この夏、マンチェスター・シティを率いるジョゼップ・グアルディオラ監督は、サイドバックの刷新を図った。トッテナム・ホットスパーからカイル・ウォーカー、ASモナコからバンジャマン・メンディ、そしてダニーロをレアル・マドリードから獲得。補強費用は驚きの1億3850万ポンド( 約194億円)だ。3位に終わった昨シーズンを踏まえ、サイドバックを総入れ替えしたのである。
シティを去ったパブロ・サバレタ(現ウェストハム・ユナイテッド)、ガエル・クリシー(現バシャクシェヒル)、アレクサンダル・コラロフ(現ASローマ)、バカリ・サニャ(現フリー)はすぐれた選手だが、いずれも三十路に入っており、DFとしての型がそこそこ完成されている。年齢的にもチャレンジよりも安定を選択する。すなわち、緻密な戦略・戦術を吸収するには少し歳をとりすぎていたのだろう。だからこそグアルディオラはサイドバックを一新し、向上心のある20代半ばの3選手を獲得した、と推測できる。
残念ながら、新加入の3選手すべてが活躍しているわけではない。移籍早々にフィットできたのはウォーカーだけだ。6節のクリスタル・パレス戦で左ひざを痛めたメンディは長期の戦線離脱を余儀なくされ、ダニーロは環境適応能力にやや問題があるのか、シティに、プレミアリーグに馴染むまで時間がかかりそうだ。この結果、グアルディオラは3バックを断念せざるを得なくなった。
ただ、リーダーたる者はひとつの闘い方に固執せず、複数のゲームプランを用いなければならない。グアルディオラは現有勢力を入念にチェックし、4バックを採用。ファビアン・デルフに白羽の矢を立てたのである。 今夏は放出候補のひとりに挙げられ、残留したとしてもホームグロウン要員のひとりに過ぎなかったはずのデルフの起用に、大方のメディアは懐疑的だった。もはや戦力外。早ければ来年1月の移籍市場で退団。シティ移籍後の2シーズンで出番はほとんどなかったのだから、否定的に考えても不思議ではないだろう。
しかし、グアルディオラは見捨てていなかった。デルフを起用するため、肯定的な人選に着手したと推測できる。①元来はボックス・トゥ・ボックス型のMFなのだから、運動量は水準を超えている。②左足のフィードは精度が高い。攻撃の起点になることが可能だ。ただし、この二点だけでシティの定位置を奪えるとは思えな い。ここでデルフの証言に耳を傾けてみよう。
「練習も含め、毎日が刺激的だ。なかでも、攻守両面で効果的なポジショニングを得るための練習の反復は、目からうろこが落ちるようだったよ。プロになって11年になるけれど、初めて学んだ。監督には感謝している」
ボールサイドだけではなく、オフ・ザ・ボールの動きにも磨きがかかりつつあるデルフを、グアルディオラも「試合を重ねるごとに成長している」と高く評価していた。右サイドのウォーカーとともに中盤インサイドに進入。ケビン・デ・ブライネやダビド・シルバがフリーでパスを受けられるようなポジショニングで相手を引き付けたり、ビルドアップに貢献したり、従来のデルフからは想像できないようなプレイを見せ、シティの左サイドを支えるまでに至っている。
グアルディオラの人材活用により、ひとりのイングランド人が蘇った。一般企業のリーダーも見習うべき、柔軟なマネージメント術である。