【ロシアW杯展望/グループB】ポルトガル、スペイン2強は明白も 堅守で対抗できれば道はある

本大会でのゴール量産が期待されるC・ロナウド photo/Getty Images

高い攻撃力を備えるポルトガル 不安視されるのは守備面 

ポルトガルとスペインが首位を争うだろう。この2チームがグループリーグ通過を逃すことがあれば、大会の大きな驚きとなる。最新のFIFAランキングが3位のポルトガルは、欧州予選を通じて攻撃が充実した。堅守速攻からクリスティアーノ・ロナウドの決定力を生かすのは、初優勝した16年のEUROと同じである。彼の得点能力をどこまで引き出すのかは、上位進出に不可欠なテーマと言っていい。実際に今予選でも、32歳の大エースはチーム最多の15ゴールをマークした。ただ、彼への依存度は大幅に軽減された。22歳のアンドレ・シウバが[4-1-3-2]のシステムでC・ロナウドと2トップを組み、チーム2位の9ゴールをマークしたのだ。

2列目のタレントも眩しい。右ウイングのベルナウド・シウバ、左ウイングのジョアン・マリオは、ともに攻撃の仕掛けと崩しの局面で違いを生み出す。中央にはEURO優勝メンバーのモウチーニョが構える。31歳の経験者は20代前半の両ウイングを伸び伸びとプレイさせつつ、自らも決定的なシーンを作り出している。 

また、右SBセドリック、左SBゲレイロも、高い攻撃力を装備する。ロシアW杯モデルのポルトガルは、どこからでもカウンターを発動できるのだ。気がかりがあるとすれば、最終ライン中央の高齢化か。予選では36歳のブルーノ・アウベス、34歳のペペ、33歳のフォンテを中心に構成されてきたが、フィジカルに強い一方で左右の揺さぶりに脆い。スイス以外にライバルが見当たらなかった予選は、10試合を4失点で乗り切った。ただ、世界のトップ・オブ・トップとの攻防を、彼らがフィジカルと経験で乗り切れるのかには疑問符が付く。攻撃陣が漏れなくアジリティに優れるスペインとのグループリーグ初戦は、いきなり真価を問われるものとなりそうだ。

魅惑的なパスサッカーを再び世界へ披露する無敵艦隊 

魅惑的なパスサッカーを再び世界へ披露する無敵艦隊 

スペインの若手筆頭アセンシオ。強烈な左足のフィニッシュが魅力 photo/Getty Images

スペインは復活した。14年ブラジルW杯でまさかのグループリーグ敗退を喫し、16年のEUROもベスト16に止まったが、ジュレン・ロペテギ監督のもとで魅惑のパスサッカーを取り戻したのだ。 

復活を強く印象づけたのが、16年9月に行なわれた予選のイタリア戦だった。ダビド・シルバ、イスコ、マルコ・アセンシオらが相手守備陣を翻弄し、3対0で快勝している。イタリア以外にライバルが見当たらず、9勝1分で首位を確保した予選も、W杯のグループリーグを想定したシミュレーションになった。リヒテンシュタイン、アルバニア、マケドニアといった格下との対戦は、徹底的に守備を固めてくる相手をいかに攻略するのかがテーマだった。そうした戦いを通して、ロペテギ監督は[4-3-3]のシステムの練度を高めていった。スコアや試合の流れに応じて選手の立ち位置を変えるバリエーション豊富なサッカーは、モロッコやイランとの対戦に応用できるはずだ。

セルヒオ・ラモスとピケが中央にそびえ立ち、カルバハルとジョルディ・アルバが両翼を担う最終ラインもスキがない。16年のEUROでメジャートーナメントへのデビューを飾ったGKデ・ヘアも、心身ともに充実した状態にある。W杯への論点はふたつある。ひとつ目はイニエスタの起用法だ。17−18シーズンはケガが続いており、12月上旬時点で3度離脱している。ピッチ上での存在感は以前と変わらないものの、この 3 3 歳は途中出場のカードとして計算するべきでは、との意見が勢いを増しているのは事実だ。

ふたつ目はCFである。 ロペテギ監督はジエゴ・コスタを軸として考えているようだが、コンディション不良で17年6月を最後に代表でプレイしていない。代役のモラタは予選5発とひとまず結果を残したものの、ポジションを確保したとはモロッコ期待の天才レフティー、ハキム・ツィエク言い難い。36歳のビジャが9月に呼び戻されたのも、指揮官の苦悩の表われだった。シルバを3トップ中央に置くゼロトップの採用により、CF不在をカバーすることはできる。いずれにせよ、1月からプレイ可能となるアトレティコ・マドリードで、D.コスタがどのようなプレイを見せるか。2 9 歳のストライカーの状態次第で、ロペテギ監督の戦略が固まっていくだろう。

守備陣の奮闘に期待がかかるモロッコ イランは史上初のGL突破へ 

守備陣の奮闘に期待がかかるモロッコ イランは史上初のGL突破へ 

欧州のメガクラブを率いた経験もあるC・ケイロス監督(イラン代表) photo/Getty Images

5大会ぶり5度目の出場となるモロッコは、最終予選でコートジボワールとの一騎打ちを制した。指揮官エルベ・ルナールは12年にザンビアを、15年にはコートジボワールをアフリカ選手権優勝へ導いた経歴を持つ。アンゴラを率いたこともあり、指導者としてのキャリアの大半をアフリカで過ごしてきた。

16年2月から監督を務めるモロッコでは、最終予選6試合を無失点でしのいだ守備力を植え付けた。相手との力関係でFWの立ち位置を変えるのがルナール流で、[4-3-3]や[4-2-3-1]から堅固な守備ブロックを築く。ロシアW杯でも守備こそがチームの支えとなるが、守護神ムニエが所属するヌマンシアで控えに甘んじているのは気がかりだ。それだけに、高さと強さを兼備するベナティアとサイスの両CBが、ポルトガルやスペインのアタッカー陣にどこまで対抗できるかが波乱を引き起こす大前提となる。

攻撃陣ではハキム・ツィエクに注目だ。オランダ生まれの24歳は同国のクラブでプロデビューし、現在は名門アヤックスで背番号10を背負う。アルジャジーラの一員としてクラブW杯に出場したブスファとともに、カウンターを成立させるキーパーソンだ。

カルロス・ケイロス監督が2大会連続で指揮するイランは、アジア予選を圧倒的な強さで突破した。2次、最終予選を通じて無敗でロシアへ到達したのである。最終予選では[4-2-3-1]での戦いが多かったが、その後は[4-3-3]へ軸足を移している。どちらのシステムで戦うとしても、CBブーラリカンジ、セントラルMFエザトラヒ、CFアズムンがセンターラインを構成するはずだ。 “ペルシャのポグバ”の異名をとるエザトラヒは、191センチの大型MFだ。この21歳はロシアプレミアリーグのアムカル・ペルミでプレイしており、W杯を戦う環境に慣れている。

同じことはアズムンにも言える。“イランのメッシ”と呼ばれる22歳の彼は、ロシアPLのルビン・カザン所属だ。スペインとの第2戦は、彼にとってのホームのカザンアレーナで行われる。英雄アリ・ダエイを超えるとも言われるポテンシャルを馴染みの環境で爆発させれば、イラン史上初のグループリーグ突破が見えてくるかもしれない。

文/戸塚 啓

theWORLD193号 2017年12月23日配信の記事より転載

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