【特集/今、欧州4大リーグで目が離せない46人 2】戦術とテクニックが問われるリーガでチームを支える大黒柱

驚異のフィット感 新天地でも異彩を放つ2人

驚異のフィット感 新天地でも異彩を放つ2人

サンパオリ監督の理想を具現化するキーマンとして注目されるナスリ photo/Getty Images

チリ代表をコパ・アメリカ優勝に導いたホルヘ・サンパオリを新監督に迎えたセビージャは積極的に補強を行った。プレイスタイルも一新している。サンパオリ監督といえばマルセロ・ビエルサの熱烈な信奉者として知られ、ハイプレスとポゼッションを両輪とする独特のプレイスタイルは異彩を放つ。

面白いのは高いインテンシティを求められる戦術であるにも関わらず、それにまったく合いそうにない技巧派も補強していることだ。ガンソが典型だが、清武弘嗣も運動量はあっても強靱なハードワーカーというタイプではない。そこへシーズンインしてから移籍してきたのがサミル・ナスリだった。天才肌の問題児、何より献身性を求められる新生セビージャにフィットするのか疑問だったが……ナスリはあっというまにセビージャに欠かせない存在になっているのだ。

ナスリは新戦術を完全に消化していないチームの問題を一気に解決してしまった。ビルドアップが行き詰まりそうなときは引いてボールを預かり、パス&ムーブで攻撃のスイッチを入れる。さらにゴール前に姿を現して決定的な仕事をする。もともと守備もしっかりやるタイプで、素早い寄せからボール奪取することも少なくない。全員攻撃全員守備のセビージャはナスリ降臨によってグレードアップした感さえある。
サンパオリ監督はチリ初のビッグタイトルであるコパ・アメリカを獲ったときに、天才肌のホルヘ・バルディビアを起用していた。勤勉で技術もあり、勇敢なプレイをするチリ足りなかった何かをバルディビアはもたらした。同じように、ナスリはセビージャに啓示をもたらし、攻撃の羅針盤となっている。

ナスリのような強烈なインパクトを与えているわけではないが、サムエル・ユムティティはバルセロナにとって重要な補強だろう。リヨンから移籍してきた23歳のDFは、EURO2016でフランス代表として実力を示した。もともとフランス代表に招集されたのは、ジェレミー・マテューが負傷したからだった。左利きのCBとしてマテューの次という位置づけだったわけだ。しかしバルセロナではマテューよりもむしろ序列は上になっている。

ユムティティの重要性は、彼が左利きというところにある。バルセロナはゴールキックの際にCBが左右に開いてGKからのパスを受ける。ここがビルドアップのスタートだ。その際、CBはゴールラインぎりぎりまで下がる。ここでGKからのパスを受けた場合、左側のCBは左利きでなければならない。相手は当然プレッシャーをかけてくるので、左足でプレイできないとパスコースを探る視野が限定されてしまい行き詰まってしまうからだ。もちろんユムティティの守備力やフィード力もハイレベルなのだが、バルセロナにとっては左利きということが大きいわけだ。

ユヴェントスで活躍してレアル・マドリードに戻ってきたアルバロ・モラタも注目の新加入選手である。ポストプレイヤーとして強靱で、ドリブルでの突破力も抜群。タイプとしてはカリム・ベンゼマと被っているが、24歳と伸びしろは大きく、BBCの一角を崩す可能性は十分ありそうだ。

成熟の2年目 輝き増すスター

成熟の2年目 輝き増すスター

チャンスメイクだけでなく得点力にも磨きがかかるMFカラスコ photo/Getty Images

アトレティコ・マドリードで2年目のヤニック・カラスコは今季でさらに価値を上げるだろう。名前から想像されるとおり、ベルギー人だがスペインとポルトガルにルーツを持つ。突破力と得点力は出色。昨季は交代出場のジョーカーとして起用されることも多かったが、攻撃を強化したいアトレティコとしては切り札として期待される存在だ。

ディエゴ・シメオネ監督の下、堅守速攻でリーガに三強時代を到来させたアトレティコだが、UEFAチャンピオンズリーグ決勝に二度進出しながら同じ街の巨大なライバルであるレアル・マドリードに敗れた。昨季のファイナルで、本来は攻撃型のチームであるレアルがアトレティコにボールを持たせて堅守速攻の“速攻”を奪っている。矛と盾を強制交換されたことで、アトレティコの攻撃力という課題が浮き彫りにされた。相手に引かれたときにも打開できる攻撃力を身につけること、カラスコはそのためのカギとなる。

2年目で存在感を増している選手としては、セビージャのスティーブン・エンゾンジもいる。196センチの長身とリーチの長さを利したボール奪取力は抜群。サンパオリ監督の新戦術の下では、攻守にDFとMFを連結する重要な役割を任されている。ハイプレスを敢行するがゆえに、ハマらなければ相手のカウンター直撃を覚悟しなければならないセビージャにとって、防波堤となるエンゾンジの能力は不可欠だ。ポゼッションの面でもシンプルで的確なパスを捌く。ナスリがセビージャの頭脳なら、エンゾンジは心臓だ。中位争いを制するのは、新たな道を進むビジャレアルやセビージャなのか。それとも、安定感のあるビルバオやセルタなのか。3強による優勝争いとともに、中位の争いも注目されるところだ。

存在感がケタ違い 衰え知らずのベテラン勢

存在感がケタ違い 衰え知らずのベテラン勢

第9節のバレンシア戦で負傷し6〜8週間離脱していたイニエスタ photo/Getty Images

アンドレス・イニエスタも32歳になった。もともとオジサン風の雰囲気なので老けた感じはしないが、プレイぶりも相変わらず素晴らしい。負傷がちなのは心配だが、まだまだバルセロナの中心である。若手の時分から円熟味のあるプレイスタイルは、さらに仙人のような風格さえ漂わせている。

アトレティコのキャプテン、ガビも33歳とベテランの領域に入った。こちらも衰え知らず。非常に地味なMFなのだが、よく見ると何も間違えていない。常に正解のプレイができる優等生で、アトレティコで彼に代わる選手はいないだろう。

ビジャレアルのブルーノ・ソリアーノもガビに似たMFだ。32歳、ビジャレアル生え抜きである。以前にバルセロナから移籍の打診もあったようだが、ビジャレアルとの契約を延長した。小さな街クラブの象徴ともいえる存在だ。技術、運動量、献身性を備えた闘うキャプテンだ。

アスレティック・ビルバオには35歳のストライカー、アリツ・アドゥリスが健在。バスク代表チームともいえるビルバオのエースは、2015-16シーズンにキャリアハイの20ゴールを記録した。遅咲きというわけではないが、一時はフェルナンド・ジョレンテの陰に隠れていた。マジョルカ、バレンシアを経てビルバオに戻ったアドゥリスはベテランの域に入ってから得点力を伸ばし、依然としてビルバオのエースに収まっている。空中戦にも地上戦にも強く、ボックス内で勝負できるセンターフォワードらしいセンターフォワードである。質実剛健のバスク、得点王にその名が冠されているピチーチを生んだ地方らしい選手といえる。

レアル&バルサが誇る 2人のヤングスター

レアル&バルサが誇る 2人のヤングスター

開幕戦から鮮烈なゴールを決め注目を集めたアセンシオ photo/Getty Images

レアル・マドリードの20歳、マルコ・アセンシオが注目されている。U-19ヨーロッパ選手権でスペイン優勝の原動力となった逸材。テクニック、スピード、センスが光る左利きのFWで、ジネディーヌ・ジダン監督は才能を買ってトップチームに加えた。セビージャとのUEFAスーパーカップでは先発出場、初得点も記録している。ベイル、ベンゼマ、ロナウドのBBCがいて、モラタも加入してきたレアルのFWは世界でも最も層が厚い。ただアセンシオは純粋なFWというよりチャンスメイカーでもあり、MFとしてもプレイできる。もちろ中盤もルカ・モドリッチ、ハメス・ロドリゲス、トニ・クロースなど層の厚さは凄まじいものがあるわけだが、序列を揺り動かす才能の持ち主と認められている。

分厚い選手層に挑む若手という点では、バルセロナのデニス・スアレスもまさにそれ。ユース時代をセルタ、イングランドのマンチェスター・シティで過ごし、バルセロナBプレイしていたが、イバン・ラキティッチの加入によってセビージャへ貸し出される。その後、ビジャレアルを経て今季から再びバルセロナに所属するようになった。バルセロナはビジャレアルへの移籍に際して買い戻しのオプションを付けていて、それを行使してデニス・スアレスを呼び戻したわけだ。バルセロナの中盤もまた世界一といっていいぐらい層は厚い。ただ、イニエスタが負傷やローテーションで欠場する機会は増えているので、デニス・スアレスにはチャンスがある。いかにもバルサが好みそうな技巧派。そこにプラスアルファを加えられるかどうかが勝負になりそうだ。

文/西部 謙司
1995年から98年までパリに在住し、サッカー専門誌「ストライカー」の編集記者を経て2002年からフリーランスとして活動。主にヨーロッパサッカーを中心に取材する。「フットボリスタ」などにコラムを寄稿し、「ゴールへのルート」(Gakken)、「戦術リストランテⅣ」(ソル・メディア)など著書多数。Twitterアカウント:@kenji_nishibe

theWORLD 2016年12月号の記事より転載

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