[MIXゾーン]5枚のカードをどう使う? C大阪×名古屋で見えた“コロナ禍”での采配の変化

フィッカデンティ監督は巧みな采配で好調セレッソを押さえ込んだ photo/Getty Images

今年はカードの切り方が違う

「(MFシミッチからMF米本に)後半15分くらいで代えたでしょうか。強くディフェンスをする、相手の陣内からのプレスを後半スタートからやろうとし、そしてできていました。それには、あのポジションでそれだけの走力が必要になってきます。疲労が見えればすぐに代えるから、やれるだけ節約せずにプレイしろと考え、(シミッチに)疲れが見えたのであそこで交代させました。米本を入れたおかげで前でボールを奪え、すぐにチャンスにつなげ状況をひっくり返すシーンも多く作れましたし、すごく良かったと思います」

 名古屋のフィッカデンティ監督のコメントである。この試合を象徴する交代だったと筆者には感じた。結果的に名古屋は5人の交代枠の内3人しか使わなかったが、カードの切り方が大胆だと感じた。何よりシミッチに限らず、選手はスタミナの出し惜しみをしなくてもいいという気持ちの余裕は大きい。いけるところまでいく。ダメなら代えてくれ。

 今季はコロナ禍による過密日程で、交代人数は通常の3人から5人に変更されている。交代のタイミングはプレイ中であれば3回、更にハーフタイムを使う場合はプラス1回が許される。実際相手のC大阪はハーフタイムでFWブルーノ・メンデスに代えて、FW豊川を投入。後半のプレイ中にも3回の交代をおこない、5人の交代枠すべてを使い切った。当然交代のタイミング、枚数も昨季までとは大きく違う。今節の他の試合で見れば、川崎対柏の試合ではハーフタイムに柏は一気に3枚のカードを切っている。通常の3人枠であればケガ人のリスクも考えざるを得ず、無謀以外の何ものでもないが、今のルールだとそれが充分に作戦として通用する。リーグ再開後の試合数も3を数え、徐々に各指揮官はカードの使い方が分かってきたのではないだろうか。同時にその巧拙が試合の流れを一変させてしまうのだろう。ただカードに余裕があるから、それを全部使い切ってしまえばいいというものでもない。フィッカデンティ監督は再開後の3試合で5枚のカードをすべて切り終えたことは一度もない。
 C大阪のオウンゴールで名古屋が1点を先制して迎えた後半、C大阪のMFルーカス・ミネイロは疲れの見えたボランチの藤田に代わって52分にピッチに立った。約10分後のプレイで、自身のドリブルを相手に引っ掛けられてボールを失うと(それも米本に)、更にサイドから中央に入ってきたボールを一旦は彼が収めかけたにも関わらず、足がもつれるような形で名古屋のMF稲垣に渡してしまい、それを受けたMF阿部が右足を一閃すると、ボールはゴールに吸い込まれた。ルーカス・ミネイロは思わず天を仰いだ。あくまで結果論でしかないが、交代のカードの良し悪しも、試合の流れを大きく左右するものだと実感するシーンだった。

 今季はこういうシーンが増えるのだろうか?当然ルーカス・ミネイロも自身のミスを取り返そうと必死にプレイする姿を見せた。ただし名古屋の堅い守りの前に、好調のC大阪も沈黙せざるを得なかった。試合はこのまま名古屋が逃げ切り、開幕3連勝のC大阪に土をつけた。

 名古屋はリードを広げてからC大阪にスペースを与えることなく、奪ってからは前線のスピードのあるタレントを活かすという自分たちのやりたい形を作っていた。フィッカデンティ監督は「C大阪相手に勝利できたことは何倍にもうれしく感じます」と喜びを隠さなかった。

 フィッカデンティ監督というと守備一辺倒のイメージが強いが、今季は時間帯によってショートパスを交えボールを動かすことも多い。引いて守る格下の相手にはこうした戦い方も有効になってくるだろう。実際首位のC大阪相手にも守りを固めるだけでなく、ボールを支配する時間帯もあった。立ち上がりこそC大阪がボールをキープし続けたが、10分を過ぎてからはむしろ名古屋のいいプレイが随所に見られた。試合の中でふたつの表情を見せることができただけに、名古屋の引き出しの多さはこれからの戦いに大いに期待を抱かせるものだと感じた。

 シーズンはまだまだ序盤。今後どんどん暑くなるだけに、選手交代は試合を大きく動かすことになるだろう。5枚のカードをいかに使うか。指揮官の采配に注目したい。

取材・文/吉村 憲文


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