馬渡があの瞬間を説明。今回の“事件”は各クラブや各選手にとって対岸の火事ではない

素早いリ・スタートができなかった感情が乱暴な行為に

素早いリ・スタートができなかった感情が乱暴な行為に

馬渡(下段左から2人目)はJ2屈指の良質な左SBだが、今回の行為は許されない。厳しい処分が待っているだろう。Photo/Getty Images

29日にフクダ電子アリーナで行なわれたJ2(第10節)の千葉×徳島で、14分に徳島の左SB馬渡和彰がボールパーソンを突き飛ばして退場となった。プレイを振り返ると、左サイドのオープンスペースに出されたロングパスに馬渡と千葉のGK佐藤優也が走り込み、いち早く到達した佐藤がタッチラインの外へ蹴り出した。

GKが飛び出していることで、千葉のゴールはがら空き。絶好のゴールチャンスであり、馬渡は素早くリ・スタートして味方にボールをつなげることを意識し、すぐ側にいたボールパーソンにボールを渡してくれように求めた。しかし、自分のほしいタイミングでボールをもらえなかったことで、瞬間的に感情的になった。試合後、馬渡はこのときの自身の意識を以下のように振り返っている。

──退場場面について?

「みなさんが見てのとおりです。本当に軽率な行動で後悔しているし、反省しています」

──ボールを渡してもらえなかった?

「(千葉の)GKが出ている状況だったので、早くリ・スタートしたいという気持ちと、ボールをほしいときにもらえなかったという気持ちが……。しかし、どういう状況であれ、ああいう行動はダメです。みなさんに迷惑をかけることになり、非常に後悔しています」

──試合後に謝りに行った?

「顔を見てしっかりと謝りたかったので、行きました」

──あの瞬間の感情は?

「早くリ・スタートしたかったのですが、(ボールを)もらえずに軽率な行動が出てしまいました。目が合ったので『ちょうだい』と言ったのですが、目を逸らされて明らかに遅らせる行為があったのでああなってしまいました」

──瞬間的に手が出てしまった?

「(ボールを)本人の場所まで急いで取りに行き、それでポンと渡してくれたのですが、そのときのボクの感情がパッと出てしまいました。『遅いよ』というのが出てしまいました。しかし、そういうのは関係なく、大人として、サッカー選手としてああいう軽率な行動はしてはいけない。非常に反省しています。今後の態度で示していきたいです」

どんな理由があろうとも、乱暴行為は許されるものではない。ましてや、試合運営を助けてくれている未成年のボールパーソンへの乱暴である。今後、馬渡には厳しい処分が待っているのは間違いない。

過去にはアザールが退場に。トラブルはいつどの会場で起きてもおかしくなかった

過去にはアザールが退場に。トラブルはいつどの会場で起きてもおかしくなかった

アザール(右端)も2013年にボールパーソンへ乱暴を働き、3試合出場停止になっている。Photo/Getty Images

サッカーにおいて選手がボールパーソンに乱暴を働いたのは、今回がはじめてではない。思い出されるのが、2012-13シーズンのキャピタルワン・カップ(イングランド・リーグカップ)準決勝のスウォンジー×チェルシーで起きた出来事だ。

ホームでの1stレグを0-2で落としていたチェルシーは2ndレグでまずは2点が必要だったが、試合は0-0のまま進んだ。そして、問題の出来事は78分に起きた。ボールがスウォンジー・サイドのゴールラインを割ってチェルシーがCKを得たが、ボールをつかんだボールパーソン(少年)がそのまま抱え込み、駆け寄ったチェルシーのエデン・アザールになかなか渡さなかった。

早くリ・スタートしたいアザールはなにを思ったか、ボールパーソンが抱えているボールを蹴り出そうとした。その過程で少年を蹴るカタチになり、レフェリーからレッドカードを受けた。その後、アザールには3試合出場停止の処分が下されている。

日々サッカーを取材するなか、コーチングスタッフや選手とボールパーソンのトラブルは表沙汰にならないところでときおり発生していると認識している。

1996年にJリーグでマルチボールシステムが採用されてからすでに20年が経過しており、選手はボールがタッチラインやゴールラインを割るとすぐにボールパーソンが渡してくれる感覚になっている。そのため、いざ自分がほしいタイミングでボールが渡されないと苛立ちを見せることがある。

今回の馬渡のように手を出すことはなかったが、ボールパーソンにきつい言葉、激しい言葉を投げかける。あるいは、大きなゼスチャーで「早く渡せ」という強いメッセージを送る。こうした行為はときおり見られるものだ。そう考えると、今回の“事件”は起きるべくして起きたものだと感じる。

また、もちろん今回の件とまったく関係ないが、ボールパーソンへの指導が徹底されていないケースもときおり目にする。ボールがタッチラインを割っても気づかず、座ったまま動かない。2人のちょうど中間地点でボールが出たときは、どちらがボールを渡すのか判断できず譲り合ってしまう。こうした状況になると、選手が集中力を失うことになる。さらには、状況に応じてアウェイチームにはゆっくりと渡すという行為が実際に存在しているのも事実だ。勘違いしないように繰り返し強調しておくが、今回のケースとこれらはまったく関係ない。重要なのは、いつどこの会場で起きてもおかしくなかったということ。大局的に見ると、各クラブや各選手にとって今回の事件は対岸の火事とは言えないものだ。

ボールパーソンはおもに少年少女が務めている。マルチボールシステムだからといって、常にすみやかにボールが渡されるわけではないと選手は理解しないといけない。一方で、ボールパーソンに「すみやかにボールを渡す」という役割以外、余計な負担をかけないようにしないといけない。馬渡が瞬間的な感情で犯した今回の行為は、選手とボールパーソンの関係をもう一度しっかりと見直さなければならないことを示唆している。

文/飯塚 健司

サッカー専門誌記者を経て、2000年に独立。日本代表を追い続け、W杯は98年より5大会連続取材中。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。サンケイスポーツで「飯塚健司の儲カルチョ」を連載中。美術検定3級。

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