【UCL決勝直前#4】準決勝から見えた両者のストロングポイントとは

戦い方をミスしたモナコ 試合巧者ユーヴェはそれを見逃さない

戦い方をミスしたモナコ 試合巧者ユーヴェはそれを見逃さない

共に豪華なタレントを擁する両チーム photo/Getty Images

今季のユヴェントスが苦手としているのは、総合力で比較した格下の相手が、試合の立ち上がりから“無秩序”を良しとして圧力を掛けてくるケースだ。

セリエAではローマ、インテル、ミラン、ジェノア、フィオレンティーナの5チームに敗れているが、ローマを除くその他4チームは試合の立ち上がりからユヴェントスのリズムを乱すことを主眼に置き、強気の前傾姿勢を貫いた。その結果、ユヴェントスは軽率なミスから失点を招き、集中力を欠いて“らしさ”を取り戻せないまま黒星を喫する。今季のユヴェントスにおける隙がそこにある(そこにしかない)ことはリーグの戦いを見れば明らかだ。

その点でモナコは、4強に残ったチームのうち最も対戦したくない相手だった。リーグアンでは圧倒的な決定力を武器に独走したが、チームの総合力という意味においては未完成と言える。しかしその不完全さこそが、このチームにとって最大の武器であり、ユヴェントスにとって脅威だった。だからこそ、モナコによるアップセットの予感も十分にあった。

ユヴェントスにとって幸運だったのは、第1戦の立ち上がりの10分、背後を取られることを恐れたモナコが“構えた”ことだ。約10分間のウォームアップで“試合に入る”ことさえできれば、ある程度押し込まれることになっても冷静に対応できる。

しびれを切らしてモナコのエンジンをふかしたのは18歳の新鋭ムバッペだ。12分はCKのこぼれ球から、16分はユヴェントスの軽率なミスからいずれも最終ラインの背後に飛び込んでシュートを放った。もし、いずれかが決まっていたら試合の流れはわからなかった。特に16分のシュートは死角に消える動きとスピードの緩急によってボヌッチとの駆け引きを制したもので、パワーやスピードだけではない彼の動きの質の高さを証明したシーンでもある。

ところがモナコは、ユヴェントスを押し込んだことでチームとしての“若さ”を露呈した。テンションが上がって攻撃陣は前傾姿勢を取ったが、守備陣が構えたまま。陣形が間延びして中盤にスペースが生まれ、それを見逃さなかったディバラとダニ・アウベスに急所を突かれる。

イグアインの先制ゴールは29分。試合の流れはこのゴールで決まり、モナコは“リード”の余裕を持ったユヴェントス守備陣を崩し切ることはできなかった。59分にもイグアインが追加点を奪いアウェイの第1戦を制した。

迎えた第2戦、モナコは立ち上がりの10分に猛攻を仕掛けたが、その姿勢を示すべきはむしろホームの第 1戦だった。じっくりと反撃の機会をうかがったユヴェントスは、またしても D・アウベスが“イヤらしいスペース” に飛び込み、ピンポイントクロスを放り込んでマンジュキッチが得点。前半のうちにD・アウベスの鮮やかなボレーシュートで2点目を奪い、試合を決めた。

モナコはユヴェントスが最も警戒する不完全さを備えながら、それを生 かすことができなかった。第1戦の立ち上がり10分間で“構える”という選択肢を取ったことで、結果的にはユヴェントスの完全なる勝利を誘発した。

拮抗する隣人同士の戦いに差を出したのはトップ下イスコ

拮抗する隣人同士の戦いに差を出したのはトップ下イスコ

抜群のサッカーセンスで攻撃を組み立てるイスコ photo/Getty Images

一方、レアル・マドリードにとって アトレティコ・マドリードとの4季連続 UCLダービーは、戦前の予想では五分という意見が多かった。総合力で上回るのはレアルだが、アトレティコにはトーナメントで発揮する強さと、相手がレアルであっても臆すことなく戦える“慣れ”がある。勝敗を 左右するのが1つのミス、1つの采配、あるいは1つの幸運であることは何となく予想できたし、それほどまでに両者の力は拮抗していた。

レアル・マドリードにとって結果的な幸運は、C・ロナウド、ベンゼマと並ぶ絶対的な3トップの一角だったベイルの欠場だった。指揮官ジダンはイスコをトップ下に置くダイヤモンド型の4-4-2を選択。2試合を通じて、イスコはピッチ上の誰よりも大きな存在感を示した。

ホームで迎えた第1戦はCKの流れからロナウドのヘディングシュートで先制。直前のポジショニングがオフサイドだったため、このゴールもレアルにとっては幸運だった。目が覚めたアトレティコは持ち味とするハイプレスで応戦したが、イスコの特長がこの時間帯に効いた。

一時は去就問題に揺れた25歳は、相手陣形の“間”に飛び込むポジショニングと細かい“動き直し”によってパスコースを作り、レアルの最終ライン、あるいはサイドプレイヤーがボールを保持した際にかかるアトレティコのプレスに狙いどころを絞らせない。ほぼパーフェクトと言える前半を演出したのは、間違いなく、チームメイトにパスコースを提供するイスコのポジショニングだった。

アトレティコのプレスをいなして主導権を握ったレアルは、時間を追うごとにチームとしての一体感を高めた。73分にはイスコを囮とするベンゼマのポストプレイからC・ロナウド が追加点。88分にもロングカウンターからC・ロナウドが決め、3-0と完勝を収めた。

レアルのジダン監督は続く第2戦も同様の布陣を選択。序盤こそ猛攻を仕掛けるアトレティコに2つのゴールを許したが、ベンゼマが鮮やかな個人技で3人を抜き去り、最後は“功労者”イスコが押し込んで試合を決めた。

ユヴェントスの変幻自在なサッカーに注意せよ

ユヴェントスの変幻自在なサッカーに注意せよ

就任3年目にして熟成させたチームで欧州の頂点を狙うアッレグリ監督 photo/Getty Images

ユヴェントスが準決勝で示した強みは、完成度の高いシステムの可変性にある。

モナコ戦の第2戦は3バックの布陣で戦ったが、今季後半戦のほとんどは4-2-3-1で戦ってきた。これにより、イグアイン、マンジュキッチ、ディバラという3アタッカーの同時起用が可能になり、言うまでもなく破壊力がアップ。加えて、左サイドに配置されたマンジュキッチが守備面で献身的にプレイする姿勢が チーム全体に相乗効果を生み、かねてから強固だった守備のさらなる 強化に成功した。4-2-3-1は守備時には4-4-2に変形し、チーム全体でボールを誘い込んで奪い、速攻に転じる。その形が完成したことで3 バックにも主に守備面の改善が見られ、モナコ戦のように久々の採用でも戸惑うことなく“自分たちのサッカー”ができる。ハイレベルなシステムの可変性は、今季のユヴェントスにとって大きな強みだ。

その副産物として、それまで右サイドバックを務めていたD・アウベスやリヒトシュタイナーをサイドMFとして起用する回数も増えた。その効果はモナコ戦のとおり。キープ力があって “タメ”を作れるD・アウベスはディバラが得意とする右サイドでのチャンスメイクを促し、高精度のアーリークロスで決定機を作れる。リヒトシュタイナーは縦に仕掛ける意識が強く、攻撃の勝負どころを“もう一つ前”のエリアに押し上げることができる。もちろん、彼らを右サイドバックに起用してクアドラードをMFに置く攻撃も 破壊力十分。相手に応じて選択する右サイドの攻撃バリエーションは、レアルにとっても大きな脅威となるだろう。

一方のレアルは、イスコの復調が大きい。これまではC・ロナウド、ベンゼマ、ベイルの破壊力に頼る部分が大きかったが、準決勝でイスコをトップ下に置く4-2-3-1が機能したことで戦術的な幅は大きく拡大した。「どんな相手にも対応できる」ユヴェントスに対し、スタメン選択の段階で駆け引きができる利点は大きい。

また、アトレティコとの準決勝では好調時における組織的な守備の良さも際立った。守備意識の高くないロナウドとベイルを併用した場合はサイドの守備に課題を残す が、2トップならベンゼマの献身的な動きで“不足分”を補える。特に準決勝第1戦、C・ロナウドのゴールでリードを奪ってからの組織的な守備は時間を追って迫力を増し、アトレティコ攻撃陣をゴールから遠ざけた。それを決勝の大一番で引き出すためには、やはりジダン監督のメンバー及びシステム選択が大きなカギを握ることになるだろう。準決勝を見る限り、ベイルを“切り札” として温存しておくほうが、ユヴェントスに脅威を与えられることは間違いない。

文/細江克弥

『ワールドサッカーキング』『ワールドサッカーグラフィック』などの編集部を経て、2009年にフリーのサッカーライター/編集者として独立。現在も本 誌をはじめ、『Number』などさまざまな媒体に寄稿している。欧州からJリーグ、なでしこリーグまで、守備範囲は幅広い。

theWORLD186号 2017年5月23日配信の記事より転載

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