【特集/フットボールを進化させる監督たち #4】シンプル・イズ・ベスト ハインケスが伝授した勝つための方程式

見事にバイエルンを蘇生させたハインケス監督(左から2番目) photo/Getty Images

的確なチューニングで瞬く間に首位を奪還

リーグ戦では格下相手に勝ち点を取りこぼし、チャンピオンズリーグではパリ・サンジェルマンに0-3で完敗。ドイツの絶対王者バイエルンが序盤から躓いたことで、今季こそブンデスリーガ制覇の記録が途絶えるのではないかと騒がれた。ところが、成績不振で解任されたカルロ・アンチェロッティに代わって、過去3度バイエルンを指揮してきたユップ・ハインケスが戻ってきたことで状況は一変。チームは落ち着きを取り戻し、あっさりとブンデスリーガ首位の座をドルトムントから奪い返してしまった。

ハインケス就任で大きく変わったのは何か。ラインの高さと攻撃性だ。システムは[4-3-3]、あるいは[4-2-3-1]から変わっていないが、最終ラインの高さには変化がある。アンチェロッティのチームは最終ラインが下がってしまうケースが多く、中盤でプレスがしっかりとかからない問題があった。例えば2-0とリードしながら最終的に2-2に追いつかれてしまった9月のヴォルフスブルク戦では、中盤からジョシュア・ギラボギにサイドチェンジのボールを通されてしまい、それを受けたパウル・フェルハールのクロスにダニエル・ディダヴィが合わせる形で失点している。サイドチェンジのボールを蹴ったギラボギには全くプレスがかかっていない状態で、バイエルン守備陣はそこから大きく崩れてしまった。

これだけではない。アンチェロッティ解任直後のヘルタ・ベルリン戦でも2-0から2-2に追いつかれているが、この試合でもバイエルンは最終ラインが上がり切らないところから失点してしまっている。51分には日本代表FW原口元気がドリブルでバイエルン守備陣を崩してアシストを決めるスーパープレイがあったが、これも前からプレスをかけた左サイドバックのダビド・アラバに後ろの選手が合わせることができなかったところから始まっている。そこから右サイドでヘルタの選手をフリーにし、原口にサイドチェンジのボールを通されてしまった。

この問題をハインケスは即座に解決。就任からチームはかなりラインを高く設定するようになった。センターバックのマッツ・フンメルスとジェローム・ボアテングも攻撃時は相手陣内に入るところまでラインを上げ、ボールを失った場合は一斉に前からプレスをかけていく。それによって相手陣内でボールを回収できるケースが増え、二次攻撃に繋げやすくなった。攻撃のパターンは右のアリエン・ロッベン、負傷離脱しているフランク・リベリに代わって左に入っているキングスレイ・コマンを使用するシンプルなものが基本だが、高い位置でボールを奪えるために彼らが仕掛ける回数が増加。ボールを素早く回収する守備環境を整えたことが好循環を生んでいる。

また、ハインケスはサイドバックの選手にもロッベンとコマンを積極的に追い越すよう指示を出している。アンチェロッティはバランスを考慮して戦っていたが、ハインケス就任と同時にサイドバックが相手のペナルティエリア内まで侵入するケースも増えた。5-0の大勝を収めた10月14日のフライブルク戦が良い例だ。1点目はコマンを追い越したアラバがペナルティエリア深くまで侵入し、その折り返しが相手のオウンゴールに繋がった。5点目の場面では右サイドバックのジョシュア・キミッヒがペナルティエリア内でコマンのクロスに合わせて得点を記録しており、サイドバックの攻撃性は間違いなく上がっている。キミッヒはその4日後のチャンピオンズリーグ・セルティック戦でも左サイドからコマンが上げたクロスにヘディングで合わせて得点を記録しており、ハインケスの就任で大きな変化を遂げている。

さらにハインケスは選手の起用法を明確にし、サイドで起用されることも多かったトーマス・ミュラーを中央で固定。インサイドハーフに入るチアゴ・アルカンタラにも高い位置を取らせ、高さと奪取力のあるハビ・マルティネスをアンカーで起用。シンプルではあるものの選手個々の役割が明確となり、攻守両面でスピードアップできている。

勝ちきれないチームから常勝チームへの蘇生

勝ちきれないチームから常勝チームへの蘇生

活き活きと攻撃に参加するT・アルカンタラ photo/Getty Images

ハインケス就任後のバイエルンは8戦全勝と好調で、失点もわずかに3だ。しかし特別な魔法を使ったわけではなく、ハインケスはライン設定を高くしてプレスの強度を上げ、選手のポジションと役割を明確化。選手個々の能力を強みとしたシンプルなフットボールを志向している。所属している選手に違いはあるが、これは3冠を達成した2012-13シーズンのハインケス・バイエルンと同じやり方だ。

思えばバイエルンは2013-14シーズンからジョゼップ・グアルディオラの下で美しい形のサッカーを追い求め、よりポゼッションできるチームに変化した。確かにフィリップ・ラームを中盤で起用するなどグアルディオラ政権は驚きの采配に満ちていたが、結局2年連続チャンピオンズリーグベスト4の壁を破ることができなかった。それを引き継いだアンチェロッティはグアルディオラの遺したベースを軸に戦ったが、バイエルンが最も勝てる戦い方はハインケスが作り上げたシンプルなスタイルなのだろう。

やり方が目新しいわけではない。だが、ハインケスの的確な調整とマネージメントによって、バイエルンはあの嫌らしいほどの強さを手に入れている。勝ちきれないチームから磐石の常勝チームへ。時代は常に螺旋状に巡る。これもまた、進化なのだ。

文/冨田 崇晃(theWORLD)

theWORLD192号 2017年11月23日配信の記事より転載
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