一人ひとりが身体を張り、最後までゴールを割らせなかった。4-0とした終了間際に右サイドを崩されて失点のピンチを迎えたが、長友佑都がなにがなんでもシュートはさせないというプレイで相手を倒してPKへ持ち込み、川島永嗣が「あっちの方向で勝負しようと思った。タイミングだけを合わせたら、ちょうどいいところにボールが来た」という渾身のセーブでストップして得点を許さなかった。
結果だけをみれば、4-0の大勝である。しかし、試合内容では攻撃を組み立てるときにパスミスが多く、不用意にボールを失っていた。ときには自陣でボールを失うことも。試合後に「ハイレベルを求めた場合、集中力やハードワークが足りなかった」と語ったのはヴァイッド・ハリルホジッチ監督であり、「後ろはボールを動かしたかったけど、前はロングボールを狙っているなど意識に差が出ていた」と語ったのは川島永嗣である。
自分たちのサッカーができたのはどちらのチームかと言えば、それはタイだ。「一人ひとりが一生懸命にプレイすることでチームに貢献していた。私にはなにも不満はない。選手たちは良い試合をしてくれた」とは、試合後のキャティサック・セーナームアン監督である。勝ったのは日本だったが、より大きな満足感を得たのはタイだった。
無論、反省点や改善点がある戦いをしながらも4点差をつけて勝利し、勝点3を得たのは予選突破に向けても、今後の日本代表の戦いを考えるうえでも大きな意味があった。浮かび上がった問題点を次へ向けて改善していくことが大切で、試合後の指揮官&選手たちは安堵しつつ、口々にうまくいかなかった点を語っていた。人は良かったことよりも悪かったことのほうが強く印象に残るもので、それはこの日の指揮官&選手も同じだった。
反省点、課題の前に大勝した要因を挙げておくと、日本の選手とタイの選手では「個」の部分で差があった。単純に技術力を比べたときの差ではなく、身体の強さ、フィニッシュの正確さ、走力の差、経験の差といったものだ。どこか不安定だった日本に熟成された組織力はなかったが、ここぞという場面で1対1の勝負に勝つ。訪れたチャンスを逃さない正確なフィニッシュ。ゴール前で身体を投げ出して守る粘り強さ。勝利に直結するこうした要素では、間違いなくタイを上回っていた。
一方で、タイにいいようにやられる時間帯があった。指揮官は「集中力やハードワークが足りなかった」と指摘したが、それは決してリードを奪った余裕から生まれたものではなかった。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督によるチーム強化は、これまで日本サッカー協会が押し進めてきた強化の方向性とは違う。ゆえに選手たちが戸惑いやプレイしにくさを感じるときがあり、タイ戦に限らず、安易なパスミスや連携ミスから危ない場面を迎えることがある。いわば、いまの日本代表は練習不足の状態で綱渡りをしているようなもので、だから毎試合ヒヤヒヤ感があるのだと言える。
タイ戦では酒井高徳が守備的MFでプレイした。ハンブルガーSVで同ポジションを務めたことはあったが、代表でははじめて。試合後にその印象を問われた酒井高徳は、「いや、良くないでしょ。与えられたポジションでしっかりとプレイすることを意識していて、自分の特徴を出せればと思っていたが、チームが勝ったことが良かったぐらいかな」という感想を残している。
この日は全体的に選手間の距離が遠く、タイに攻撃のスペースと時間を与えていた。もっとも注意が必要だった技術力の高いチャナティップ・ソングラシンにプレッシャーにいくのが遅れ、キレのある動きでかわされて正確なパスを出されて後手を踏んでいた。前線のアディサク・クライソーンのキープ力にも悩まされていたし、サイドを崩されてクロスを入れられることもあった。当然、日本の選手たちは違和感を覚えていて、ピッチ内で修正しようとしていた。