名良橋晃の定点観測♯39「現状の強化には限界がある。W杯で強国に勝つためには柔軟な判断が必要」

選手は違いを体感できたはず。“惜敗”ではなかった欧州遠征

選手は違いを体感できたはず。“惜敗”ではなかった欧州遠征

ブラジルの各選手は一枚も二枚も上手でプレシャーをかけてもかわされた。Photo/Getty Images

日本代表が欧州遠征を行ない、ブラジルに1-3、ベルギーには0-1で敗れました。まずブラジル戦についてですが、端的に指摘すると守備に関してこれまではボールを奪えていたところで奪うことができず、プレッシャーをうまく外されていました。

試合序盤から積極的にプレッシャーをかけていましたが、ボールを奪えないことで全体的に中途半端になり、ビデオ判定で先制点を許したことでさらにバランスを崩してしまいました。ただ、私はPKによるあの失点がなかったとしても内容や結果は変わらなかったと考えています。ピッチの上では、普段見ているだけ、聞いているだけではわからない貴重な実体験ができます。これまではボールを取れていたところで取れない──。相手が一枚も二枚も上で、この違いは実際に戦った選手にしかわからない部分があります。そういった意味で、今回選手たちはいろいろな質の違いを体感できたと思います。

ブラジルの選手たちはポジジョン取りがうまく、嫌なところに各選手が顔を出し、正確にパスをつないできました。プレッシャーをかけても素早くいなされるため、ボールを奪いに行くのか、行かないのか意思統一が乱れてきて中途半端になっていきました。

後半にセットプレイから1点を返したことで「後半は1-0で勝っている」という評価も聞かれましたが、もし同点で折り返していたらもっとパワーアップしたブラジルが見られたはずです。GKを交代するなどして自分たちはあまり前に出ず、巧みに日本の背後を狙う。ブラジルはそういうサッカーに切り替えていました。

改めて感じたのですが、ブラジルは試合を通じてオフ・ザ・ボールも含めて動きにムダがなく、シンプルなところは本当にシンプルにプレイしていました。パススピードやパスの質にも大きな違いがあるので、こうした部分は必ず上げていかないといけないです。

センチメーターパスと言えばいいのか、少しでもパスがズレてトラップがルーズになると、すぐに相手DFに奪われます。また、何気ない横パスをカットされたり、ゴール前とのタイミングを合わせずに簡単に入れてしまうクロスも気になりました。こうしたパス1本の質にこだわってプレイしないと、世界では戦えません。

これはベルギー戦でも同じで、ブラジル戦の反省を生かして意思統一してプレッシャーをかけていましたが、ベルギーはいつもと少しメンバーが変わっていて、なおかつ試合序盤の日本の戦い方を見て(日本に)ボールを持たせている時間もありました。そして、ブラジル戦と同じく日本の攻撃には“怖さ”がありませんでした。ベルギーにとっては対戦相手との実力差や試合展開を考え、それにマッチしたゲームプランで戦い、しっかりと1点を奪って勝利した一戦でした。

惜敗でもなんでもなく、ベルギーが賢く戦った結果の1点差でした。彼らの戦い方にはメリハリがあり、どういう状況においてもしたたかに1点を奪って勝利できるのが強いチームです。私は98年フランスW杯で実際にプレイした経験から、強国の真の強さを肌で知っています。あのときもアルゼンチン戦、クロアチア戦ともに0-1でしたが、彼らはそういう勝ち方ができるのです。このままだと、約7か月後のロシアW杯でも同じ光景を目にすることになるかもしれません。

メディアが「惜敗」として報道したのも気になりました。実際は2戦とも実力差を感じさせられた惜しくもなんともない敗戦です。日本サッカー全体の成長を考えると、「惜敗」として伝えるのではなく、ありのままの事実を伝えるべきだと感じました。

自分たちで変える勇気を選手たちに持ってほしい

自分たちで変える勇気を選手たちに持ってほしい

欧州遠征を受けて戦術をどう改善するか。ハリルの決断が注目される。Photo/Getty Images

厳しい見方かもしれませんが、私は日本代表の現状を考えると強国を相手に引いてカウンターを狙うサッカーでは勝利するのは不可能だと考えています。ボールを奪ってから素早く前線に縦パスを出しても、質の高いセンターバックによって潰されてしまいます。実際、いまは大迫勇也がカウンターの起点になってくれないと攻撃にならない状態ですが、ブラジルやベルギーを相手にするとなかなか競り勝つことができません。前線にボールが収まらないとサイドを含めた後方の選手が前に出て行くことができず、必然として重心が下がってしまいます。

ヴァイッド・ハリルホジッチ監督がこの2試合の結果を受けてどう戦術を改善していくのか興味があります。個々の選手がデュエルの攻防で強くなるのも大事ですが、身体能力は急激に高まるものではありません。現在の戦術だと絶対に限界があります。

過去、ハリルホジッチ監督はアルジェリアやコートシボワールなど各選手の身体能力が高いチームを指揮してきました。対して、日本代表は身体能力で劣る部分を組織力でカバーしながら戦ってきました。アルジェリアやコートジボワールでやってきたことと同じ取り組みをしても、日本では同じ結果を得られません。もちろん、「個」の質を高めるのも大事ですが、組織力、数的優位を考えながら柔軟に戦ってこそ日本代表の良さが出ます。

このタイミングで戦術を変えることは決して悪いことではありません。2002年日韓W杯、2010年南アフリカW杯では強化の過程で戦術に変更を加えてラウンド16に進出しました。逆に、2006年ドイツW杯、2014年ブラジルW杯はアジア予選からの戦術を貫いて戦い、グループリーグで敗退しました。すべてを変更する必要はなく、いまのサッカーにうまく日本の選手たちが持つ特長をミックスし、グループとして最大の力を発揮できる戦いをしていけばいいと思います。

これまで日本代表の強化はハリルホジッチ監督が示す方向性に進んでいましたが、日本サッカー協会が現状のままでいいのかしっかりと考え、意見交換しながら強化していくべきです。また、選手には自分たちで現状を変える勇気を持ってほしいです。自分が持っているストロングポイントをもっとピッチで出していい。実際にピッチでプレイするのは選手自身なので、ハリルホジッチ監督のスタイルにプラスして、自分たちのカラーを出すという強い気持ちで取り組んでほしいです。

構成/飯塚健司

theWORLD192号 2017年11月23日配信の記事より転載

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