人で連戦をこなすとは考えられず、上田のバックアップは必要だ。前記のとおり2トップならシステムの弱点を埋められる塩貝、前田だが、1トップなら小川航基、後藤啓介が有力。左ウイングバックでもプレイできる前田、2トップで重要な戦力になる塩貝が入るとすると、小川と後藤のどちらかに絞られる可能性もある。あるいは裏抜けの上手い細谷真大も面白いかもしれない。
W杯メンバー26人のうち、23人程度はほぼ決まっているのではないかと思われる。1トップ、2シャドー、2ウイングバックのどこかを厚くするかもしれないが、他のパートを優先するかもしれない。遠藤航、冨安健洋、町田浩樹、南野拓実の復帰がW杯までに間に合うかど
うかによって変わってくるだろう
文/西部 謙司
※電子マガジンtheWORLD316号、4月15日配信の記事より転載