【16-17シーズン総括#1】群雄割拠のプレミア 明暗を分けたのはマネジメント力

チェルシーの王者奪還 最大の味方はスケジュール

チェルシーの王者奪還 最大の味方はスケジュール

就任1年目でチェルシーを優勝に導いたコンテ監督 photo/Getty Images

レスター・シティがおとぎ話の主人公を演じた2015-2016シーズンに比べると、16-17シーズンのプレミアリーグはドラマ性を欠いていた。1位から20位まで、基本的にはタレント力に従って並んだといっても差し支えなく、いい意味で下馬評を覆したチームはボーンマスだけだ。

2月の段階で降格の危機に震えていたが、3月以降を5勝5分2敗で乗り切り、最終的にはトップ10に入った。タレント力では最下層ながら、ボールを保持した際は複数のトライアングルを創り、コレクティブなスタイルを築き上げたエディ・ハウ監督の采配は、各方面で絶賛されている。降格に至ったサンダーランドとミドルズブラはボーンマスを見習い、ベンチワークを見直すべきだ。前者を率いていたのはノンポリシーのデイビッド・モイーズ。後者は守るだけのアイトール・カランカ。ともに解雇されて当然だ。

ただ、同じ降格の憂き目に遭ったハル・シティは別問題である。彼らは監督交代のタイミングを誤った。マルコ・シウバ就任後の18試合は攻守の約束事が著しく明確になっただけに、もう1ヶ月早く新体制が発足していたら、残留していた公算が大きい。監督人事につきものの明暗だ。

さて、ビッグ6の優勝争いに終始した16-17シーズンだが、各チームの成否を分けた要因のひとつに、スケジュールの違いが挙げられる。優勝したチェルシーは欧州カップ戦出場資格がなく、基本的に週1試合で闘えたことが大きなアドバンテージだった。試合総数は47。ヨーロッパリーグを制したマンチェスター・ユナイテッドより17試合も少なかったため、シーズンの大詰めでも最低限のフィットネスだけは維持できていた。

つまり、ミッドウィークのヨーロッパで心身ともに消耗するライバルを尻目に、チェルシーにはスタミナの回復と戦術の徹底を図れる時間があった。4バックを3バックに変えたアントニオ・コンテ監督の決断も然ることながら、週末のプレミアリーグでもインテンシティが落ちず、スプリントを繰り返せる選手が多かった背景には、スケジュールの違いがある。

2位に入ったトッテナムも同様だ。チャンピオンズリーグで早々に敗れ去ると、マウリシオ・ポチェッティーノ監督はUELを重視せず、2月初旬にはシーズンの目標をプレミアリーグに切り替えている。そしてハイライン・ハイプレスを有効活用するべく、ローテーションを多用。極力、選手のスタミナロスを抑える工夫も凝らしていた。その結果、一時はチェルシーに4ポイント差まで迫り、「シーズンを通じた試合内容ではプレミアリーグ随一」と、メディアの高評価を得るまでに至っている。

リアリストが得た欧州への切符 理想を追いすぎた指揮官たち

リアリストが得た欧州への切符 理想を追いすぎた指揮官たち

見事な采配でUELを優勝。来季のUCLの切符を掴んだモウリーニョ photo/Getty Images

監督たるもの、チームの実情を冷静に見極め、迅速、かつ正確に動かなければならない。すなわち“機を見るに敏のマネジメント”が、UCLの出場権を左右するポイントだった。

やはり、ユナイテッドのジョゼ・モウリーニョ監督は、稀代の策士だった。6位は論外だが、UCL出場権獲得を最優先するプラン変更はあまりにも露骨で、あまりにも見事だった。34節のスウォンジー戦に引き分けて4位以内が難しくなると、モウリーニョ監督はUEL優勝というルートでUCLへの道を模索する。対戦相手を踏まえれば当然の選択だ。プレミアリーグよりも、UELの方がくみしやすい。しかし、プレミアリーグこそが世界最高峰と考えるメディア、関係者も少なくはなく、さしものモウリーニョ監督もプレッシャーに苛まれたに違いない。

それでも彼はプレミアリーグをマッチフィットネスが上向かない選手の調整、若手のテストの場に設定し、UELに主力を投入。最終的にはUCL出場資格を、しかもストレートインの権利を得ている。今、何をすべきか。モウリーニョ監督の大胆、かつ細心なプランニングが、ユナイテッドに最低限の答えをもたらした。

こうした配慮が、アーセナルのアーセン・ヴェンゲル監督には欠けている。1.継続性と勝負強さの欠如という長年にわたる課題には手をつけていない。2.ローテーションを好まず、疲れていても主力を酷使する。3.テクニック重視の強化策も災いし、インテンシティを発揮できる選手はアレクシス・サンチェスただひとり。負の要素が3つも重なれば、UCLの出場権を取れるはずがない。サンティ・カソルラの負傷は言い訳にもならない。一軍の将は複数のプランを準備するべきで、最終盤の3バックもタイミングを失っていた。すべての責任はヴェンゲル監督にある。

アーセナルの指揮官ほどではないが、シティのジョゼップ・グアルディオラ監督も現実を見据える必要がある。つなぎを意識するあまり、守備力を軽視した強化で自らの首を絞めた。なかでもGKである。クラウディオ・ブラボは、トリノにローン移籍したジョー・ハートよりも数段落ちる。ブラボの不振で正GKになったウィリー・カバジェロも、ユナイテッドやスパーズでは3番手程度のレベルだ。人材豊富な攻撃陣の活躍で3位に入ったとはいえ、グアルディオラ監督が理想に溺れた感は否めない。

ついにUCLへの切符を手に入れたクロップ監督

ついにUCLへの切符を手に入れたクロップ監督

柔軟な采配が光ったクロップ監督 photo/Getty Images

では、ここでユルゲン・クロップ監督(リヴァプール)のコメントに耳を傾けてみよう。

「プレミアリーグのインテンシティと競争力は世界一だ。選手の疲労度も濃く、コンディションが回復するまでに時間がかかる。バルセロナやバイエルン・ミュンヘンで多くのタイトルを獲ってきたグアルディオラ監督でも、即フィットできるとは思えないな」

シーズン前の予言はズバリ的中した。マインドゲームもあっただろうが、クロップ監督は15-16シーズンの反省を踏まえ、自分に言い聞かせていたのだろう。毎試合のように理想を追求していると、プレミアリーグでは疲弊する。時には退屈な時間があっていい。実際、リードを奪った後のリヴァプールは自陣でブロックを敷いて相手の出方をうかがい、体力の消耗を抑えるプランも実行している。

ただしシティ同様、守備陣がクロップ監督のスタイルに適応できなかった。本来はMFのジェームズ・ミルナーが左サイドバックの定位置に収まったことは、リソースの不足を明確に表現している。主力が欠場した際の第2選択肢も薄かった。結局、リヴァプールは基本的に週1試合という日程に恵まれながら、そのアドバンテージを十分に活かしきれなかった。プレミアリーグで成功を収めるためには、あらゆる面で上乗せが必要だ。

文/粕谷秀樹

サッカージャーナリスト。特にプレミアリーグ関連情報には精通している。試合中継やテレビ番組での解説者としてもお馴染みで、独特の視点で繰り出される選手、チームへの評価と切れ味鋭い意見は特筆ものである。

theWORLD187号 2017年6月23日配信の記事より転載

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