【16-17シーズン総括#2】レアルとバルサ、その明暗を分けたのはジダンの巧みな采配

弱点を強みに変えたジダンのテコ入れ

弱点を強みに変えたジダンのテコ入れ

レアルの現状を理解した采配だった photo/Getty Images

2016-17シーズンのリーガ・エスパニョーラの優勝はレアル・マドリードだった。レアルはUCL優勝も成し遂げていて、完璧なシーズンだったといえる。2位は3ポイント差のバルセロナ。レアルとの“クラシコ”を制して最終節に望みをかけたがわずかに及ばなかった。3位のアトレティコ·マドリードは首位レアルと15ポイントもの差があるので優勝争いからは脱落しているが三強の面目は保った。そのアトレティコと6ポイント差のセビージャまでが来季のUCLに出場する。ビジャレアル(5位)とレアル・ソシエダ(6位)がUELへの出場権を手にした。降格はスポルティング・ヒホン(18位)、オサスナ(19位)、グラナダ(20位)の3チームである。

優勝を争ったレアルとバルサの差はわずか3ポイントにすぎないが、シーズンを通してみるとUCLも制覇したレアルと、コパ・デル・レイだけに終わったバルサは明暗を分けた。どちらも強力だったが、チームとしてのピークの違いだろう。

レアルはジネディーヌ・ジダン監督の下、大きな進歩を遂げた。BBC(ベイル、ベンゼマ、ロナウド)はもはやチームの看板ではなく、モドリッチ、クロース、カゼミロのMF陣こそ安定したパフォーマンスの基盤になっていた。終盤はイスコをトップ下に置いた[4-4-2]を定着させ、イスコ、モドリッチ、クロースを中心にレアル版ティキ・タカで主導権を握った。

レアルの積年の課題は2つあった。1つはロナウドの守備力、もう1つはバルサにポゼッションで勝てないこと。ロナウドは絶対的なエースだが、左ウイングに起用すると守備に穴が空いてしまう。大半の試合はレアルが相手を押し込んでしまうので大きな問題にはならないが、同じリーグにはバルサがいるのだ。バルサ戦では必ず押し込まれてしまうのでロナウドの守備をどうするかは常に問題だった。ジダン監督は2つの問題を一気に解決したといっていい。まず、[4-4-2]の採用でロナウドをトップに残して守備の問題を解決。さらに、中盤の充実によって近年でははじめてバルサと渡り合えるポゼッション能力を手にした。カウンターもポゼッションも強力、ハイプレスもできて引いてもある程度守れる、どうなっても強いチームに仕上がった。唯一、引いたときの守備力は盤石とはいえないが、そこはルーカス・バスケスを起用した逃げ切り策でしのいだ。

例年の如く浮上したバルサの”メッシ依存症”

例年の如く浮上したバルサの”メッシ依存症”

ある程度の依存は止む無しか photo/Getty Images

バルサのピークはペップ・グアルディオラ監督の時代だった。その後、ルイス・エンリケ監督が中盤のティキ・タカからMSN(メッシ、スアレス、ネイマール)を中心とした戦法に軌道修正してもう一度ピークを作っている。しかし、MSN軸の戦法は思ったより劣化が早かった。これに関しては史上最高クラスのスター、メッシを持ってしまった宿命といえる。

バルサは必ず「メッシ依存症」に陥る運命にある。ペップのときもシャビの衰えとともにメッシの存在感が増し、やがてメッシに頼り切りのチームになってピークを終えた。ルイス・エンリケはMSNを並べてカウンターも採り入れ、守備負担は3人応分としてメッシ依存から脱却している。ところが、やはりメッシへの依存度は徐々に増していった。スアレスもネイマールも、ボールを持てばまずメッシを探す。他の選手は言うに及ばず。普段から一緒に練習しているチームメイトはメッシのケタ違いの能力を肌で感じているから、いずれはどうしてもそうなってしまうのだ。右ウイングのメッシは、レアルがロナウドとともに抱えていたのと同じ問題につきあたってしまったわけだ。

ルイス・エンリケ監督は、メッシをトップ下に起用する[3-4-3]に活路を見出した。守備時にはスアレスとメッシを残して、両サイドのラフィーニャとネイマールは引かせる。これで何とか立て直したものの時すでに遅し。来季の指揮を執るエルネスト・バルベルデ監督は、メッシ依存から脱却してチームを再構築する大きな仕事が待っている。

「第2の勢力」も着実に改善を続けている

「第2の勢力」も着実に改善を続けている

近年成長を続けるアトレティコ photo/Getty Images

アトレティコは無冠に終わったが、ディエゴ・シメオネ監督は攻撃力の増強という課題にメドをつけた。その点では意外に実りの大きいシーズンだったと思う。徹底的にワンサイドを攻め抜く攻撃は、ボールを失っても即時にプレスをかけられる利点がある。サイドチェンジをしないのでスペースは狭く攻めにくい。しかし、それに特化したことでアトレティコの守備力、球際の強さ、ハイテンポのリズムという長所を集約させ、執拗なワンサイドアタックによる攻撃型のアトレティコを作り上げた。お家芸の堅守はそのまま、27失点はリーグ最少である。

終盤に失速してしまったが、セビージャの躍進は目を見張るものがあった。前線からのハイプレスを敢行し、逆に相手のハイプレスは巧みなパスワークでかわす。マルセロ・ビエルサ派を自認するホルヘ・サンパオリ監督の作り上げた技巧と激しさを併せ持つスタイルは、レアル、バルサと互角に渡り合うこともあった。サンパオリがアルゼンチン代表監督に就任してセビージャを去ってしまうのは残念だが、来季はセルタを率いていたエドゥアルド・ベリッソが新監督に決まっている。ベリッソもビエルサ派の監督なので、サンパオリが敷いた路線を継承するにはうってつけの人選といえる。

文/西部 謙司

1995年から98年までパリに在住し、サッカー専門誌「ストライカー」の編集記者を経て2002年からフリーランスとして活動。主にヨーロッパサッカーを中心に取材する。「フットボリスタ」などにコラムを寄稿し、「ゴールへのルート」(Gakken)、「戦術リストランテⅣ」(ソル・メディア)など著書多数。Twitterアカウント:@kenji_nishibe

theWORLD187号 2017年6月23日配信の記事より転載

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