[特集/カルチョの逆襲 03]異様な熱気に包まれたCL準決勝のミラノダービー! ミランとインテルが欧州の主役へ返り咲いた日

 ミラノといえば、2000年代前半までは間違いなく欧州サッカーという宇宙の中心だった。ミラン、インテルでは数多のビッグ・スターがしのぎを削り、チャンピオンズリーグでは常連として欧州にその力を見せつけ、恐れられた。それがいつしか、イタリアサッカーの凋落とともにその力を落とし、他国のクラブの後塵を拝するようになっていったのは周知のとおりである。

 しかし、今季のCLでは注目すべき出来事が起こった。18年ぶりに実現したCLでのミラノダービー。セリエAのクラブがこの時期にヨーロッパを盛り上げているという事実はカルチョ・ファンにとっても驚きだが、これはバルセロナやトッテナムを倒して勝ち上がった両者に、本物の実力が備わっていることの証左にほかならない。本拠地ジュゼッペ・メアッツァには、7万5000人以上のサポーターが集結。その異様な熱気は、いまもっとも熱いのはロンドンでもマンチェスターでもなく、ミラノであることを告げていた。

紆余曲折のミラノ勢だがCLでのダービーは象徴的

紆余曲折のミラノ勢だがCLでのダービーは象徴的

18年ぶりにCLで行われたミラノダービー。決勝の舞台を目指すライバル同士の激しいぶつかり合いは、インテルが2-0と先勝している photo/Getty Images

 イタリア勢はヨーロッパで好調だ。準決勝で戦っているミラノの両チームのほかにも、ナポリはグループステージでリヴァプールに4-1で勝つ波乱も起こした。チャンピオンズリーグだけではない。ヨーロッパリーグではユヴェントスとローマが準決勝まで残っており、イタリア勢同士のファイナルもあり得る状況で、カンファレンスリーグでもフィオレンティーナがベスト4とすべての欧州大会でセリエA勢が勝ち残っている。18年ぶりのCLでのダービーはセリエA勢に力が戻っていることを示す象徴的な出来事だが、今季はそれまですでに3回のミラノダービーが行われている。セリエAで2回、イタリア・スーパーカップで1回だ。9月のリーグ戦ではミランが3-2で勝利したが、今年に入って行われた2試合ではいずれもインテルが勝利。内容も完勝と言えるもので、より自信を持って大一番に臨んでいるのはインテルだろう。

 どちらも紆余曲折があり、アップダウンの激しいシーズンを送ってきた。セリエAでナポリに独走優勝を許しているほどだから、リーグ戦で苦戦したのは言うまでもない。

 インテルは3月から4月中旬にかけて厳しい状態にあった。リーグ戦で5試合連続勝ちなしで批判にさらされた。特にFW陣が悲惨で、この期間はPKでロメル・ルカクが決めたゴールを除くと、インテルの得点者は全てFW以外の選手だった。それでもCLではベンフィカを倒して勝ち上がる。ルカクやケガで離脱していたホアキン・コレアが調子を上げると、シモーネ・インザーギ監督は前線でローテーションを組むようになり、チャンスの数に見合う得点につながるようになった。こうして復調したインテルは、現在公式戦7連勝中。その間の失点はわずか1となっており、今季最も良い状態で大一番を迎えた。
 一方のミランは、年始に崩壊していた。イタリア・スーパーカップでインテルに0-3で完敗したほか、ラツィオ戦で4失点、サッスオーロ戦で5失点と守備が大炎上している。その際にステファノ・ピオリ監督は4バックから3バックにチェンジし、まず守りを整備して復調すると、CLのトッテナム戦で粘り強い戦いぶりを見せて180分間の完封に成功。
準々決勝ではナポリ相手に会心のゲームをして、同国対決を制した。最近は引き分けが多く、不安の残るパフォーマンスが続いていたものの、リーグ戦第34節のラツィオ戦では2-0で快勝しており、重要な一戦を前に仕上がりは上々だった。

 今季のミラノダービーは、基本的にインテルが押し込み、ミランがカウンターを狙う展開になっている。2月にインテルが勝利したリーグ戦のミラノダービーでは、ボール支配率が64%対36%だった。シュート数は15対4。スコアは1-0の僅差だったが、インテルが明らかな力の差を見せつけた内容だった。

 1月のスーパーカップはミランがポゼッション率で勝っているが、これは前半にインテルが2点のリードを奪ったがゆえの展開だった。CL準決勝第1戦も同様だ。インテルが開始11分で2点を取る展開だった。後半はミランが盛り返したとはいえ、ミランの長所を消すためにインテルがリスクを管理したところも多分にあった。

数的優位で崩すインテル ミランの武器は左の速攻

数的優位で崩すインテル ミランの武器は左の速攻

中盤のコンバートから主力の座をつかんだチャルハノール。一昨季まではミランでプレイしていた photo/Getty Images

 インテルの特徴は、やはりポジションチェンジの頻繁さ。どの選手も入れ替わり立ち替わり、流動的にさまざまなところに顔を出していく。センターバックの選手たちが絡むとさらに数的優位が生まれる。特にアレッサンドロ・バストーニとフェデリコ・ディマルコの左サイドはどちらも精度の高い左足を持っており、質の高いボールを中に入れられるため相手は一瞬の油断もできない。ニコロ・バレッラとヘンリク・ムヒタリアンが高い技術と気の利いたポジショニングと豊富な運動量でバイタルエリアを突き、前線のタレントを活かすことができる。FW陣もゴールの仕事だけではないと自覚しており組み立てにも参加し、守備も手を抜かないスターたちだ。

 プレイ全体を司る中盤のセンターももちろん強力。昨季までマルセロ・ブロゾビッチが大黒柱として不動の地位を築いていたが、そのブロゾビッチの負傷でコンバートしたハカン・チャルハノールが完璧に適応した。ブロゾビッチが復帰してもレギュラー扱いになることも多く、この位置はハイレベルなポジション争いとなっている。

 ミランはチームとしての一体感が最大の売りだが、具体的な武器としては、左サイドの強さが挙げられる。ラファエル・レオンとテオ・エルナンデスは、ひいき目抜きにしても、ヨーロッパ最高クラスの左サイドだろう。

 それを活かすために、ミランは素早い攻撃を意識している。左サイドの2人が前を向いてスピードに乗れる状態をつくることが一つの目標だ。攻守のトランジションの素早さと判断の的確さが特徴のイスマエル・ベナセル、反転の鋭さでカウンターの火付け役になるブラヒム・ディアス、オールラウンダーのサンドロ・トナーリもカギを握る。

 今季リーグ12得点を記録しているラファエル・レオンは欧州ビッグクラブがこぞって注目するアタッカーで、サーフィンに例えられるスムーズなドリブルは勢いに乗れば止めようがない。ラツィオ戦で負傷したことが気がかりだが、エルナンデスだけでも相手に脅威を与えることは間違いない。事実、そのラツィオ戦では、GKマイク・メニャンのアンダースローを自陣で受けたエルナンデスがドリブルで激走して一人でゴールを決めてしまった。左サイドの攻撃を軸につくられたチームでレオンが不在になれば痛いことは間違いないが、ミランの左サイドが魅力的であることに変わりはない。

対照的な監督の采配は欧州での勝負強さも生む

対照的な監督の采配は欧州での勝負強さも生む

2019-20シーズンからミランで指揮を執るピオリ監督。昨季チームでリーグ優勝を果たした photo/Getty Images

 インテルのインザーギ監督、ミランのピオリ監督、両指揮官の色が全く違うのも面白いポイントだ。

 ピオリ監督は団結力のあるチームをつくって昨季のセリエA優勝を果たしたことが高く評価されているが、戦術的な柔軟性も高い。前述のとおり、ミランはシーズン途中に[4-2-3-1]から[3-4-2-1]にして復調の糸口をつかんだ。だが、このシステムで守備は安定したものの攻撃が完全に停滞してしまい、今度はそちらが問題に。すると指揮官は、[4-2-3-1]に戻した。

 システムを戻したタイミングは、CL準々決勝のナポリ戦。試合前からフォーメーションを元に戻すのではないかという報道はあったが、2列目の中央にベナセルを置くというのは大きなサプライズだった。それでも、試合が始まるとピオリ監督の狙いに誰もが納得。ナポリの核であるスタニスラフ・ロボツカをベナセルで抑えてしまうという策で、これが完璧にハマり、結局ミランが準決勝に進んだ。

 インザーギ監督はというと、ピッチ上では柔軟性が高いが、選手起用においてはそうではない。よく言えば自分を持っている、悪く言えば単調、そんな采配だ。

 システムは一貫して[3-5-2]だし、警告を受けた選手は試合展開にかかわらず交代させがち。交代で入る選手も、事前に決めてあったかのようなものがほとんどで、観る者を驚かせるようなことは皆無に近い。ただ、その結果として、自分のシステムに無理やり埋め込んだチャルハノールはレジスタとして新境地を開拓したし、インテルは実際にチャンピオンズリーグの準決勝までやってきた。貫いた信念が正しければ、頑固に続けることは正解になる。

 ピオリ監督の3バック変更はさんざんメディアがこうした方がいいのではないかと指摘していたもので、そこでかえって意地になって変えられない指揮官も少なくないはず。ミラン指揮官はそこでプライドを押し殺し、チームを最優先にして結果を出してきた。どちらが正しいということではなく、どちらの監督もそれぞれが考えるベストな方法でチームをここまで導いてきたということだろう。

 ミラノの両チームに共通して言えることは、ここ一番での勝負強さがある点だ。ミランはトッテナムを下し、インテルはバルセロナを倒してCLを勝ち上がってきた。どう考えてもチーム力では及ばないと思われたが、その差をひっくり返してしまう勝負強さを発揮することがあるのがイタリア勢の面白さの一つだろう。組織的な守備と、一瞬の弱点を突いた一気呵成のカウンター。イタリアサッカーの醍醐味はそのまま両者の強さに直結している。

 イタリア勢で最後にCLで優勝したのは、2009-10シーズンのインテル。このときも、チェルシー、バルセロナという格上を倒して決勝に進み、バイエルン・ミュンヘンを下してビッグイヤーを掲げた。ミランはCL優勝7回(チャンピオンズカップ時代含む)で、依然イタリアで最もヨーロッパでの成功を収めているクラブ。「ミランにはヨーロッパの大会におけるDNAがある」と勝負強さが際立つイタリアでも一目置かれる存在だ。

イタリア勢がCL決勝の舞台に立つことはすでに決まっている。どちらが行くかはそれぞれのファンにとって雲泥の差だとしても、イタリアサッカーの逆襲を示す大会になっていることは間違いない。今季、ミラノのクラブが欧州の盟主となる姿を、ふたたび目にすることができるかもしれないのだ。

 文/伊藤 敬佑


電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)281号、5月15日配信の記事より転載

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