宮市、永井、そしてU-20岩崎悠人 もう日本は”スピードだけ”でFWを高く評価すべきではない

スピードを消された時プランBはあるか

韓国で開催されたU-20ワールドカップに臨んだ若き日本代表はベスト16でベネズエラに敗れて冒険を終えたが、今大会で気になったのは最前線の選手たちだ。

このチームのエースは小川航基だが、小川は残念ながらグループステージ第2戦のウルグアイ代表戦で負傷。それからは岩崎悠人 、田川亨介、高木彰人をスタメンとしてFWで起用してきた。ただ、残念ながら彼らは期待に応えられなかった。特にグループステージから4試合全てに先発した岩崎は自身の持ち味を上手く活かせなかった。初戦の南アフリカ代表戦でこそアシストを記録したものの、肝心のゴールはなし。ベネズエラ戦でも決定機を逃してしまうなど、個人的にも悔しさがあるだろう。

何より気になるのは岩崎がスピード自慢の選手であることだ。スピードは大きな武器だが、岩崎は今大会で判断力や足下の技術に大きな課題を残した。味方の縦パスをなかなか収めることができず、攻撃にブレーキをかけてしまうことも少なくない。これは岩崎に限った話ではなく、日本でスピードスターと呼ばれる選手は同じような問題を抱えていることが多い。
近年は日本サッカー界にも宮市亮、永井謙佑、浅野拓磨など、50mで6秒を切るほどのスピードを持つ選手が増えた。しかし、彼らは武器のスピードに頼りすぎる部分がある。宮市も高校時代からスピードを活かした突破が大きな注目を集め、アーセナルに引き抜かれた。レンタル移籍したフェイエノールトでもスピードを武器にサイドを切り裂くシーンが目立ったが、スピードに乗れないシーンでの選択肢が少ない。当然世界のトップレベルともなればスピードのある選手は相手から警戒され、スピードに乗せないようにケアされる。そうなった際に苦戦するスピードスターは決して少なくない。宮市もサイドアタッカーとして選択肢が少ないとの指摘を受けており、やはり世界で戦うにはスピードだけでは不 十分だ。

最前線でプレイすることもある永井、浅野にも同じことが言える。永井もスピードは抜群だが、今回の岩崎と同様に縦パスを収めるなどDFを背負ってのプレイはあまり得意ではない。組み立ての部分でミスを犯してしまうこともあり、足下の技術には課題もある。シュツットガルトで奮闘している浅野も、シーズン終盤にはスタメンから外されている。チームにはヨシップ・ブレカロ、カルロス・マネ、ジュリアン・グリーンなどスピードに自信のある選手が多く揃っており、スピード以外の武器がなければポジションを守っていくことは難しい。岩崎も今大会ではなかなかスピードを活かす場面がなく、感じる部分は多かったはずだ。

日本国内の学生年代の大会では、スピードだけで試合をある程度支配できるだろう。高校サッカーでも前線目がけて長いボールを蹴り、それを足の速いFWが追いかけるというシーンをよく目にする。それで相手DFがクリアしてスローインでも獲得できれば、ロングスローなどからチャンスを手にすることができる。しかし、世界の戦いをスピードだけで支配することはできない。世界には日本人よりも身体能力の優れた選手が数多くいるため、スピードやパワーなど身体面で勝負を挑むのは無理がある。スピードはあった方がいいが、スピード勝負が通用しなかった場合のプランBを持っておくべきであり、スピードがあるというだけで高い評価を下すやり方はやめるべきではないか。

スピードにそれほど自信がない選手ならば、何とか生き抜くためにテクニックや判断の速さを磨こうとするだろう。結果的にはそれが世界で戦う際に有効なものとなるのだが、スピード自慢の選手はそのたった1つの武器で10代の時間を過ごしてしまうことも多い。もちろんチームスタイルによっては彼らのスピードが活かされることもあるが、今回のU-20日本代表のように細かく繋ぐサッカーを理想としている場合は前線に走るだけでなく、組み立ての部分でも違いを作っていかなければならない。その際に最低限のテクニックは必須だ。内山監督はベネズエラ戦後に「的確な判断の中で技術力も高くないといけない。これをもっと早い年代からイメージを持って世界へ」とコメントしているが、その的確な判 断と技術力が今大会のセンターフォワード陣にあっただろうか。

今大会では岩崎だけでなく田川や他のFWもボールを収めることに苦労しており、改善すべき点は多い。生まれもってのスピードは大きな武器で、それはサッカーを始めるにあたってアドバンテージとなる。しかしそれだけに頼るわけにもいかない。岩崎も京都の名門・京都橘で高校No.1ストライカーと言われた逸材だが、今大会で感じることは多かったはず。足だけでなく判断力も速くし、ボールを収めるだけの基礎技術にも磨きをかけるべきだろう。まだ岩崎も若く、この世代は2020東京五輪での活躍にも期待がかかる。この3年間でレベルアップすることは十分に可能だ。そして日本サッカー界もこうした例を活かし、若い年代からスピードのみを評価すべきではないのだろう。

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