【欧州5大リーグの勢力地図#4】黄金期到来を予感させるレアル バルサは“MSN”解体で苦しい船出

ネイマール移籍でメッシへの負担も増大 photo/Getty Images

浮き彫りになった“ネイマール・ロス”

新シーズンのリーガ・エスパニョーラを語るのに、この話題に触れないわけにはいかないだろう。“MSN”の解体、すなわちネイマールのパリ・サンジェルマン移籍である。その経緯については割愛するが、史上最高額と言われる2億2200万ユーロで、ネイマールの移籍が決まったのは8月3日だった。ジェラール・ピケをはじめ、多くのチームメイトが慰留に努めたが、本人の意思は固く、バルセロナの攻撃を彩ってきた“MSN”はあっさり解体されることとなった。

そうして迎えたスーペルコパでは、やはり影響が見られた。バルセロナは第1戦こそボールを支配したものの、攻撃の迫力が今ひとつ欠けた。“MSN”の「N」の位置、3トップの一角には買い戻したジェラール・デウロフェウが起用されたが、ネイマールのようにリオネル・メッシ、ルイス・スアレスと阿吽の呼吸を作りだすことはできなかった。第1戦を1-3で落としたバルセロナは、3バックで臨んだ第2戦も0-2で敗れ、レアル・マドリードに屈した。

今季のバルセロナの補強としては、懸案の右SBにベンフィカからネルソン・セメド、さらに約50億円の移籍金を支払い中国の広州恒大からMFパウリーニョを獲得したが、スーペルコパを見る限りでは、「M」と「S」と互角にプレイできる新たな「N」を迎え入れる必要があるだろう。その候補としては、ドルトムントのウスマン・デンべレ、リヴァプールのフィリペ・コウチーニョらの名前が挙がっているが、いずれにせよ新たな攻撃を築くには時間がかかりそうだ。
ネイマールの移籍により、チームの核となる攻撃に危うさが出てきたバルセロナだが、それ以上に懸念されるのが守備である。中盤の底で相手を潰せるパウリーニョを獲得したのはそのためであろうが、スーペルコパではレアルに得意のカウンターを見舞われサイドからも崩されたように、不安定さは否めない。そこが改善されなければ、レアルからタイトルを奪還するどころか脅かすのも難しくなるだけに、エルネスト・バルベルデ新監督のお手並み拝見といったところだ。

盤石の陣容を整えた王者レアル

盤石の陣容を整えた王者レアル

スーペルコパでバルサを粉砕したレアルの面々 photo/Getty Images

そのスーペルコパで5得点を奪って快勝したレアルだが、ジネディーヌ・ジダン監督が築くチームは盤石と言えるだろう。バルセロナに対しても耐えられる守備力があり、C・ロナウド、ガレス・ベイルが繰り出す一撃必殺のカウンターも健在だ。不安要素を挙げるとするならば、当たり前ながら、C・ロナウドと怪我がちなベイルの欠場だ。スーペルコパ第1戦では、主審を小突いたとしてC・ロナウドが5試合の出場停止処分を科されたが、その穴すら好調のマルコ・アセンシオが埋めてくれそうな気配が漂っている。

アトレティコの鍵を握るビトーロ セビージャのキーマンは......

アトレティコの鍵を握るビトーロ セビージャのキーマンは......

来年1月に加入するビトーロの出来が焦点に photo/Getty Images

2強の対抗としては、やはりアトレティコ・マドリードになるが、7シーズン目を迎えるディエゴ・シメオネ監督にとって、今季は厳しい戦いを強いられそうだ。中盤の要であるガビ(34歳)、最終ラインの砦であるディエゴ・ゴディン(31歳)が健在なうちに、新たなチームの軸を育てる必要があると思案していたが、国際スポーツ裁判所より補強禁止処分を科され、目論みが大きく狂った。何とか法の穴を見つけて、セビージャから左ウイングのビトーロを獲得したが、ラス・パルマスにローンへ出すことが補強の抜け道だったため、実際にチームに加わるのは来年の1月。それまでは昨季を戦った選手たちで、しのがなければならない。幸い移籍の噂もあったFWアントワーヌ・グリーズマンが残留したのは朗報だが、彼頼みの攻撃を脱却できるかどうかも、2強を追随できるかの分かれ目となる。

昨季を4位で終えたセビージャは、敏腕で知られたモンチSDに続き、昨季躍進の功労者であるホルヘ・サンパオリ監督までもが退任した。後任にはビエルサ・イズムを継承するエドゥアルド・ベリッソが就いたが、その彼が昨季率いていたセルタのようなサッカーを体現できるかは未知数。何より前述したように、チームの攻撃を担ったビトーロを、アトレティコに強奪されたのは大打撃である。それだけでなく、昨季のチームを支えたFWステヴァン・ヨヴェティッチ、FWルシアーノ・ビエット、MFサミル・ナスリらのローンが満了。代わりにルイス・ムリエル、ノリート、エベル・バネガを獲得したが、チーム作りは1からに近い。救いはビエルサ・イズムの根幹が変わらないことだろうか。

個人的には2強に加えて、個性的かつ特徴的なチームが揃うリーガで、柴崎岳がどうタクトを振るうかが楽しみである。昇格組となるヘタフェでは厳しい戦いを強いられるだろうが、先発が濃厚と言われるほど、存在感を示しているという。1部リーグを舞台に爪痕を残せるか。個の力が際立つスペインを舞台に、その個を存分に輝かせてもらいたい。

文/原田 大輔

海外サッカー専門誌『ワールドサッカーグラフィック』の編集長を務め、2009年に独立。サッカー専門の編集プロダクション「SCエディトリアル」を創設し、携帯サイト「日本!Wサッカー」、フリーマガジン「footies!」など、様々な媒体に寄稿。

Twitterアカウント:shimokita_SCE

theWORLD189号 2017年8月23日配信の記事より転載

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