アンドレア・ピルロは監督経験なしでユヴェントスの指揮を執ることになった。当初は下部組織の監督を経験させる予定だったが、前任のマウリツィオ・サッリを解任したことでいきなりトップチームを任されている。
選手としてスーパースターだからといって、監督として成功するとはかぎらない。選手と監督では求められる能力が違うからだ。また、監督としての才能があっても、必ず初期段階では何らかのミスを犯す。それがトップチームで起こると取り返しがつかなくなる。そこで、下部組織など目立たない場所でミスをさせてからトップチームを任せることでリスクを減らすのが常道だ。監督は多かれ少なかれ失敗するものであり、失敗を経験した監督のほうが信頼できるのだ。
ピルロ新監督のスタートは10連覇を目指す王者としては物足りない。それでも17節までわずか1敗で4位なので、新人監督としては悪くないのだが、ユヴェントスとしては十分ではないだろう。今後、一気に巻き返しがあるのか、それともこのまま調子が上向くことはないのか、現状の試合ぶりから探ってみたい。
ここまでのプレイぶりは良くも悪くも「普通」である。ピルロの現役時代のスタイルから想像されるように、ボールを保持してゲームの主導権を握る志向性はみてとれる。ただ、それは前任のサッリ監督も同じで、ピルロ監督がそれをより先鋭化させているかといえばそうではない。むしろボール保持に関するアイデアではサッリより保守的かもしれない。自分のアイデアを強く押し出すことを控えているのか、そもそもそういうものがないのかはわからないが、自分の色を押し出しすぎてチームを壊すようなミスはしていない。
ユヴェントスのようにリーグ内で最高の戦力を持っているクラブの場合、選手の能力を生かすことが重要だ。スタープレイヤーたちを気持ちよくプレイさせ、あとは対戦相手にチームプレイで大きな差を作られなければ、個の能力の差で勝てる。これはユヴェントスが伝統的に踏襲してきた勝ち方でもある。そこを踏み外していないという点で、ピルロ監督は無難な選択をしているといえそうだ。
攻撃のスターはクリスティアーノ・ロナウドとパウロ・ディバラである。前線の左から中央にかけて動くロナウド、セカンドトップとして相手DFとMFの中間ポジションに入るディバラ。それぞれのナチュラルなスタイルを尊重してチームを組み立てている。
フォーメーションは[4-4-2]。機能性も「ごく普通」といっていい。
ビルドアップの過程でセンターMFがディフェンスラインに下りる形での形状変化はあるが、今やどのチームでも取り入れている形にすぎない。後述するがサイドバックの位置も形状変化しているわりには低く、個々の技術で何とかしているものの、とりたててビルドアップに優れている印象はない。第17節で対戦したサッスオーロのほうが洗練されていた。ポゼッション率でセリエAの1、2位対決だったわけだが、サッスオーロのほうがクオリティは高かった。
それでもサッスオーロ戦は3-1で勝利している。相手が前半に退場者を出しているのにボールを支配される時間帯もあったが、個の強さで押し切った。45分間、1人多かったという事情もあるとはいえ、チームとしてのクオリティで劣りながらも圧倒されるまではいかなかった。均衡させれば個の差で勝てる、ユヴェントスらしい勝ち方といえる。
ただ、従来のユヴェントスの看板だった守備力は失われつつあるかもしれない。
4-4のブロックで守っているが、さほど機動性は高くない。MF中央はベンタンクール、ラビオ、アルトゥールの3人のうち2人が担当しているが、いずれも守備のスペシャリストではない。パスワークは上手いが守備力は普通である。押し込まれたときに下がりすぎてバイタルエリアを開けてしまうシーンがしばしば見られ、全体のインテンシティも緩めだ。
攻撃も守備も特筆すべきものがない。それでもセリエAは個々のクオリティの高さで優勝できるかもしれないが、現状では不安も大きい。ましてCLとなるとベスト4に入れるレベルにはない。スクデットならサッリ前監督のときも獲れているのだから、ピルロ監督への期待はその先にあるはずだが、現状ではかなり心もとないといわざるをえない。