【UCL決勝直前#3】悲願の『欧州制覇』に燃える熱き漢たち それぞれの想いを胸に最終決戦へ

コンテでも成し得なかった優勝 野心を抱くアッレグリ監督

コンテでも成し得なかった優勝 野心を抱くアッレグリ監督

3度目の正直なるか。自身初の『欧州制覇』へラストチャンスとなるかもしれない主将ブッフォン。彼のUCL決勝にかける想いは計り知れない photo/Getty Images

チャンピオンズリーグ(UCL)で連覇を達成したクラブは過去にない。理由はさまざまあったとしても、「ハングリー精神」が大きな要因の一つであることに疑いはないはずだ。その点において、アドバンテージがあるのは間違いなくユヴェントスである。

3年間で2回も優勝しているレアル・マドリード。過去11回の優勝回数から見ても、一枚上手と考えるべきだろう。だが、気迫ではユヴェントスが2つも3つも上をいっていると信じている。

2年前、ユヴェントスはUCL決勝でバルセロナに敗れた。グループステージを2位で突破したイタリア王者は、ボルシア・ドルトムント、モナコ、レアル・マドリードを下して決勝に進んだが、タイトルを逃している。決勝まで進んだこと自体が大躍進であり、誰も非難するようなことはなかった。だがしかし、悔しくないはずがない。それが今回のベースとなるモチベーションだ。
2014-15シーズンから指揮を執っているマッシミリアーノ・アッレグリ監督にとって、2年前の決勝はユヴェントスにきて最初のシーズンだった。アントニオ・コンテ現チェルシー監督の“後釜”だった元ミラン指揮官には最初、前任の“遺産”で勝っているといううれしくない評判があった。だが、UCL決勝進出という成功で手腕を全員に確信させている。コンテでも成し得ていないことをして立ち位置を変えたいと目論んでいることだろう。イタリア人監督が世界中で活躍する昨今、アッレグリ監督にも国外の世界的な強豪から誘いがあるらしい。先輩たちのようにイタリアを出る野心があるかは分からないが、UCL優勝監督になることへの野心は確かに持っている。

2年前にはなかった武器 新参者のアルゼンチンコンビ

2年前にはなかった武器 新参者のアルゼンチンコンビ

モナコ戦でスコアラーとしての存在意義を証明したイグアイン(左)。そして、バルセロナ戦では圧巻のパフォーマンスを披露した若きエース・ディバラ(右)photo/Getty Images

1年前、裏切り者と呼ばれることを覚悟してユヴェントスにやってきた男がいる。FWゴンサロ・イグアインだ。ナポリのエースとしてゴールを量産していた彼は、熱狂的で知られるナポリファンを敵に回すことを理解した上でユヴェントスへ移籍した。もちろん、タイトルを獲るためだ。ナポリに忠誠を尽くせば、ずっと地位は安泰である。ディエゴ・マラドーナのように、訪れるたびに大歓声で迎えられる存在になれたかもしれない。目的を達成するための裏切り行為――。1年前の決断が正しかったことを証明するためにも、ビッグイヤーを掲げなければいけない。ナポリのファンに嫌われても、イグアインの選択を間違いだったという人はいなくなるだろう。ナポリの前はレアル・マドリードでプレイしていたイグアイン。当時はポジション争いに負けた格好でスペインを去ったが、そのときとは違うことを証明するつもりだ。

2年前には、パレルモからFWパウロ・ディバラがやってきた。UCL優勝を逃した直後にやってきたアルゼンチンの若手だ。イタリアではすでに有名だったが、世界的な知名度を高めたのは今シーズンのUCLではないだろうか。決勝進出を決めたあとで彼は「5年前はアルゼンチンにいた。(当時は)ユヴェントスにいることすら想像できなかったのに、UCL決勝なんてね…」と感慨深げだった。夢を追って南米を飛び出した少年は、それをも飛び越す勢いを持っている。ノリに乗っている選手なだけに、この大舞台で次世代のバロンドール候補に名乗りをあげるつもりかもしれない。

みなが夢見る『欧州制覇』 ブッフォンにビッグイヤーを

みなが夢見る『欧州制覇』 ブッフォンにビッグイヤーを

『欧州制覇』にかける気持ちはみな同じ。ゴールを決めたマンジュキッチと応援するファンがともに喜びを分かち合う photo/Getty Images

「2006年のワールドカップ優勝と並んで自分のキャリアで最高の瞬間になるかもしれない」。守護神ジャンルイジ・ブッフォンは最近、UCL優勝に思いを馳せてこう話した。

2001年にユヴェントスの選手となったブッフォンは、キャリアを通して常に世界最高レベルのGKと言われてきた。だが、UCL優勝経験がない。03年はミランとの決勝に負け、2年前のチャンスはいかせなかった。当時37歳。ラストチャンスだと気持ちはあったはずだ。それがわずか2年で、(自身の好守で手にした部分も大いにあるとしても、)再びチャンスが訪れるとは本人も予想していなかっただろう。できすぎた話だが、事実は小説よりも奇なり――。3度目の正直に、選手本人はもちろん、ファンも夢を見ている。

2006年、ユヴェントスは八百長問題で2部に降格した。そのとき、ファビオ・カンナバーロ、ズラタン・イブラヒモビッチ、エメルソン、リリアン・テュラム、ジャンルカ・ザンブロッタ、パトリック・ヴィエラとそうそうたるメンバーが他のクラブへ移籍することを選んでいる。DFジョルジョ・キエッリーニは、当時の主将であるアレッサンドロ・デル・ピエロやブッフォンらとともに残留した。

ゼロから……、いや、マイナスからユヴェントスをつくり直すことを決めた彼らには特別な想いがあるはずだし、ファンも感謝を惜しまない。一緒に歓喜の涙を流せる瞬間を切望している。

クラブとしても、選手個々としても、そしてファンとしても、ユヴェントス陣営の“欧州制覇”に懸ける気持ちはとてつもない。積もりに積もったユヴェントスの想いが今回のチャンスで報われるのではないだろうか。空腹は最高のスパイス。UCLで優勝したときのユヴェントスの歓喜は、カルチョ・スキャンダル後初めてスクデットを獲得したとき以上の爆発となっても不思議ではない。

文/伊藤 敬佑

イタリア・セリエAの熱に吸いよせられ、2007年、大学卒業と同時にイタリアへ渡る。以後、現地在住のフットボールライターとして、イタリアサッカーを追い続ける。ミラノを拠点に、インテルやミランを中心に取材活動を展開し、現地からの情報を提供している。Twitterアカウント: keito110

theWORLD186号 2017年5月23日配信の記事より転載

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