カイル・ウォーカー、エリック・ダイアー、ダニー・ローズ、ハリー・ウィンクス、クリスティアン・エリクセン、そしてハリー・ケイン……。2016-17シーズン開幕以降、トッテナム・ホットスパーは主力との契約を次々に更新しているが、書類にサインする選手の傍らには、つねにマウリシオ・ポチェッティーノ監督の姿がある。諸々の手続きをクラブに任せ、知らぬ存ぜぬを決め込む監督も少なくはないが、ポチェッティーノは強化に積極的で、なおかつ責任感にあふれた姿勢をスパーズの公式サイトを通じてアピールしている。ノースロンドンを本拠とする名門は、ベストと考えられる人材をようやく見いだしたようだ。
スパーズにはクラブ創設118年という歴史がある。スティーブ・ペリマン、マーティン・チバース、ガリー・リネカー、ポール・ガスコイン、オズワルド・アルディレス、ユルゲン・クリンスマンなど、過去には数多くの名手がプレイしていた。記憶に新しいところでは、ルカ・モドリッチとガレス・ベイル(ともに現レアル・マドリード)も、ホワイトハートレーンのアイドルだった。
しかし、イングランドのトップリーグは2回しか優勝していない。最後に頂点に立ったのは50年以上も昔の話だ。近年はチャンピオンズリーグの出場権を獲得できれば上出来で、プレミアリーグでは5〜6番手に甘んじていた。監督も落ち着かず、4シーズン近く在任したハリー・レドナップを除くと、ファン・デ・ラモス、アンドレ・ヴィラス・ボアス、ティム・シャーウッドなどはいずれも短命に終わっている。この人事に関し、レドナップは次のように語っていた。「フットボールを知らないダイレクターが強化を仕切り、責任を取るのは見知らぬ選手を押し付けられた監督だ」
彼の不満も分からないではない。ミアン・コモリやフランコ・バルディーニといったダイレクターが進めた補強がことごとく失敗に終わったにもかかわらず、ダニエル・リービィ会長は監督の首を挿げ替えるだけで次へ進んでいった。しかしレドナップはメディアに愚痴をこぼすだけで、リービィ会長を説得できるだけの建設的な意見を持っていなかった、といわれている。感情論に終始した、との情報も飛び交っていた。
一方、ポチェッティーノは監督が強化の主導権を握るべき正当性を論理立てて説明し、タフネゴシエーターとして知られるリービィ会長を説き伏せたという。そしてダイアー、トビアス・アルデルヴァイレルト、デル・アリ、ソン・フンミン、ヴィクター・ワニャマといった選手を、自らのコネクションを利用して獲得したのである。彼らはいずれもポチェッティーノの代名詞ともいうべき〈ハイライン・ハイプレス〉の適応者であり、放出されたエマニュエル・アデバヨール、ロベルト・ソルダード、アーロン・レノンなどは、あらゆる面で監督が求める水準に達していなかった。そう、「ポチェッティーノはスパーズを完全に掌握している」といって差し支えない。
しかし、すべてが順調に進行しているわけではない。選手層の薄さを改善する特効薬はなく、リヴァプール戦のようにフワッと立ち上がり、最後まで修正できないケースもある。「プレミアリーグを制する資格はない」と、ポチェッティーノもおかんむりだった。