【特集/UCLラウンド16プレビュー 4】またしても強敵引き当てたアーセナル 求められるのは安定性とプランB バイエルン×アーセナル

ピリッとしないドイツ王者 付け入る隙はあるはずだが……

ピリッとしないドイツ王者 付け入る隙はあるはずだが……

アーセナルの守護神チェフとバイエルンのウィンガーロッベンphoto/Getty Images

「またバイエルンか……」

チャンピオンズリーグ・ラウンド16の対戦相手が決まったとき、数多くのアーセナル・サポーターが落胆したという。グループステージを首位で通過しながら優勝候補の一角を引き当てるとは、実にアンラッキーだ。

さて、今シーズンのバイエルン・ミュンヘンは不安定だ。ジョゼップ・グアルディオラ(現マンチェスター・シティ監督)体制下の厳しい管理から解放され、心身ともに緩みがちだ。カルロ・アンチェロッティ監督が重んじる自主性を放任と履き違え、ミスをしても反省するそぶりすら見せない選手も見受けられる。クラブ間のレベル格差が激しいブンデスリーガでは、最終的に5連覇を達成する公算大とはいえ、付け入る隙もあるはずだ。

しかし、アーセナルも相変わらず──である。強いのか強くないのか、いや、強いのだろうが、パフォーマンスが安定しない。プレミアリーグ第21節のスウォンジー・シティ戦でも、アーセナルの弱点が明らかになった。立ちあがりから縦パスにミスが目立ち、アレクシス・サンチェスが苛立ちを露わにする。メスト・エジルが低い位置に降りてきてコントロールを図るが、チャンスを創るには至らない。そして中盤センターのグラニト・ジャカとアーロン・ラムジーは気持ちばかりが先行し、状況判断もそこそこに持ち場を離れるケースが多くなった。両選手の悪癖である。

ゴールが欲しくてバランスを崩す場合はどのチームにもあるが、スウォンジーは降格圏内をさまよい、フランチェスコ・グイドリン→ボブ・ブラッドリー→ポール・クレメントと、今シーズンは監督を固定することすらままならない状況だ。焦るような相手ではない。真綿で首を絞めるようにじわじわと痛めつけていれば、必ずボロを出す。アーセナルとは同格ではない。数日後にビッグクラブとの対戦を控えているわけでもないのだから、なぜ前半から苛々しなければならないのか。アーセン・ヴェンゲル監督率いるアーセナルは、何年たっても成熟できないようだ。すべての試合で同じモチベーションを期待するのは酷だとしても、ムラがありすぎる。堅実性を欠くチームが、ヨーロッパの頂点を制する確率は極めて低い。

必要なのは「プランB」だが、ヴェンゲル采配は柔軟性を欠く

必要なのは「プランB」だが、ヴェンゲル采配は柔軟性を欠く

なにか策を用意してくるであろう百戦錬磨のアンチェロッティ photo/Getty Images

また、ヴェンゲル監督の考え方が柔軟性を欠いていることも、バイエルン戦では不安材料だ。ここ数年は[4-2-3-1]にこだわり、プランBを用意しなかった。「Bという表現は嫌いだ」とフランス人の指揮官は語ったが、複数のフォーメーションを使いこなす柔軟性が、チャンピオンズリーグでは成功のカギを握る。とくに、アキレス腱の負傷に苦しむサンティ・カソルラが間に合いそうもない1stレグは、中盤センターの人選が勝敗を左右するだろう。

1月3日のボーンマス戦で左足のハムストリングを痛めたフランシス・コクランは、フル稼働に疑問符が付く。この負傷は練習開始まで通常は1か月の安静、加療が必要とされるからだ。したがって、現時点ではジャカとラムジーの先発が有力となり、先述したようにバイタル付近を空ける傾向が強い。アウェイにもかかわらず、リスクを冒す選手を優先しなければならい状況はやはりマイナスだ。

そしてアーセナルが抱える最大の弱点は、ヴェンゲル監督が選手の個性とコンディションに委ねるタイプの指揮官で、状況に応じたベンチワークとは無縁の人間ということだ。アクシデントでも生じないかぎり選手交代のタイミングが遅く、試合中にフォーメーションを細工するケースは多くない。プランBを用いないのだから仕方がない。それがヴェンゲル監督の“流儀”である。

ただし洋の東西を問わず、ひとつの闘いに固執した指揮官が率いる組織が、戦闘で成功を収めたことがあっただろうか。パターン化した攻守は読みやすく、対戦相手の餌食になりやすい。まして、近代フットボールは戦術が多様化し、選手個々のフィジカルも年々進歩しているのだから、少なくともふた通りの闘い方を準備しておくべきだ。

バイエルンのアンチェロッティ監督は研究熱心だ。アーセナルの弱点はすでに予習しているに違いない。ユヴェントス、ミラン、レアル・マドリード、チェルシー、パリ・サンジェルマンに多くの栄冠をもたらした経験値も、ヴェンゲル監督を大きく上まわっている。この勝負、アーセナル有利とはいえない。

文/粕谷秀樹

サッカージャーナリスト。特にプレミアリーグ関連情報には精通している。試合中継やテレビ番組での解説者としてもお馴染みで、独特の視点で繰り出される選手、チームへの評価と切れ味鋭い意見は特筆ものである。



theWORLD182号 2017年1月22日配信の記事より転載
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