バイエルンはスロースタートを切ることがあり、シーズン序盤はエンジンのかかりが遅いときがある。そのスキにドルトムントやライプツィヒ、あるいはレヴァークーゼンが首位に立つも、バイエルンが通常運転に入ると他クラブは太刀打ちできず、気づいたら順位が入れ替わっている。過去9連覇の間にも、そんなシーズンがあった。
新たにユリアン・ナーゲルスマン監督を招聘した今シーズンも、ボルシアMGとの開幕戦に1-1で引き分け、第7節フランクフルト戦にはアリアンツ・アレーナで1-2と競り負けた。DFB杯2回戦ボルシアMG戦にも0-5で大敗し、第12節アウグスブルク戦にも1-2で惜敗。序盤戦のバイエルンは、ナーゲルスマン監督のポゼッション+ゲーゲンプレスの攻撃的なスタイルを実践する一方で、守備時の人数が足らずにカウンターから失点するシーンが目についた。
しかし、ブンデスリーガにバイエルンを凌駕するチームはなく、ナーゲルスマン監督はいろいろと試行錯誤しながら戦っていた。第2節ケルン戦、第6節グロイターフュルト戦、第8節ホッフェンハイム戦などで3バックを採用し、[3-4-2-1]で戦っている。ダヨ・ウパメカノ、ニクラス・ズーレ、リュカ・エルナンデス、タンギ・ニャンズ、バンジャマン・パヴァールなどを最終ラインで起用し、従来の[4-2-3-1]との併用を目指したが、この方針が守備の安定感に繋がらず所々で星を落としていた。
ただ、こうした状態でも簡単には崩れないのがバイエルンであり、守備の不安を払しょくする勢いでゴールすることで勝点を積み上げていった。というか、ライプツィヒからナーゲルスマン監督とウパメカノを引き抜いたように、ブンデスリーガで結果を残した監督や選手を迎え入れることがバイエルンの強化方法のひとつで、他チームはこの“絶対王者”に追随することができない。そうこうするうちに3バック、4バックともに練度を増していき、第23節から第31節まで無敗で突っ走り、この間の9試合では5失点しかしなかった。
そもそも、バイエルンの中盤、前線は選手が揃っている。[3-4-2-1]であれば、より多くの攻撃的な選手をピッチに立たせることができる。35ゴールで得点王に輝いたロベルト・レヴァンドフスキを1トップに、2列目にはトーマス・ミュラー、セルジュ・ニャブリ、レロイ・サネ、キングスレイ・コマン、ジャマル・ムシアラなどがいる。[4-2-3-1]であればトップ下3枚+1トップとなるが、[3-4-2-1]であれば両サイドに2枚+2シャドー+1トップと1名多くピッチに送り出せる。さらに、中盤のワイドなポジションではアルフォンソ・デイビス、パヴァールという選択肢もあった。
無論、守備的MFに負担がかかるが、ヨシュア・キミッヒ、レオン・ゴレツカがいる。ナーゲルスマン監督のもと、ムシアラもこのポジションで新境地を開拓した。ボールをキープできて、自身で前方に運べる。ドリブルという武器があるのは、キミッヒ、ゴレツカとは異なる特長であり、ムシアラの守備的MFは今シーズンの大きな発見となった。こうして戦力を考えると、バイエルンの陣容は[3-4-2-1]に向いていたのかもしれない。
ただ、最終ライン(とくにCB)はそう選手層が厚いわけでなかった。デイビスが病気で離脱すると、左サイドが安定感に欠けた。パヴァールは右サイドの選手であり、3バックの右CBでは特長があまり生きない。本人に迷いが出たのか、サイドでプレイしたときに本来の精度がない試合もあった。3バックで戦い続けるだけのCBが揃っておらず、[4-2-3-1]がベースであることに変わりはなかった。
いわば、ナーゲルスマン体制となったバイエルンは手探りのまま1年目のシーズンを終えている。それでも10連覇達成である。2位ドルトムント、3位レヴァークーゼン、4位ライプツィヒとの対戦(全6試合)は、5勝1分けだった。抑えるところは抑え、相手に「ひょっとしたら」という希望を与えない。この強さあっての、絶対王者だった。