【ロシアW杯展望/グループG】決して磐石でないイングランドとベルギー チュニジア、パナマは泥臭く粘れるか

チュニジア、パナマは1戦、2戦でドローを取りたい

チュニジア、パナマは1戦、2戦でドローを取りたい

欧州予選無敗、43得点を記録したベルギー代表はグループの本命だ photo/Getty Images

グループGは、分かりやすく言えば2強2弱だ。優勝を狙えるだけのタレントを揃えるイングランド代表、ベルギー代表と、大会でも弱小国に分類されるチュニジア代表、パナマ代表が同居する力関係がはっきりした組み合わせになっている。選手層や国際大会での経験値などを考慮すれば、このグループを勝ち抜くのはイングランドとベルギーだ。恐らくは両国ともこの組み合わせを喜んでいることだろう。

チュニジアは各組1位しかワールドカップ出場権が与えられない厳しいアフリカ予選を勝ち抜いたチームだが、ワールドカップでの経験に乏しいコンゴ民主共和国代表、リビア代表、ギニア代表と同居する比較的楽なグループだった。カメルーン代表、アルジェリア代表、ザンビア代表と同居したナイジェリア代表と比較するとグループの強さに大きな差がある。

北中米カリブ海予選を突破したパナマは今回がワールドカップ初出場だが、こちらも予選では運に恵まれた印象が強い。MLSの盛り上がりとともにサッカー人気が高まっていたアメリカ代表の状態が上がらず、パナマは3勝4分3敗の成績ながらグループ3位に滑り込んで出場権を獲得することができた。しかも予選最終戦のコスタリカ代表戦ではFWガブリエウ・トーレスのシュートがゴールラインを割っていないにも関わらず、主審がゴールと認める疑惑の判定があったことも注目を集めた。試合はパナマが2-1で勝利したが、あの疑惑のゴールがなければ勝ち点3を獲得することはできなかったはずだ。
ポイントはこの2チームがどこまでベルギーとイングランド相手に粘れるかだ。このグループの厄介なところはイングランドとベルギーの直接対決が第3戦に予定されており、彼らがこの一戦を消化試合で迎える可能性があることだ。仮に両チームが初戦で対戦し、ど ちらかが黒星スタートでも切るようなことがあればチュニジアとパナマにも付け入る隙が生まれるかもしれない。しかしこの順番でいくとイングランドとベルギーがあっさり2連勝を飾り、パナマとチュニジアの敗退が早々に決定してしまう盛り上がりのないグループになる恐れがある。

最終予選で出場権獲得に繋がる疑惑のゴールを決めたパナマのガブリエウ・トーレス(左) photo/Getty Images

恐らくはチュニジアもパナマもイングランドとベルギー相手には負けないことを優先した戦いを選択し、最後の直接対決で勝ち点3を獲得して決勝トーナメント進出を狙ってくるだろう。どちらかが第3戦までに2分けの状況を作ることができれば、このグループは非常に面白くなってくる。

チュニジアは決して派手なチームではないが、チーム全員でのハードワークを武器にアフリカ予選を戦ってきている。守備面ではセンターバックのシアン・ベン・ユセフらを中心に4バックと3バックを使い分け、中盤でもモハメド・ベ ン・アミルを中心に90分間攻守に走り回る泥臭いスタイルを貫いている。攻撃面は最前線のタハ・ ヤシン・ヘニシ、やや独り善がりなところも目につくが、ギニア戦でハットトリックを達成するなど技術のあるFWユセフ・ムサクニ、数少ない欧州組のディジョンMFナイム・スリティ、レンヌMFワフビ・ハズリら個の力に頼るケースが多く、パターンは限られている。攻撃で相手を押し込むことは難しいため、カウンターや精度の高いキックを誇るサイドバックのアリ・マールルのセットプレイなどを軸に何とか糸口を見つけ出したいところだ。

パナマは身体能力の高い選手が揃っており、リーチの長い選手も多い。思わぬところから足が出てくる印象があり、1対1は攻守両面において意外性がある。またボールを持つと細かくパスを繋いで相手を崩そうとするケースが多く、ボランチを務めるベテランのガブリエウ・ゴメスがビルドアップの中心となる。その相棒を務めるアニバル・ゴドイとのコンビは予選を通してチームの柱となっており、ここでどこまでボールを収められるかが1つのポイントとなる。ボールを保持できない場合は最前線にFWブラス・ペレスやベテランのルイス・テハダなどを配し、パワーを活かして強引に放り込む手もある。対して守備組織ではラインコントロールが乱れたり、ボールウォッチャーになるなど欠点も目立つ。予選ではアメリカに0-4で完敗を喫するなど、決して盤石とは言えない。組織力での勝負というよりは個の身体能力での勝負となり、そこで違いを作ることができればベルギーとイングランドを90分間苦しめることは可能かもしれない。 そのサプライズを起こすだけの身体能力は有している。

イングランド、ベルギーは不安定さがアキレス腱

イングランド、ベルギーは不安定さがアキレス腱

主砲ハリー・ケインの出来がイングランドの命運を分ける photo/Getty Images

パナマとチュニジアにとっては難しいチャレンジだが、イングランドとベルギーにも欠点はある。ベルギーはチェルシーのエデン・アザール、マンチェスター・シティのケビン・デ・ブライネ、マンチェスター・ユナイテッドのロメル・ルカクなどタレントは揃っているものの、攻撃は個の能力に頼った崩しがほとんどだ。組織的に連動して相手を崩すケースは少なく、1対1の勝負で粘られると攻撃が詰まってしまう。その場合はお得意のセットプレイに頼ることになり、32チーム中No.1クラスの高さとパワーで強引にゴールをこじ開けるくらいしか手がなくなってしまう。欧州予選でもセットプレイから得点を重ねており、とにかくシュートを打ってコーナーキックを獲得するのも彼らのパターンだ。守備にも隙がある。今のベルギーは3バックを採用することも多いが、統率が取れているとは言い難い。簡単に裏を取られたり、しっかりとカバーできていない部分も目立ち、欧州予選ではボスニア・ヘルツェゴビナ代表と4-3の打ち合いを演じるなど不安定な部分もある。

イングランドはプレミアリーグで 流行している3バックを採用するようになってから攻撃の幅が広がり、ストロングポイントでもあるマンCのカイル・ウォーカーやトッテナムのダニー・ローズ、キーラン・トリッピアーら超攻撃的なウイングバックの選手を高い位置に押し上げることが可能になったのは大きい。 それに合わせてトッテナムのデル・アリら中盤の選手が自由にポジションを変えるスタイルは効果的で、これをW杯本番でも続けるとなれば流動的な攻撃からチャンスを作り出していくことは可能だろう。ただし決定力には課題があり、チャンスは作ってもシュートが入らないといったパターンに陥る危険性もある。予選でも大勝した試合は少なく、全てはトッテナムのFWハリー・ケイン次第だ。

イングランド、ベルギーも盤石とは言い難いところがあるものの、それでもパナマとチュニジア相手に黒星を喫する姿は想像しにくい。 やはりイングランドとベルギーが決勝トーナメント進出の本命であることに変わりはない。あとはどちらが首位で通過するかだが、予選を通しての戦いを考えるとベルギーの方が組織的な穴は目立つ。しかしそれをチュニジアとパナマが的確に突けるのかは疑問があり、多少のトラブルであれば自慢の攻撃力で跳ね返すことができる。セットプレイの強さを考えると、ベルギーの方が勝ち点を取りこぼすケースは少ないはずだ。イングランドは国際大会でややスロースタートになるところが難点で、チュニジアとパナマ相手に苦戦する可能性は十分に考えられる。EURO2016の失敗から学んでいるはずだが、イングランドがスムーズに3連勝するとも考えにくい。首位通過の可能性はベルギーの方が高いと予想する。

文/冨田 崇晃(theWORLD)

theWORLD193号 2017年12月23日配信の記事より転載

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