チリ代表をコパ・アメリカ優勝に導いたホルヘ・サンパオリを新監督に迎えたセビージャは積極的に補強を行った。プレイスタイルも一新している。サンパオリ監督といえばマルセロ・ビエルサの熱烈な信奉者として知られ、ハイプレスとポゼッションを両輪とする独特のプレイスタイルは異彩を放つ。
面白いのは高いインテンシティを求められる戦術であるにも関わらず、それにまったく合いそうにない技巧派も補強していることだ。ガンソが典型だが、清武弘嗣も運動量はあっても強靱なハードワーカーというタイプではない。そこへシーズンインしてから移籍してきたのがサミル・ナスリだった。天才肌の問題児、何より献身性を求められる新生セビージャにフィットするのか疑問だったが……ナスリはあっというまにセビージャに欠かせない存在になっているのだ。
ナスリは新戦術を完全に消化していないチームの問題を一気に解決してしまった。ビルドアップが行き詰まりそうなときは引いてボールを預かり、パス&ムーブで攻撃のスイッチを入れる。さらにゴール前に姿を現して決定的な仕事をする。もともと守備もしっかりやるタイプで、素早い寄せからボール奪取することも少なくない。全員攻撃全員守備のセビージャはナスリ降臨によってグレードアップした感さえある。
サンパオリ監督はチリ初のビッグタイトルであるコパ・アメリカを獲ったときに、天才肌のホルヘ・バルディビアを起用していた。勤勉で技術もあり、勇敢なプレイをするチリ足りなかった何かをバルディビアはもたらした。同じように、ナスリはセビージャに啓示をもたらし、攻撃の羅針盤となっている。
ナスリのような強烈なインパクトを与えているわけではないが、サムエル・ユムティティはバルセロナにとって重要な補強だろう。リヨンから移籍してきた23歳のDFは、EURO2016でフランス代表として実力を示した。もともとフランス代表に招集されたのは、ジェレミー・マテューが負傷したからだった。左利きのCBとしてマテューの次という位置づけだったわけだ。しかしバルセロナではマテューよりもむしろ序列は上になっている。
ユムティティの重要性は、彼が左利きというところにある。バルセロナはゴールキックの際にCBが左右に開いてGKからのパスを受ける。ここがビルドアップのスタートだ。その際、CBはゴールラインぎりぎりまで下がる。ここでGKからのパスを受けた場合、左側のCBは左利きでなければならない。相手は当然プレッシャーをかけてくるので、左足でプレイできないとパスコースを探る視野が限定されてしまい行き詰まってしまうからだ。もちろんユムティティの守備力やフィード力もハイレベルなのだが、バルセロナにとっては左利きということが大きいわけだ。
ユヴェントスで活躍してレアル・マドリードに戻ってきたアルバロ・モラタも注目の新加入選手である。ポストプレイヤーとして強靱で、ドリブルでの突破力も抜群。タイプとしてはカリム・ベンゼマと被っているが、24歳と伸びしろは大きく、BBCの一角を崩す可能性は十分ありそうだ。