「試合が連戦であり、5月、6月頃からずっと連戦を戦っていくにあたって、チーム全体を上げていく必要があると考えている」
G大阪の宮本監督は来るべき連戦に備え、チームとしての全体の底上げの必要を痛感していたようだ。
チーム内でクラスターが発生したことで、一旦活動を完全に休止せざるを得なかったG大阪。そのツケは大きく、先日発表になった新しい日程では夏場に連戦が組まれている。ただでさえ今季のJ1は20チーム編成で試合数が多いだけに、過密が更に過密を生むという状況だ。宮本監督とすればこの状況を乗り切るには、グループ全体で使える選手の数を増やしていかなくてはならない。メンバーを固定して戦うことはできない。連携面で問題が生じるのは当然だ。
しかも「(キャンプから)リーグ戦に入っていってさらに仕上げていくという、一連のシーズンの開幕から流れがある。それが一旦ストップし、もう一度流れに乗せていかないといけないというこの作業は誰もやったことがない」。
その一環としてプロ入り初スタメンとなったのが左SB黒川である。
「初スタメンだったが、自分のサッカー人生においてもターニングポイントの試合だと思っていた。でもいつもどおり練習でやっていることを表現しようと思っていた。プレイ自体は最低限できたと思うが、0‐0だったので、もっと結果につなげられるプレーができたらもっと良かった」
及第点の出来ではあったが、レギュラーの藤春を脅かすほどのパフォーマンスかと問われれば、そこまでではなかったことは本人が良く分かっているだろう。ただターンオーバーはチーム事情で必須のため、試合を経験することでブレイクの可能性もある。それを誰よりも望んでいるのは宮本監督だろう。
ただG大阪のプレイそのものは、まだチームも個々の選手もコンディションを上げている途上というものだった。昨年までのターゲットに直接当てる戦いから、ポゼッションスタイルに切り替えたが、フィニッシュに至る過程でサイドからの攻撃の迫力が足りない。
「エリアの近くでの動き出しであったり、タイミングであったり、パスの質であったりクロスの質であったり、シュートも含め、そういったところ。相手のしっかりとした守備もあったと思うが、それを上回るものを今日は出せなかったという印象を持っている」(宮本監督)
対した福岡だが、5年周期でJ1昇格と降格を繰り返すというジンクスをいかに払拭するか。それも一笑に付してしまうのではないかと思うほど、チームとしての統一感は素晴らしい。
「(G大阪の)シュートは10本に満たない。また大きなチャンスもそんなに作られなかった。我々のテーマである連動のところで、何回かうまくボールを取れたというところは良かったかなと思う」
と長谷部監督は評価の言葉を口にした。実際チームとしてのパフォーマンスは福岡が上回っており、特にこの試合最大の決定機は63分の福岡に生まれたものだった。左からの大きなサイドチェンジで、右サイドを駆け上がったSB湯澤から低い弾道のクロス。これに飛び込んだFW渡の頭。ドンピシャだったが僅かにゴールマウスを捉えることができなかった。福岡とすれば五分以上の戦いができていただけに、このゴールが決まっていればというシーンだった。
ただ指揮官は個の質の違いも感じたようで「なかなかボールを取れない、ボールをつなげないことは何回もあった。守備では前からプレッシャーを掛けることはできたと思うが、はがされることも何回もあった。前からの守備ができたか、できないかでいえば、もう少しできないとまずいと思う」。
エレベーターチームからの脱却に必要なことがあると、更に理解したようだ。ただこの姿勢こそがかつての福岡とは大きく違うところなのかもしれない。
ゲームは共に得点なくスコアレスのドローに終わったが、G大阪、福岡共にこれからの課題がいい意味で確認できた試合だった。
文/吉村 憲文