【特集/ビッグクラブ新時代 #4】バイエルンに早くも復活の兆し ドルトムントは突っ走りたい

ハインケスの招聘によってバイエルンに復活の兆しあり

ハインケスの招聘によってバイエルンに復活の兆しあり

監督交代があったバイエルンだが、ハインケスのもと復活の兆しが見られる photo/Getty Images

なんだかんだあったものの、バイエルンは本来のバイエルンに戻りそうである。

監督就任2年目を迎えたカルロ・アンチェロッティのもと今シーズンに挑んだバイエルンだったが、第3節 ホッフェンハイムとのアウェイゲーム に0-3で完敗すると、第6節ヴォルフスブルクとのホームゲームには2-2で引き分けた。ミュンヘンでのヴォルフスブルク戦には抜群に相性がよく、過去20戦19勝1分けだったのでよもやの引分けである。さらには、この一戦から中4日だったCLのPSGとのアウェイゲームにも 0-3で敗れた。

すると、PSG戦の翌日にバイエルンはアンチェロッティを解任した。その理由についてスポーツディレクターのハサン・サリハミジッチは、「望むような成長を遂げていないことに気がついていた。(PSG戦で)状況が改善されない事実を目の当たりにし、われわれは決断を迫られた」とオフィシャルHPにてコメントしている。
その後、ウィリー・サニョル暫定監督のもと戦ったヘルタ・ベルリン戦(△2-2)を経て、ユップ・ハインケスが新監督に就任した。ハインケスは72歳と経験豊富な老将で、過去に4度バイエルンを指揮したことがある。バイエルンのことを誰よりも知り尽くしており、前回2011-12〜2012-13のときも前任者のルイ・ファン・ハールの型にはめる戦術によってチームが機能不全に陥っているなか就任し、短期間で立て直して2012-13にブンデスリー ガ、DFB杯、CLを制覇して3冠王者となっている。そして、同年で勇退し、翌年からペップ・グアルディオラ→アンチェロッティと監督が引き継がれてきた。つまり、バイエルンの5連覇はハインケスからはじまっているのだ。

パリSGに敗れ、ミュラーが顔を覆う。翌日、アンチェロッティが解任された photo/Getty Images

もともと質の高い選手をスタメンからベンチまで揃えており、少し歯車がかみあっていないだけだった。「チームを軌道に乗せる必要があ る。選手たちがふたたび自信を持ってプレイすることが大事」と語っていたハインケスのもと足元を見つめ直すと、新たなスタートとなった第8節フライブルク戦に5-0で完勝し、続くCLのセルティック戦にも3-0で勝 利するなどさっそく好結果を残している。

「心構えはしっかりできていた。ボクたちはやる気に満ち、勢いを持ってホームで勝点3を取るつもりだった」(トーマス・ミュラー)

「現状より前進し、向上することを目指していた。さらなる一歩を踏み出せた」(アリエン・ロッベン)

「ボクたちがサッカーをする喜びに満ちているのを目にすることができたと思う」(ジェローム・ボアテング)

いずれもセルティック戦後のコメントであり、選手たちが感じていた“違和感”が監督交代によって払拭され、高いモチベーションを持って戦えたことがわかる。どうやら、バイエルンはクラブを熟知したハインケスのもと復活しそうである。

そうなると、彼らの6連覇を阻止するためには他チームがバイエルン以上に質の高い戦いを続けないといけないが、あまりにも難易度が高い挑戦となる。もしそれができるとしたら、バイエルンに次ぐ選手層の厚さを誇り、ピーター・ボス新監督のもと良いスタートを切ったドルトムントしかない。

第11節の直接対決が前半戦最大のヤマ場になる

第11節の直接対決が前半戦最大のヤマ場になる

攻撃的なサッカーを締めくくる前線には、昨季得点王のオバメヤンがいる photo/Getty Images

第8節を終えて首位に立つドルトムントは新たな指揮官のもと、新加入選手が活躍することで確実に勝点を積み重ねている。ボスは臨機応変にシステムを選択していた前任者のトーマス・トゥヘルと違い、[4-3-3]で戦うことでチームにたしかな方向性を植え付けている。考え方がブレないことで、ダン・アクセル・ザガドゥ、エメル・トプラク、マキシミリアン・フィリップ、アンドリー・ ヤルモレンコといった今シーズンからプレイする選手たちを加えて攻撃的なサッカーを展開している。8試合で23得点はリーグ最多、さらに5失点は最少であり、攻守のバランスが取れたチームに仕上がっている。

活躍するのは新加入選手だけではなく、ヌリ・シャヒン、マリオ・ゲッツェといったかつてドルトムントの一時代を築いた選手たちも元気な姿をみせている。香川真司も交代出場が多いなか、すでに2得点して存在を示している。なにより、前線には昨シーズン得点王のピエール・エメリク・オバメヤンが健在で、すでに10得点(第8節終了)している。ドルトムントがシーズン序盤の好調さ を維持できれば、バイエルンに追随できると考えられる。

とはいえ、チームとしての力強さや安定感を考えると、やはり不安がある。CLではトッテナム、レアル・マドリードにどちらも1-3で敗れ、アウェイとはいえアポエル・ニコシアにも勝てなかった(△1-1)。ブンデスリーガでも第8節ライプツィヒ戦に2-3で競負け、リーグ戦で初黒星を喫している。首位には立っているが、2位バイエルンとの勝点差はわずかに「2」だ。監督交代によって“ライバル”が目を覚ましたと考えられるいま、ドルトムントは今後勝点を取りこぼしてはいけない。どん欲に、したたかに勝点3を積み上げていかないとマイスターシャーレ(優勝皿)を獲得するには至らないだろう。

タイミングがいいことに、11月4日の第11節にドルトムント×バイエルンの直接対決がある。直前の第10節にはバイエルン×ライプツィヒという上位対決もある。この2試合にハインケスが率いるバイエルンが連勝するようだと、ブンデスリーガに変化は起きず、ここ数年と同じ展開になるだろう。逆に連敗すると、優勝争いが一気に面白くなる。

経験豊富な老将を迎えた絶対王者バイエルンが本来の力を発揮し、6連覇に向かっていよいよ態勢を立て直したことを誇示するのか。それとも、新たな指揮官のもと変革中のドルトムントが勢いのままに王者を倒し、勝点差を広げるのか。第11節の直接対決は、前半戦最大のヤマ場になる。

文/飯塚 健司
サッカー専門誌記者を経て、2000年に独立。日本代表を追い続け、W杯は98年より5大会連続取材中。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。サンケイスポーツで「飯塚健司の儲カルチョ」を連載中。美術検定3級。

theWORLD191号 2017年10月23日配信の記事より転載

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