日本代表監督史上最も”読めない”男 ハリルホジッチの実力は本当にこの程度なのか

日本代表を率いるハリルホジッチ監督 photo/Getty Images

不気味なほど静かだった韓国戦

フィリップ・トルシエ、イビチャ・オシムなど、これまで日本代表を指揮してきた外国人監督は独特な個性を持つ人物が多かった。まだまだ歴史の浅い日本サッカー界はそこからあらゆることを学んできたわけだが、現在指揮を執るヴァイッド・ハリルホジッチほど読めない監督も珍しいのではないだろうか。就任当初からメディアへの対応を含め個性的な人物と評判だったが、何を考えているのかが分かりにくい。

今回日本で開催されたEAFF E-1フットボールチャンピオンシップ2017(旧東アジア杯)でも、ハリルホジッチの考えはよく分からなかった。特に16日に行われた韓国代表戦だ。1-4と完敗したことも衝撃だったが、ハリルホジッチが何もアクションを起こさなかったことの方が衝撃だった。2018ロシアワールドカップへ向けた準備期間とはいえ、勝てば優勝が決まる一戦だ。国内組をテストするのが第1の目的だったとしても、逆転を目指して攻撃的なシステムに変更することもできたはずだ。しかし点差が開いてもハリルホジッチのスタンスは変わらず、ベンチで力なく座っている時間も長かった。あくまで選手のテストと割り切っていたのか、それともただ単に打つ手がなく呆然としていたのか。ここまで真意が読みにくい監督も珍しい。

そもそもハリルホジッチは就任当初から負けず嫌いな部分を見せており、いくらテストが目的だったとはいえ日本開催の今大会で優勝を逃すことは性格的に許せないはず。またアルジェリア代表を率いて2014ブラジルワールドカップを戦った際には、毎試合のようにスタメンを入れ替えるなど奇策を講じ、ベスト16ではドイツ代表をあと1歩のところまで追い詰めている。本当にハリルホジッチが能力のない監督ならば、アルジェリア代表をワールドカップベスト16に導くことなど出来ないはずだ。現にハリルホジッチ退任後のアルジェリアは苦戦しており、2018ロシアワールドカップの切符を掴むことに失敗している。ハリルホジッチの理想とするサッカーとアルジェリアの選手たちの特性が噛み合っていたのは事実だが、それだけでアルジェリアの躍進を説明するのは無理がある。毎回のようにスタメンに手を加えていたところを見ても、相手に合わせて戦術を変える柔軟性もある。対戦相手の戦い方を研究するのも得意としており、8月に行われたアジア最終予選のオーストラリア代表戦でも相手を完璧に攻略して2-0の完全勝利を収めている。相手のやりたいサッカーを見抜き、それに合わせて戦略を構築していくやり方はハリルホジッチの十八番だったはず。それもアルジェリアをベスト16に導いた理由の1つなのだが、なぜか今回の韓国戦はその特性が活かされなかった。
韓国は11月の親善試合でコロンビア代表を撃破したが、その際にも[4-4-2]のシステムを試している。韓国国内でも2トップのシステムが合っているといった意見が多く、今回[4-4-2]で臨んでくることは大いに予想できたはず。さらに韓国は攻撃時に両サイドバックを高い位置に押し上げ、サイドハーフの選手が中にポジショニング。そして本来サイドバックがいるべきポジションにボランチの選手をスライドさせる形でビルドアップを試みていたが、これは近年のサッカー界ではよく見られるオーソドックスなやり方だ。ハリルホジッチもそれは分かっていたはずだが、日本はこのポジションチェンジになかなか対応できなかった。誰をマークすればいいのか分からないといった状況に陥っており、韓国の好き放題にプレイさせた結果が1-4の完敗だった。試合中に守備のポジショニングを修正することはできたはずで、リードを奪われたのならばもっと強引なプレスをかけてもよかった。しかし、ここでもハリルホジッチは実におとなしかった。このあたりが何とも解せない。

ハリルホジッチは日本代表監督に就任した当初も原口元気をインサイドハーフで起用してみるなど、思わず首をかしげたくなる采配もあった。こうした予想外の策を選択するところもハリルホジッチの特徴だったのだが、あの完勝したオーストラリア戦以降は単調な試合ばかりだ。11月の欧州遠征も今回の韓国戦と似たような感覚があった。ブラジル代表戦、ベルギー代表戦の両方とも相手に先制を許す苦しい展開だったが、なぜかハリルホジッチは強引に得点を奪いに行こうとしなかったのだ。特にベルギー戦は選手たちの動きもよく、ボールを保持するチャンスもあった。0-1というスコアを考えても攻撃的なカードを切って同点、さらには逆転まで目指してもいい。しかし日本の戦い方は最後まで変わらず 、自陣でしっかり守備ブロックを作るスタンスをハリルホジッチは貫いた。あの試合でもなぜもっとラインを高く設定して同点ゴールを狙いにいかないのかと疑問の声が挙がったが、今回の韓国戦も同じだ。交代策も予想の範囲内で、最後まで前線から必死にプレスをかけようとの姿勢は見られなかった。

因縁のライバルである韓国相手に1-4で完敗したことを考えれば、ワールドカップ本番まで半年という現段階での監督解任論が浮上するのも無理はない。韓国戦に限らず、北朝鮮戦と中国戦も内容は決してよくなかった。この大会を通してポジティブな部分を見つけるのは限りなく難しい。しかし、ハリルホジッチの無気力感が不気味なのだ。11月の欧州遠征、今回のEAFF E-1フットボールチャンピオンシップ2017でも勝ちたいとの強い思いを感じることができず、がむしゃらさがない。アルジェリア代表なら本気でブラジルワールドカップ制覇が可能と思っていたとまで口にしていた人物の戦い方には見えないのだ。これがワールドカップ本番だとするなら、ハリルホジッチは本当に何もせずベンチに座ったまま90分間を終えるだろうか。そこまで諦めのいい人物ではないはずだ。

仮にハリルホジッチが今大会を含めた全てのゲームをワールドカップ本番への準備と捉え、あえて戦術の全てを見せずに戦っているのだとすれば解任してしまうのはもったいない。日本サッカー界は親善試合の結果に一喜一憂してしまうところがあり、4年前のアルベルト・ザッケローニ体制では欧州遠征でオランダ代表と引き分け、ベルギー代表を撃破したことで大いに盛り上がった。ブラジルワールドカップでベスト8進出も夢ではないとの期待感もあり、過去の代表チームを含めて最も盛り上がっていたと言ってもいいかもしれない。しかし、世界は親善試合の結果に一喜一憂することはなく、どこまでいってもテストとしか捉えていないところがある。ハリルホジッチもワールドカップ出場を決めたオー ストラリア戦以降のゲーム全てを選手のテストと割り切ってこなしているとすれば、そのやり方がワールドカップ本番で実を結ぶのか見てみたいところではある。

オーストラリア戦以降の不甲斐ない結果の影響で日本のサポーターの怒りは頂点に達しているはずで、解任を求める者も多いだろう。ハリルホジッチのことを能力がないと切り捨ててしまう者もいる。しかし、アルジェリア代表監督時代を含めここまで見せてきた姿勢や戦い方を考えると、これがハリルホジッチの実力とは思えない。オーストラリア戦を含め、アジア最終予選は偶然の力だけで勝ち進めるほど甘くはない。チームが違うとはいえワールドカップでベスト16進出、さらには世界最強のチームの1つであるドイツを偶然だけで追い詰めるのも無理だ。ワールドカップ本番へ向けて戦術の全てをさらけ出すことはせず、コロンビア代表、セネガル代表、ポーランド代表相手にサプライズ を起こすための策を練っているのではないか。そう期待させられるほど今回のハリルホジッチの無気力ぶりは不気味だったが、今ハリルホジッチは何を考えているのだろうか。

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