[特集/挑戦する日本人フットボーラー 2]厚い信頼を得て、さらなる成長を目指すリーダーたち

チャンスを生かし続けキャプテンマークを巻いた3人

チャンスを生かし続けキャプテンマークを巻いた3人

長谷部不在時には代表で キャプテンを務める吉田 photo/Getty Images

長谷部誠、吉田麻也、酒井高徳。この3選手には共通点がいくつかある。ひとつは、2016―17シーズン現地メディアなどから高く評価されたこと(もちろん、長谷部は3月の負傷で離脱してしまったし、酒井もなんとか残留を果したという結果には満足していないだろう)。ふたつ目は3人が所属クラブでキャプテンを務めたこと。そして、3つ目はドイツ語や英語に堪能なことだ。

まずは彼らの2016―17シーズンを振り返ってみよう。

2007年にドイツへ渡り10シーズン目を迎えた長谷部は、2016年3月にニコ・コヴァチ監督就任後、スタメンに定着する。それ以前はサイドバックなどでの出場が多かったが、コヴァチ監督のもとでは本職のポジションでその力を発揮し、入れ替え戦に勝利して1部残留を決める。そして、迎えた新シーズンでは、10月 28日のボルシアMG戦以降、リベロに抜擢されると、チームは6試合負けなし(3勝3分)で上位に食い込む好成績を残し、欧州の大会出場権を狙える位置をキープしていた。3月6 日には奥寺康彦氏の持つブンデスリーガ出場記録を抜き、日本人最多の235試合出場を記録した。しかし、3月12日バイエルン戦で、ゴールポストに激突し、負傷。6針を縫った挫傷した左すねだけではなく、右膝を痛め内視鏡による手術を行う。長谷部不在のフランクフルトはその後順位を落としている。

2012年夏にサウサンプトンへ移籍した吉田のプレミアリーグ5シーズン目は、それまで同様にベンチメンバーとしてスタートし、先発起用はリーグカップのみという時間が続いた。豊富な資金を持つプレミアリーグのクラブでは、ベンチ要員に適した選手を抱えることがある。出場機会がわずかであっても、熱心に練習に取り組み、モチベーションを下げず、急な出番に備えて心身共に準備ができる選手だ。サウサンプトンにとって、吉田もまたそういう選手のひとりだったと考えられる。

出場機会がわずかであっても、クラブからの高い評価や信頼度は揺らぐことはなかった。しかし、吉田がそういう自身の立場に甘んじているわけではない。だからこそ、彼のもとに大きなチャンスが訪れた。12月18日のボーンマス戦で先発すると、それ以降、その座を守り続けた(ベンチに追いやられた主将のジョゼ・フォンテは 1月に移籍している)。4月29日には プレミアリーグ出場100試合をマークし、5月13日の試合ではキャプテンも務めた。ベンチ要員であっても、高い向上心とともに成長し続けたことを証明した吉田は、クラブの年間表彰式で会長賞を受賞している。

リベロとして躍進した昨季の長谷部誠 photo/Getty Images

毎シーズン残留争いをしながら、一度も降格を経験したことがないハンブルガーSVも、2016-17シーズンは、その歴史をとだえさせるのではないかと思われた。酒井高徳がリーグ最年少キャプテンに指名された11月20日以降、3勝2分1敗で前半戦を終え、後半戦も6勝2分4 敗と浮上したものの、4月の残留争い直接対決では1分3敗。1-1で 終えたシャルケ戦では、終了間際に追いつくも、その後のセットプレーであわや失点。ここで負けていれば 、最終節を待たずに降格が決まっていた。しかし、そのゴールが認められず、命拾いした。そして迎えた最終節を2-1の逆転で勝利し、残留を決めた。試合後の酒井は人目もはばからずに号泣している。「プレイの出来不出来ではなく、とにかく勝つという気持ちで挑んだ試合だったから」と、後日その理由を明かしてくれた。

9月に就任したマルクス・ギスドル 監督は、チームのムードを変えるべく、酒井をキャプテンに指名した。練習へ取り組む熱心な態度やチームのためにという誠意溢れる行動、そしてなにより、周囲の選手たちから厚い信頼を得ている人間として酒井を選んだという。「彼が何かを発するとき、誰もが耳を傾ける」という監督の言葉が伝えられている。

ドイツ人の母を持つ酒井だが、2012年にドイツへ渡った当初、ドイツ語が流暢というわけではなかった。それでも、月日が経つにしたがい、ドイツ語を習得し、試合後には現地メディアの取材にも難なく応じている。それは長谷部や吉田も同様だ。海外でプレイするうえで語学力の高さは必須条件と言われるが、必ずしもそういうことばかりではない。それでも、守備の選手にとって、言葉の壁は文字通り大きな壁となるだろう。

新しい競争に挑む3人、弱肉強食の舞台でさらなる成長を

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責任感の強さとハードワークで昨季評価を大きく上げた酒井 photo/Getty Images

個人主義が当たり前の欧州において、日本人の献身性や真面目さは大きな武器になる。たいていの指揮官は日本人選手の態度を高く評価する。しかし、評価しつつも試合には起用しないというケースも少なくない。そういうなかで、キャプテンとして、守備のリーダーとしてピッチに送り出してもらえる3選手には言葉の壁がないことが大きなアドバンテージになっているに違いない。「こっちの選手は1対1での勝負を 躊躇わないけれど、カバーリングという意識が乏しい。僕はそのカバーリング能力を買われて、センターバックで起用されている」

そう語っていたのは、スイスのバーゼルでプレイしていた当時の中田浩二氏だ。彼の言葉を思い出したのは、ボランチに起用された酒井の試合を見たときだった。フィジカルの強い(あくまでも日本人と比べた場合)酒井のボランチと言えば、激しいぶつかり合いも厭わない“守備”に特化したプレイを想像していたのだけれど、実際は大きく違った。酒井の仕事はまさにカバーリングとバランスをとることだった。ボー ルに触る回数も少ないが、そのぶん、手を振り、指示を出し続ける。ディフェンスラインに気を配り、前線からのプレスの中継役となる。豊富な運動量を惜しみなく発揮していた。「日本人選手なら誰だってできますよ」と照れ臭そうに酒井は語っていたが、彼のボランチ起用でハンブルガーSVは多くの勝ち点を拾った。シーズン終盤はサイドバックでプレイしたが、チームを動かす仕事が無くなるわけではない。

ドイツでは長く、サイドハーフやサイドバックでの起用が続いていた長谷部。彼もまたあらゆるポジションで仕事ができると重宝がられた。しかし、ニコ・コヴァチ監督は長谷部をセンターに置き、攻守のバランスを長谷部に託している。

2017-18シーズンからマウリシ オ・ペジェグリーノ新監督を迎えるサ ウサンプトン。元センターバックの指揮官のもとで、吉田には新しい競争が始まる。先発の座を“守る”のではなく、さらなる挑戦、向上したいという欲によって、自身の立場を奪い獲る戦いだ。

負傷離脱からの復帰となる長谷部もまた、昨シーズン以上の充実感を求めているはずだ。そして、「もう残留争いはしたくない」という酒井はいかにチームを引っ張っていくのか? どの選手にも安住の場所などない。弱肉強食と言われる欧州リー グの厳しい競争に身を置く彼らの新シーズンが楽しみだ。

文/寺野典子

theWORLD188号 2017年7月23日配信の記事より転載

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