優秀な若手が揃うフランス代表。中でも圧倒的な存在感を放つムバッペ photo/Getty Images
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優秀な若手台頭のフランス デシャン体制の集大成
グループCの大本命は今大会の優勝候補にも挙がっているフランスで間違いない。そして残されたひとつの椅子を、デンマーク、ペルーが争う構図が予想される。
まず、初戦でグループ最弱国のオーストラリアと戦うフランスは、自国開催のEURO2016の決勝戦でポルトガルの前に涙を呑んでいるだけに、今大会はそのリベンジの舞台。2012年からチームを率いるディディエ・デシャン監督にとっては、その集大成とも言うべき大会となりそうだ。しかも、準優勝に終わったEURO後にはキリアン・ムバッペ(PSG)を筆頭に、トマ・レマル(モナコ)、コランタン・トリッソ(バイエルン・ミュンヘン)、ウスマン・デンベレ(バルセロナ)、バンジャマン・メンディ(マンチェスター・シティ)、ナビル・フェキル(リヨン)など、優秀な若手タレントが多数台頭。EURO2016で時の人となったディミトリ・パイェ(マルセイユ)がわずか1年足らずでスタメンの座を失っていることからも分かるように、中盤から前線の選手層は大会随一の厚みを誇っている。
とはいえ、そんなタレントの宝庫を率いるデシャンは、個人能力に頼るサッカーではなく、あくまでもバランス重視の“堅い”サッカーを身上とする。基本システムは2パターンで、[4-2-3-1]と[4-3-3]の併用。看板プレイヤーであるポール・ポグバ(マンチェスター・ユナイテッド)を[4-2-3-1]のダブルボランチの一角で起用するか、[4-3-3]のインサイドハーフで起用するかで、指揮官の狙いは見えてくる。
また、ユーティリティ性を兼ね備えたストライカーのアントワーヌ・グリーズマン(アトレティコ・マドリード)が、1トップ、トップ下、ウイングと複数ポジションをこなせる点も大きい。それにより、オリヴィエ・ジルー、アレクサンドル・ラカゼット(以上アーセナル)、あるいは1トップとウイングの両方でプレイできるムバッペといった攻撃の駒の組み合わせは無限大に広がっている。
また、キャプテンで守護神のウーゴ・ロリス(トッテナム)を中心とした守備陣では、サミュエル・ウムティティ(バルセロナ)の急成長ぶりが際立っている。これまではローラン・コシェルニー(アーセナル)に頼っていたCBのポジションも、ラファエル・ヴァラン(レアル・マドリード)も加えた激しいスタメン争いが繰り広げられている。唯一不安を挙げるとすれば、負傷して戦列を離れた右SBジブリル・シディベ(モナコ)と左SBのメンディがまだ万全ではないという点か。
確かに予選ではスウェーデン戦で気を緩めたことで最終的に苦戦を強いられた格好のフランスだが、本番になればその問題も心配はないだろう。あとは、デシャンが最終的にどんなメンバー編成で本番を迎えるか、という点に注目が集まる。
デンマークの運命を左右する大黒柱・エリクセン
デンマーク代表の司令塔エリクセン。本大会でもチームを牽引する photo/Getty Images
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一方、初戦でグループのライバルと目されるペルーと対戦するデンマークは、チームの大黒柱に成長を遂げたクリスティアン・エリクセン(トッテナム)がキーマンとなる。
基本システムの[4-2-3-1]でトップ下を務めるエリクセンは、攻撃の起点となりながら自らも予選12試合で11ゴールをマーク。彼のパフォーマンスはそのままチームの調子に直結するという、まさにデンマークの絶対的存在だ。
長期政権だったモアテン・オルセン前監督からバトンを受けたオーゲ・ハイデレ監督のサッカーは、選手が流動的に動いてパスをつなぐかと思えば、ロングボールを使って大胆に攻めるなど、相手にとっては戦い難いスタイルだ。[4-4-2]で3ラインを維持してオーソドックスなサッカーを実践したかつてのデンマークとは、少々異なる印象のサッカーと言えるだろう。ポーランドと同居した今予選では、序盤の連敗が響いてプレイオフ経由での本大会出場となったが、2度目の対戦ではグループ首位通過を果たしたポーランドにホームで4-0の大勝。首位通過に値する実力者であることを証明している。それだけに、初戦のペルーとの直接対決の結果が、グループの行方を大きく左右することになるだろう。
大陸間プレイオフを突破したペルーとオーストラリアの躍進は
大陸間プレイオフを勝ち抜いたペルー代表の面々 photo/Getty Images
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そのペルーは、ニュージーランドとの大陸間プレイオフに勝利して36年ぶりの本大会出場を達成。ただし、総合力ではデンマークよりもやや劣る印象だ。
2015年からチームを率いるアルゼンチン人リカルド・ガレカ監督のチームは、パスを主体とする南米らしいサッカーを実践。序盤に苦しんだ予選では試合を重ねるごとにチームに連動性と規律が生まれ、2017年に戦った予選6試合で3勝3分けと右肩上がりの成長を遂げている。これまでチームの顔として長年活躍したFWクラウディオ・ピサーロもスタメンの座を奪われるなど、ガレカ体制になってからの新陳代謝も成長の背景にある。
ただし、多くの選手が南米や北中米のクラブでプレイしており、ヨーロッパを知る選手が少ないという点は、ワールドカップを戦い抜くうえでの不安材料と言える。そういう点では、[4-2-3-1]の右ウイングを務めるアンドレ・カリージョ(ワトフォード)、ボランチのレナト・タピア(フェイエノールト)らの今後の成長がカギとなりそうだ。 そして、ペルーにとっての大誤算は、1トップを務める貴重な得点源のパオロ・ゲレーロがドーピング検査の結果によって1年間の出場停止処分を言い渡されてしまったことだろう。そういう点では、指揮官が予選で5得点をマークしたエースの代役を本番までに見つけ出すことができるかが、チームの行方を左右することになりそうだ。
同じく大陸間プレイオフ経由で本大会行きを決めたオーストラリアは、アンジ・ポステコグルー監督が辞任した後の新監督選びが難航。本大会の組み合わせ抽選を監督不在のまま迎えるなど、いまだに新体制は決まっていない。後任候補には、選手を熟知する国内監督が有力視されているが、残された代表活動期間を考えれば、グループ突破は絶望的な状況と言っていい。アジア最終予選ではパスをつなぐポゼッションサッカーを標榜し、そのスタイルの浸透に時間がかかって苦戦を強いられたが、新監督はその路線を踏襲するのか、あるいはフィジカルを生かした以前の“オージースタイル”に回帰するのか、そこに注目が集まる。 いずれにしても、近年は若手の突き上げが乏しいうえ、長年チームのエースを務めたティム・ケイヒルも年齢的に限界が近づいているだけに、今大会でグループリーグ突破を望むのは厳しいというのが現状だ。むしろ、先を見据えて若手主体のチームで経験を積ませることに主眼を置いたメンバー編成にする方が賢明かもしれない。
文/中山 淳
サッカージャーナリスト。海外サッカー専門誌『ワールドサッカーグラフィック』の編集長を経て、編集制作会社『有限会社アルマンド』を立ち上げる。同社では、フットボールコアマガジン『フットボールライフ・ゼロ』を刊行。また、J-SPORTSのフットボール番組『Foot!』にも出演。
theWORLD193号 2017年12月23日配信の記事より転載