[粕谷秀樹]アルテタ新監督の采配でアーセナル復調の兆し 選手たちの表情には自信が感じられる

粕谷秀樹のメッタ斬り 026

粕谷秀樹のメッタ斬り 026

昨年末からアーセナルの再建を託されたアルテタ photo/Getty Images

オレらマジでヤバいんじゃね?

ひとりの監督が四半世紀も統治すると、バトンタッチは難しい。サー・アレックス・ファーガソンが勇退した後、マンチェスター・ユナイテッドは適任者が見つからずにもがいている。オーレ・グンナー・スールシャール? この人、何も持っていない。OBが感情論で庇っているだけだ。マウリシオ・ポチェッティーノとかマッシミリアーノ・アッレグリとか、一刻も早くちゃんとした監督の登用を切に願う1月の今日このごろ、アーセナルが息を吹き返してきた。

ミケル・アルテタ新政権発足後、チームのムードが明るくなった。FAカップ3回戦のリーズ戦では、ダビド・ルイスとグラニト・ジャカが試合終了間際のセットプレイでニヤけていたでしょ。1-0のアドバンテージで残り数分、まだまだ予断を許さない展開だったにもかかわらず、彼らの表情には自信が感じられた。

これが改革の第一歩なんじゃないかな。「クオリティは悪くない」。就任後、アルテタは繰り返し語っているね。結果も内容も伴わず、ボトム10をさまよっていたから、選手たちの自信もグラついていたんだと思う。「オレらマジでヤバいんじゃね?」。
いやいや、そんなことないって。アーセナルのクオリティは悲観するほどじゃない。とくに攻撃陣はタレント揃いだ。あとはどのように攻めるか、相手ボールになったときにどうやって守るのか、基本的なゲームプランさえ練り上げれば復調できる。アルテタはそう信じていたんじゃないかな。

アルテタの就任以降、出場機会が急増しているエジル photo/Getty Images

エジルとラカゼットのプライド

監督が信じてくれるからやりがいがある。ウナイ・エメリ体制にはなかった感覚だ。なかでもメスト・エジルが変わった。走らない、闘わないと批判されていたけれど、21節のマンチェスター・ユナイテッド戦では走行距離11・53キロ。使ってくれるアルテタに感謝し、その恩をプレイで返そうとしてる。相手ボールになった際も、パスコースを限定する動きを見せるようになってきた。

キックオフから後半の追加タイムまで、アレクサンドル・ラカゼットはトラジションで貢献する。彼もまた、エメリ体制では冷遇され、エージェントを通じて移籍をにおわせていたね。しかし、アルテタは就任後の5試合ですべて先発に起用した。ラカゼットのプライドも十分くすぐられたわけよ。

グラニト・ジャカを一列下げてビルドアップを始めたり、ボールを保持しているときはエインズリー・メイトランド・ナイルズを〈偽サイドバック〉として振る舞わせたり、アルテタの配置には応用力と柔軟性が感じられる。連動性を含めたプレスの質が向上し、全体のラインがコンパクトになった。ピエール・エメリク・オバメヤンが22節のクリスタルパレス戦で退場処分。次節から3試合の出場停止になるけれど、アルテタだったらだれもが膝を打つようなプランで解決しちゃうかもしれないよ。

27年も率いたアーセン・ヴェンゲルが退いて1年7か月、アーセナルは早くもまともな後継者を見つけたみたいだ。うらやましいじゃねえか……。

文/粕谷秀樹

スポーツジャーナリスト。特にプレミアリーグ関連情報には精通している。試合中継やテレビ番組での解説者としてもお馴染みで、独特の視点で繰り出される選手、チームへの評価と切れ味鋭い意見は特筆ものである。

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