【特集/フットボールを進化させる監督たち #2】暗雲を抜け出しつつあるバレンシア マルセリーノはやはり名将だった

新任マルセリーノに率いられ開幕から12戦負けなし!

新任マルセリーノに率いられ開幕から12戦負けなし!

バレンシアを復活させるマルセリーノ photo/Getty Images

人生悲喜こもごもなように、長い歴史を持つサッカークラブにはさまざまな紆余曲折が存在する。ずっと良い流れだったクラブはなく、必ず調子の波が存在する。バレンシアは過去6度リーガを制覇しているが、もっとも最近に調子の波が上昇したのはエクトル・ラウル・クーペルやラファエル・ベニテスに率いられた2000年代前半で、1999-2000、00-01と2年続けてCL決勝に進出し(いずれも準優勝)、01-02、03-04にはリーガで優勝。さらに、03-04はUEFA杯も制覇している。

しかし、これらの栄光は過去へと過ぎ去り、ここ最近は巨額の負債を抱えて不安定な戦いを続ける時期などがあり、指揮官がなかなか定着しなかった。ガリー・ネヴィル(15-16)はわずか4か月で解任されたし、昨シーズンはパコ・アジェスタランにはじまり、ボロ(暫定監督)→チェーザレ・プランデッリ→ボロ(暫定監督)と変遷し、コーチングスタッフが落ち着かなかった。結果として12位(15-16)、12位(16-17)と中位に埋もれており、低迷期に突入していた。

ところが、今シーズンは眼前を覆っていた暗雲が取り払われたかのような戦いを繰り広げている。新たに招聘されたマルセリーノ・ガルシア・トラルのもと、組織的で規律正しく、なおかつバランスも良い[4-4-2]で戦い続け、開幕から第12節まで9勝3分けで負けなしとなっている。効果的だったのはジェイソン・ムリージョ、ガブリエウ・パウリスタという2枚のCBを補強できたことで、経験豊富なエセキエル・ガライも含めて最終ライン中央の選手層が厚くなり、これがチームに安定感をもたらしている。

マルセリーノはカンテラ(下部組織)出身の若手にも積極的にチャンスを与えている。昨シーズンに台頭したトニ・ラト(19歳)は左SBのポジションで先発するだけではなく、試合途中から出てきて中盤でプレイし、展開に変化を与える役目も担っている。また、シーズン前のキャンプで指揮官から高い評価を得たナチョ・ビダル(22歳)も開幕戦で右SBに起用されるなど、練習で活躍することで試合出場できる流れがあり、選手たちは心地よい生存競争にさらされている。なにしろ、ナチョ・ビダルとポジションを争う本来の右SBは実績十分のマルティン・モントーヤで、レベルの高い出場争いとなっている。

今シーズンは的確な補強に成功しており、中盤にジョフリー・コンドグビアを獲得できたのも大きかった。ポール・ポグバにもたとえられる身体能力の持ち主で、この大型MFが加わったことで前方への推進力が増し、得点力がアップしている。まわりへの波及効果もあり、守備的MFとしてパートナーを務めるダニエル・パレホの負担が軽減され、両サイドからチャンスを作り出すカルロス・ソレールやゴンサロ・グエデスの攻撃力も引き出されている。

このソレールとグエデスはともに20歳で、彼らの成長とともにチーム力もアップしていくと考えられる。クラブはしっかりとその辺りを見越しており、ソレールとは21年6月までの契約を結んでいる。グエデスはPSGからのレンタル中だが、ここまでの活躍から判断すると獲得のオファーを出すことになるだろう。

最終ライン、中盤が整備されたことで、前線の2人、シモーネ・ザザとロドリゴ・モレノが気持ちよく得点を量産している。第12節を終えた時点で、ザザが9得点、ロドリゴが7得点しており、リオネル・メッシ(12得点) が首位に立つ得点ランキングで上位に顔を出している。両名がいまのペースで得点を積み上げていくことができれば、バルセロナ、レアル・マドリード、アトレティコ・マドリードの“3強”の牙城を崩せるかもしれない。

クラブ&指揮官にとって流れを掴む大事な1年になる

クラブ&指揮官にとって流れを掴む大事な1年になる

八百長疑惑はあったが、マルセリーノは新天地で相変わらずの手腕を見せている photo/Getty Images

マルセリーノは26歳で現役を引退し、33歳で指導者の道を歩みはじめた根っからの“監督気質”で、52歳にしてすでに豊富な経験がある。以前から組織力を高めて勝負するタイプで、レクレアティボを率いていた06-07には降格候補だったチームを一体感のあるチームに仕上げ、クラブ史上最高順位の8位に導いてリーグ最優秀監督賞を受賞している。チームをまとめ上げるたしかな統率力がある指揮官で、今シーズンのバレンシアでもその手腕をいかんなく発揮している。

とはいえ、これまで順風満帆な監督生活を送ってきたわけではなく、成績不振で解任されたこともあったし、フロントの介入に嫌気が差して 自ら退任したこともあった。世間にもっとも驚きを与えたのが、ビジャレアルを2部から1部へ昇格させ、さらにはEL圏内、CL圏内へと年々引き上げながら、15-16シーズンの終わりに八百長疑惑をかけられたことだった。ただ、「試合結果をゆがめるようなことはなにひとつしていな い。捜査が入ったなら協力する。隠すものはなんらない」との言葉を残したマルセリーノが八百長に関わったという事実は、現在にいたるまで証明されていない。

むしろ、わずか1年の浪人を経て、バレンシアの監督に就任したという事実のほうが人物像をよく表わしている。そして、開幕からここまで卓越した指導力を発揮し、期待以上の成績を残している。バレンシア、そしてマルセリーノにとって、今シーズンはまた新たな流れを呼び込む1年になるかもしれない。

文/飯塚 健司

サッカー専門誌記者を経て、2000年に独立。日本代表を追い続け、W杯は98年より5大会連続取材中。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。サンケイスポーツで「飯塚健司の儲カルチョ」を連載中。美術検定3級。

theWORLD192号 2017年11月23日配信の記事より転載
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