両チームともに4-4-2のシステム。ただし神戸は攻撃時にボランチの山口が最終ラインに落ちて3バックの形を作る。両SBをWBの位置に押し上げた3-5-2に近い形を取り、システム的なギャップを作り出そうとした。しかしその神戸のサイド攻撃にC大阪は両SBの丸橋と松田陸を中心に対応。引き換えにふたりのオーバーラップの回数は減り、サイドのダイナミズムは失われ、自然と試合はかたいものになった。
「前半に関してはお互いに集中して試合に入った中で、膠着状態が続いた」と三浦監督は話した。
クルピ監督も「試合の内容的に、どちらかが相手を遥かに上回っていたというわけではない」と認めた。
その膠着状態を打破したのがC大阪の右サイドハーフの坂元。
「(逆サイドの)トシくん(MF高木)がサイドでボールを持ったらいいクロスを上げてくれると思っていた。うまく中で準備しようと。スピードの速い、いいボールを上げてくれたので、飛び込むだけだった」
75分、フィニッシュは右サイドからゴール中央に走り込んだ坂元によるものだったが、左サイドで高木とMF清武のパス交換から、清武が中央に逃げたことに神戸DFがつられ、結果的に高木がほぼフリーの状態でクロスを上げられる状態を作り出した。しかも大外の坂元が中央に走り込んだことで、中央に絞っていた神戸の左SB酒井からすれば完全な死角を突かれた形だった。C大阪はゴールはこうやって奪うんだという、まさに教科書的な連動した動きを見せた。
一旦膠着状態が解かれたことで、試合は一気に動き出す。既にMFイニエスタらを3人交代で投入していた神戸は、更に79分にFWリンコン、アユブマシカをピッチに。前線に攻撃のタレントを並べ、圧力を掛けた。
特にリンコンはポスト直撃のシュートを放つなど、来日直後とは思えない動きを見せる。
「もう少しで(ゴール)というシュートもあったが、自分としても来たばかりの時とはコンディションもだいぶ変わってきた。今は90分やる自信もついている。決めるのは監督なので、自分がもらった時間で精一杯やろうと思うが、すごく良い感じはつかめてきている」(リンコン)
母国ブラジルでも大きな期待を担うタレントといわれるリンコンだが、その才能の片鱗は充分に見せてくれた。
神戸の圧力がC大阪を押し込む中、神戸はCBのフェルマーレンと菊池までが前線に上がる。リスクはあるが「点をとりにいくことをピッチには言ってたし、残り時間が全くない中で、自然と彼らが上がっていくのは今シーズン何度もあるので、そこは指示がなくても自然とそうなる形になっている」(三浦監督)
後半アディショナルタイムも目安の5分がくる数秒、GKからのロングボールを菊池が頭でつなぎ、一気にC大阪ゴール前に。神戸は次々とシュートを放ち、最後はマシカの丁寧な落としからフリーのフェルマーレンがエリア外から左足を一閃。ボールはゴールネットを豪快に揺らせた。
「1点負けている状況で、リスクを取りながらでも同点ゴールをとりに行くことは、今日のゲームに限らず、今シーズン何度かやっていること。自分たちでゲームの中でこうしていくことを決めていた。なんとか同点にしようという気持ちもあった。
ゴール前のシーンはボールに集中し、ボールをしっかり見てきれいに当てて思いっきり振り抜くだけだった。逆にそれ以外のことは考える必要はないし、考えなかったからこそ、あのようなゴールが生まれたと思う」(フェルマーレン)
劇的なゴールにスタジアムは揺れ、VARの確認が済むと同時に試合は終わった。両者譲らない、非常に激しい戦いだった。
敢えて書くならあと一歩で勝ち点2を落としてしまったC大阪、昨年までの淡白さが消え、逞しさを身に着けつつある神戸。関西のライバル対決のコントラストは鮮明だった。
文/吉村 憲文