[ロシアW杯#02]エジプトとの接戦を制したウルグアイ 勝因は「伝統の勝負根性」と「高度な守備」

攻撃に精彩を欠くエジプトとウルグアイ

ウルグアイに勝利をもたらしたヒメネス。ゴール後に喜びを爆発させる photo/Getty Images

〈ファラオの奇跡〉は叶わず、長足の進歩を遂げる医学も届かず、サラーは初戦に間に合わなかった。絶対的エースを欠いたエジプトの攻撃は終始単調で、ゴールが生まれるムードすら感じられない。カウンターはウルグアイ守備陣に冷や汗をかかせるほどのレベルではなく、後方からのフィードもアイデア不足。サラー不在という大きなエクスキューズがあるにしても、攻撃に絡む人数があまりにも少ない。そして守備面も両サイドが空きすぎる。GKエル・シェナウィの好守がなければ0-2、もしくは0-3で敗れていたに違いない。

それにしても、サラーはピッチに戻って来られるのだろうか。彼を欠いた攻撃は、まったく機能していなかった。チャンピオンズリーグ決勝で痛めた右肩が回復せず、2~3戦も出場できないような状態だったとしたら、エジプトのワールドカップは早々に幕が下りる。

一方、ウルグアイは初戦ならではのプレッシャーか、とくに攻撃は精彩を欠いていた。前半はカバーニが左サイドに開くケースが多く、スアレスもボール欲しさに中盤まで降りてくる。MFが視野を確保しても、中央には人がいない。また、ポゼッションで上まわったにもかかわらず、両サイドバックと中盤センターは基本ポジションに留まっていた。これでは、人海戦術のエジプト守備網を崩せるはずがない。先述したプレッシャーとともに、「負けたくない」という意識が強くはたらきすぎたのだろうか。

後半もギアを上げられなかった。ボールを持ちすぎ、ラストパスの精度を欠き、つかみかけたリズムを自ら放棄するような低パフォーマンス。58分、タバレス監督はナンデスをサンチェスに、デ・アラスカエタをロドリゲスに代えて不快なリズムを断ち切ろうとしたが、ピッチ上の風景に変わりはない。攻めあぐむウルグアイ。こうして最終盤を迎える……。

終盤にドラマが! 試合を決めたヒメネス

ベンチスタートとなったサラー。エジプトが失点するまでは笑顔も見られたが…… photo/Getty Images

87分、カバーニのFKが右ポストを直撃したとき、だれもが引分けを予期したはずだ。ところが2分後、右サイドで得たFKからのクロスをヒメネスが3人に競り勝ち、強烈なヘディングをサイドネットに突き刺す。そのとき、ベンチで戦況を見守るサラーの視線は泳いでいた。

さすがにウルグアイは粘り強い。つねに南米で、世界でもまれてきた経験が、大舞台でもモノをいった。決して褒められた試合内容ではなかったものの、伝統の勝負根性と高度な守備力で貴重な3ポイントを獲得した。

ただ、スアレスの不振は気になるところだ。シュートを打つべきシーンでためらい、イージーなトラップミスも繰り返す。決定的なチャンスではボールの下を叩きすぎたり、至近距離からのシュートをエジプトGKエル・シェナウィの右膝にぶつけたり、彼らしさは欠片もなかった。シーズンの疲れが残っているのか、練習中にケガでもしたのか、動きが重く、苛立つシーンも目についた。心身のコンディションがプレイに直結するタイプだけに、先行き不安といわざるをえない。

[スコア]
エジプト代表 0-1 ウルグアイ代表

[得点者]
ウルグアイ代表:ヒメネス(89)

文/粕谷 秀樹
サッカージャーナリスト。特にプレミアリーグ関連情報には精通している。試合中継やテレビ番組での解説者としてもお馴染みで、独特の視点で繰り出される選手、チームへの評価と切れ味鋭い意見は特筆ものである。

theWORLD200号 2018年6月16日配信の記事より転載

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