[乾貴士の欧州挑戦記]プロキャリア10年の激闘録

「シンジがいて良かった」

「シンジがいて良かった」
 野洲高校に通う高校2年生のときに日本一になり、卒業後は横浜F・マリノスへ。順調な歩みでプロサッカー選手になったが、その後は試合に出られない日々が続いた。転機が訪れたのは2008年で、当時J2だったセレッソ大阪へレンタル移籍(後に完全移籍)。ここで試合出場を重ね、得点も量産した。

「 高校生のころからリーガ・エスパニョーラをよく見ていて、いずれはプレイしたいと思っていました。だけど、プロになった直後はマリノスで試合に出られず、海外移籍については全く考えていなかったです」(2013年に取材時のコメント)

 では、C大阪への移籍で何が大きく変わったのか? 同い年の香川真司から受けた刺激が大きく、手本になったという。それまではドリブルにこだわりがあり、「ドリブルばかりしていました」というプレイスタイルだったが、香川はドリブルやパスの能力に秀でているうえに、運動量も多かった。一緒にプレイすることで意識が変わり、「運動量についてはすぐに改善に取り組みました。身近にシンジがいて良かったです。本当に刺激になったし、成長するために必要な要素に気づくことができました」という好影響を得られた。

 さらには、レヴィー・クルピが率いていた当時のC大阪はショートパスをつなぐスタイルを指向しており、必然として「ドリブルやパスをより効果的に使えるようになった」という変貌を遂げていった。成果は数字に表われ、横浜F・マリノスに所属した2シーズンは7試合0得点(J1)だったが、C大阪では4シーズンでJ1、J2を合わせて114試合に出場し、35得点をマークした。実績と経験を積んだ乾は、ブンデスリーガ2部のボーフムから獲得のオファーを受け、2011-12シーズンに念願の海外移籍を果たしている。

運動量に磨きをかけた欧州時代

運動量に磨きをかけた欧州時代

豊富な運動量を活かし、フランクフルトでも主力に photo/Getty Images

 乾が加入する前年のボーフムは2部で3位となって昇格プレイオフに進出したものの、ボルシアMGに敗れて1部昇格を逃していた。当時のチームにはチョン・テセ(現清水エスパルス)がいたし、過去には小野伸二(現コンサドーレ札幌)がプレイするなど、日本にゆかりある選手の受け入れ態勢がすでに整っていた。

 運動量を増やすことでドリブルやパスを効果的に使えるようになっていた乾は、加入当初からレギュラーとなり、初年度は30試合に出場した。さらには、チームトップの7得点を奪い、対戦相手にも強烈な印象を残した。ボーフムは11位と中位を抜け出せなかったが、乾自身は対戦したフランクフルト(2位となって1部昇格)から獲得のオファーを受け、“個人昇格”している。

 フランクフルトでも指揮官であるアルミン・フェーの信頼を勝ち取り、1年目に30試合6得点という成績を残した。チームもUEL出場権を獲得するなど、順調にステップアップしていた。

 ところが、海外移籍3年目、フランクフルトでの2年目である2013-14シーズンに落とし穴が待っていた。序盤こそ試合出場を重ねていたが、チームにはブンデスリーガとUELを同時に戦い抜く根本的な力がなく、なかなか勝点を積み上げられなかった。そうした状況のなか、結果を出さなければならないアルミン・フェーは守備力を高めるべく、フィジカルの強い選手を起用するようになり、運動量や技術力で勝負する乾がピッチに立つ機会は徐々に減り、14試合0得点で同シーズンを終えている。残留争いこそ免れたが、チームも13位に甘んじた。

 それでも、2014-15シーズンになると新監督であるトーマス・シャーフのもと、ふたたび輝きを取り戻した。「運動量に好不調はないので、どんなときも足は止めないようにしています」というスタイルが新監督に評価され、出場機会を与えられてピッチのなかで躍動した。この年から加わった長谷部誠の存在も大きく、守備が安定したことでチームも9位でシーズンを終えた。乾自身も27試合1得点5アシストと盛り返し、フランクフルトで揺るぎない地位を確立しつつあった。

 エイバルから獲得のオファーがあったのは、ちょうどこの時期だった。高校生の頃からリーガをよく見ていて、「いつかはスペインでやってみたい気持ちがあり、ドイツに移籍したのもいずれはスペインでやるためでした」と語る乾がこのオファーを逃すはずもなく、2015-16シーズンからエイバルでプレイしている。

 かつて憧れていたリーガは想像していたよりもレベルが高く、最初は難しさも感じていた。練習や試合は激しく、心身ともに疲労するという。しかし、“自分がいるべき場所”へとたどり着いたサムライは、自身が成長することで結果へとつなげている。振り返れば、日本でもドイツでもそうだった。厳しい状況のなか結果を残すことでステップアップしてきた。そう考えると、この先に今度はどんなステップアップが待っているのか──。乾の挑戦は、まだまだ継続中である。



文/飯塚 健司

サッカー専門誌記者を経て、2000年に独立。日本代表を追い続け、W杯は98年より5大会連続取材中。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。サンケイスポーツで「飯塚健司の儲カルチョ」を連載中。美術検定3級。

theWORLD188号 2017年7月23日配信の記事より転載

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