【ハリルジャパンの此れまで・此れから #2】変幻自在のカメレオン ハリル戦術が光った3つのモデルケース

日本が進むべき道とは?

日本が進むべき道とは?

ロシア行きをすでに決めたハリル photo/Getty Images

ヴァイッド・ハリルホジッチ監督率いるサムライブルーは8月末、熱き声援が木霊する埼玉スタジアムにてロシアW杯アジア最終予選のオーストラリア戦を完封勝利し、見事6大会連続となるW杯本戦へのチケットを手にした。同予選初戦のUAE戦では本拠地でまさかの黒星を喫するなど、その戦いは多くの試練と隣り合わせだったものの、柔軟な戦術の使い分けが功を奏し、最後には無事に朗報を届けている。

では、およそ1年間に及ぶこの最終予選を戦い終えた今、名将ハリルホジッチが採用すべき日本代表の“理想形”とはいかなるものなのか。来年の本大会に向けてのターニングポイントとなりうる3つの試合を例に挙げ、その収穫と課題を解析してみよう。

第9節 vsオーストラリア 見事にハマったプレイメイカー無しの豪州専用型

予 選 突 破を決めたホームでの オーストラリア戦は会心のゲーム だった。ハリルホジッチ監督がよく 口にする「デュエル」「縦に速い攻 撃」が存分に発揮された。長谷部 誠、井手口陽介、山口蛍のボール ハンター3人をM Fに起用。乾貴 士、浅野拓磨の両ウイングも守備 のときは引いてスペースを埋める。 中盤を5人にした守備はオーストラ リア 対 策 であるとともに、4 人 の ゾーンでは不安が残る弱点を補っ た。5人がリトリートしてから人をつかまえにいくことでオーストラリア の組み立てを寸断。攻撃は相手 ディフェンスラインの裏にスペース があるうちに快足の浅野、乾を走 ら せ る 。C F 大 迫 勇 也 の キ ー プ 力 を足がかりにしたカウンターアタックも効果的だった。

ハリルホジッチ監督は対戦相手を分析して対策を練るのが得意で ある。予想されるゲームの性格に 合 わ せ て 起 用 す る 選 手 を 変 え 、 戦 い方に変化をつける。オーストラリア戦ではプレイメイカータイプの M F を 置 か ず 、F W も 速 攻 に 特 化 し た選手を使った。オーストラリアに ボールを持たせてカウンターを狙う ほ う が 有 利 と 判 断 し 、 そ の ゲ ー ム プ ランは見事に的中している。 選手起用で変化をつけるので、 逆に戦い方のベースは一定にす る。そうでないと試合ごとにメンバーが変わるので選手が混乱する恐れがあるからだ。当 初は守 備 時[ 4 - 4 - 2 ]のブロックがベースだったが、 日本選手はゾーンの[ 4 - 4 ]ブロッ ク 形 成 に 難 が あ り 、そ こ で[ 4 - 5 - 1 ] として早めに人につく守備に変更。 攻撃時にポジションをあまり動かさ ないオーストラリアに対してはハ マっていた。

第6節 vsUAE 人選が光ったハリルの確かな眼

第6節 vsUAE 人選が光ったハリルの確かな眼

多くの戦術を敷いてきた日本代表 photo/Getty Images

ホームでの予選緒戦で苦杯を喫した相手とのアウェイ戦。試合内容は互角だったが決定力の差で勝利した。ハリルホジッチ監督らしい戦い方だったといえる。

ポイントはUAEの攻撃のキーマンであるオマル・アブドゥルラフマンを封じたこと。中盤の右サイドから中央へ入ってきて決定的な仕事をするオマルに対して、左SBの長友佑都とこの試合に急遽抜擢したベテランの今野泰幸が監視。オマルに効果的なプレイをさせなかった。UAEの決定機を阻止したGK川島永嗣の活躍も光った。所属のメスで1試合もプレイしていなかったが勝利の立役者となった。このあたりもハリルホジッチ監督の選手の状態を見抜く眼の確かさがうかがえた。

この試合では[4-3-3]を使っている。オマル対策としての今野の起用だったわけだが、早めに人をつかまえていく方式にシフトした試合でもあった。ただ、香川真司と今野のインサイドハーフは人に釣られすぎてスペースを空けてしまう場面もあり、守り方を変えれば別の問題が生じることもわかった。この課題は予選最終戦のサウジアラビア戦でも露呈しているので、ワールドカップ本大会までには解決策を見つけなくてはならないだろう。

第5節 vsサウジアラビア 堅さの[4-3-3]か、変化の[4-5-1]か

第5節 vsサウジアラビア 堅さの[4-3-3]か、変化の[4-5-1]か

所属クラブで存在感を見せ始める柴崎 photo/Getty Images

人選は変えるがベースは一定。そのベースのところで勝利できた試合。フォーメーションは[4-2-3-1]でトップ下に清武を起用している。後に[4-3-3]ベースに変更することになったが、ハリルホジッチ監督が当初描いたベースは[4-2-3-1]だった。

[4-4]の守備ブロックでボールを奪い、ハーフカウンターを繰り出す。大迫の抜群のキープ力と、サウジアラビアのDFとMFの間にポジショニングしてカウンターの起点となる清武のプレイが効果的だった。ただ、清武はコンディションが十分でなく64分に香川と交代している。香川も万全ではなく、清武から香川へのリレーは苦肉の策だったのだが、結果的には上手くいった。

ブラジルワールドカップでアルジェリアを率いていたときは、トップ下にタイプの違う2人(タイデル、ブラヒミ)を試合の性格に合わせて使い分けていた。清武と香川はほぼ同じタイプなので、この試合での交代はタイヤ交換のようなものだが、選手起用で戦い方に変化を出していくハリルホジッチ監督にとって、本来トップ下は変化をつけやすいポジションである。ただ、予選終盤には[4-3-3]に変更してトップ下のポジションがなくなった。

堅守速攻を基本にするにしても、攻撃して点を取らなければならない試合、状況は必ずある。そのときに少なくともMFの1人は攻撃力のある選手に変えなければならない。予選最後のサウジアラビア戦(アウェイ)では柴崎岳を起用したが、[4-3-3]のマンマーク気味の方式はMFの守備負担が大きく、香川や清武は使いにくい。アルジェリアにたとえると、ブラヒミが使えずタイデルしか選択肢のない状態。つまり攻撃型にシフトしてもさほど攻撃力が上がらない。その点で、[4-2-3-1]の放棄はハリルホジッチ監督が得意とする選手起用での戦い方の変化を狭めてしまっているわけだ。

[4-4]の守備ブロックで守れないことが根本の原因。簡単にいうと1人で相手2人の前進を止める守備ができない。そこで1対1の関係をはっきりさせた。しかしそれは守備面で別の問題を引き起こすとともに、攻撃面でのオプションを狭めている。このジレンマをどう解決するかは本大会までの課題といえる。

文/西部 謙司

1995年から98年までパリに在住し、サッカー専門誌「ストライカー」の編集記者を経て2002年からフリーランスとして活動。主にヨーロッパサッカーを中心に取材する。「フットボリスタ」などにコラムを寄稿し、「ゴールへのルート」(Gakken)、「戦術リストランテⅣ」(ソル・メディア)など著書多数。Twitterアカウント:@kenji_nishibe

theWORLD190号 2017年8月23日配信の記事より転載

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