[特集/欧州サムライ伝説 8]奇跡を起こした等身大のヒーロー・岡崎慎司

上手くないなら、誰よりも走ればいい

上手くないなら、誰よりも走ればいい

プレミアのカップを手にする岡崎。ほぼスタメンで優勝を勝ち取った日本人は岡崎が初 photo/Getty Images

 日本人プレイヤーにとって、イングランド・プレミアリーグは鬼門といっていい。過去、プレミアに挑んだ日本人は12人いる。稲本潤一(01-04/05-06 アーセナルほか 66試合4得点)/西澤明訓(01-02ボルトン 0試合0得点)/戸田和幸(02-04 トッテナム 4試合0得点)/川口能活(03-04 ポーツマス 0試合0得点)/中田英寿(05-06 ボルトン 21試合1得点)/宮市亮(11-14 アーセナルほか 17試合0得点)/吉田麻也(12-20サウサンプトン 154試合6得点)/香川真司(12-15 マンチェスター・U 38試合6得点)/李忠成(12-14 サウサンプトン 0試合0得点)/岡崎慎司(15-19 レスター 114試合14得点)/武藤嘉紀(18-20 ニューカッスル 20試合1得点)/南野拓実(19-20 リヴァプール 3試合0得点)。

 日本代表の名手たちがならぶが、多くが挫折を味わった。もっとも長くプレイした吉田も、レギュラーとして活躍した時期は短く、マンUで優勝を経験した香川も、激しいポジション争いを勝ち抜くことができなかった。

 そんな鬼門のプレミアで、もっとも強烈な印象を残したのが岡崎だ。レスター移籍1年目からレギュラーに定着し、それどころか奇跡のプレミア初制覇に貢献した。

 日本人がプレミアへの順応に苦しむのは、端的にいえばレベルが高いからだ。ベルギーやオランダ、さらにドイツあたりなら日本人特有の機敏さ、柔らかさがアドバンテージになりえる。だがプレミアは技術、スピード、激しさが異次元のため、日本人はアドバンテージを発揮することができないのだ。

懸命なプレイスタイルはやがて奇跡へと結びつく

懸命なプレイスタイルはやがて奇跡へと結びつく

アストン・ヴィラ戦で決めたゴールは、まさに岡崎の諦めない心が呼び込んだ一撃だった photo/Getty Images

 もっとも大きかったのは、岡崎が俊敏さやテクニックを押し出す、いわゆる日本人らしいプレイヤーではなかったことだ。

 岡崎は代表クラスの日本人の中では珍しく、「上手くない」ことを自覚してスタイルを築き上げてきた。ひと言でいうと「泥くささ」だ。

 上手くないなら、だれよりも走ればいい。

 疲れをいとわずチームのために走り続け、数少ないチャンスを抜け目なく仕留める。Jリーグの清水時代から磨いてきた走力は、世界的な名手がひしめくプレミアでも、確実に計算できる強みとなった。

 岡崎が加入したレスターは昇格2年目。本来、優勝を争うようなチームではない。だが、のちに国際舞台に飛躍する多彩なタレントがそろっていた。

 このシーズン24得点を叩き出したバーディを筆頭に、アルジェリア代表のチャンスメイカー、マフレズ、中盤でボールを狩り続けるフランス代表のカンテ、さらにいぶし銀の技巧を備えたイングランド代表のドリンクウォーター。際立った特長を持ちながらもフォアザチームの精神を備えた、耐久性の強いタレントが、イタリア人指揮官ラニエリのもとで一体となった。

 その中で岡崎は自己犠牲の精神をいとわず走り続け、無骨に戦うレスターの精神を象徴するプレイヤーとして愛された。

 レスター以前の岡崎は、ブンデスリーガのマインツで15点、12点と2シーズン連続で10ゴール以上を叩き出し、ストライカーとしての名声を高めた。プレミアでは4シーズンで14ゴールとペースはかなり落ちたが、それでもチームに勝利を呼び込む印象深いゴールを決めている。

 岡崎が決めた14ゴール、その内容が非常に興味深い。 シュート地点はゴールエリア内9点、ペナルティエリア内5点。タッチ数はダイレクト12点、ツータッチ2点。

 このデータからわかるのは、目が覚めるようなゴールはほとんどないということ。鮮烈なボレー、オーバーヘッドを決めたことはあるが、ロングシュートもなければ、ドリブルで敵を抜き去って決めたゴールもない。

 岡崎のゴールの大半は、いわゆる「抜け目ないゴール」。動き直しを繰り返してマークを外す、もしくはこぼれ球にだれよりも素早く反応して押し込むゴールが多い。

 その中でも非常に印象深いのが、移籍1年目、アストン・ヴィラとのアウェイゲームで決めたゴールだ。

 カウンターから相手ペナルティエリアに走り込んだバーディが、後方からのロングパスをそのままダイレクトで狙う。シュートは美しいアーチを描き、キーパーがバックステップを踏みながら懸命に弾き出そうとする。

 大観衆が固唾を飲んで見守る中、相手選手も足を止め、ボールの行方を眺めている。

 すべてが止まったような数秒間、ひとりだけ足を止めなかった男がいた。岡崎だ。ペナルティエリア外から猛然とゴールに突進。ライン上でかろうじて弾き出されたボールを押し込んだのだ。

 可能性がゼロではないかぎり、労力を惜しまず懸命に走る。このゴールには、そんな岡崎の精神が凝縮されていた。

 このゴールの陰には、懸命に走りながらもチャンスにありつけずに終わった、数えきれないほどの無駄走りがあるはず。このアストン・ヴィラ戦のゴールは、あきらめずに走り続けたことへのご褒美なのだ。

 勝っても負けてもだれよりも汗をかき、忘れたころに貴重なゴールを決めて子どものように喜ぶ。そんな岡崎は、サポーターから等身大のヒーローとして愛された。

 オッズ5001倍という超大穴にもかかわらず、並み居るメガクラブを倒してプレミア制覇の偉業を成し遂げたレスター。街角には21世紀の奇跡を永遠に記憶するためにラニエリ監督以下、主力選手の肖像が描かれた。その中には、もちろん岡崎もいる。

文/熊崎 敬

※電子マガジンtheWORLD246号、6月15日配信の記事より転載

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