名良橋晃の定点観測♯27「プレッシャーで火がついた? ハリル監督に変化あり。ただし厳しい試合が続く

改善されない守備面の課題。中東での3試合に不安を残す

改善されない守備面の課題。中東での3試合に不安を残す

外からの意見を柔軟に取り入れたハリル監督によって、日本代表には変化が見られる Photo/Getty Images

ロシアW杯出場を目指す日本代表がアジア最終予選でサウジアラビア(以下サウジ)と対戦し、2-1で競り勝ちました。全10試合うち半分となる5試合を終えて勝点10となった日本代表は、オーストラリアを抜いてグループBの2位に浮上しました。サウジに勝利したことは評価すべきですが、これでOKというわけではありません。日本のメディアは1試合の結果で一喜一憂する傾向があり、まるでこの勝利ですべての流れが変わるかのような印象を世間に与えていないでしょうか。

サウジ戦は決してすべてが良かったわけではありません。勝ったから良しとするのではなく、勝ったからこそ見つめ直さなければならないことがあります。私はとくに守備が気になりました。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は相手の特徴に応じて試合ごとに戦術を変えていて、最近は起用する選手も変えています。

サウジ戦に関しては、高い位置からどんどんプレスをかけることを考えたときに、右のサイドアタッカーは本田圭佑ではなく久保裕也という選択になったのだと思います。ボールを奪ったら素早く縦へ仕掛けるというスタイルを実行するのに久保裕也の方が望ましいと判断したのでしょう。
対戦相手の特徴に応じたこうした選手起用は、最終予選がはじまってからとくに顕著に見られます。いわば一戦一戦にスペシャルな戦いをしており、オーストラリア戦では敵地で勝点1をもぎ取り、サウジ戦では勝点3を得ることに成功しました。しかし、こうした戦いをしているとどうしても組織力の構築が遅れ、チームの完成度という面ではまだまだと言わざるを得ません。ただ、これに関しては常にその場の勝利を目指さなければならず、チームの完成度を高めていく難しさがあるのも事実です。

こうした事情を理解したうえでなおもどうしても気になるのが、守備での連動性の少なさです。複数の選手で高い位置からプレッシャーをかけてボールを奪えればいいですが、連動性がまだまだ不十分なため、複数人で一気に奪いに行って逆にかわされ、簡単に逆サイドにボールをつながれて失点のピンチを迎える場面が見られます。サウジ戦だけではなく、過去の試合でも何度か見られたプレイで、確固たる守備のベースがまだ植えつけられていないと感じています。

ボールを奪いにいくときは、各選手が連動してチーム全体が1本の糸でつながっているようにバランスの良いカタチを保って仕掛けないと、いざ剥がされたときに大きなピンチを迎えてしまいます。最終予選残り5試合のうち3試合が中東でのアウェイゲームだという事実を考えると、現状のままではとても安心できません。次の最終予選は来年3月23日にアウェイで開催されるUAE戦です。可能であれば、今回のオマーン戦のような強化試合を事前に実施するなど、少しでも準備をしてほしいです。また、これまでときおり行なっている国内組だけの強化合宿もUAE戦の前に行なうべきだと考えています。

日本スタイルとハリルスタイル。両者が融合したスタイルの実現へ

日本スタイルとハリルスタイル。両者が融合したスタイルの実現へ

いまの日本代表は「個」の活躍が目立つ。原口に助けられている一面もある Photo/Getty Images

ハリルホジッチ監督のチーム作りは、これまでの日本サッカーの特徴を生かすスタイルではありませんでした。「組織」よりも「個」を重視し、1対1の局面が目立ちました。相手の特徴を消すべく、戦術や選手を変える傾向もあり、これに関しては今後ますます顕著になっていくでしょう。これがハリルホジッチ監督のスタイルで、「個」の能力が高い欧州やアフリカのチームを率いて結果を残してきました。だからこそ、日本でも同じ方法でチーム作りを進めているのでしょう。

しかし、日本サッカーの特徴は「組織」にこそあります。ハリルホジッチ監督も最近では認識を改め、だいぶ「組織」を重視したチーム作りをしているなと感じます。以前はボールを持つととにかく縦へというイメージでしたが、オマーン戦やサウジ戦ではときにショートパスをつなぐなど柔軟性のある攻撃が見られました。そういった意味では、自分のスタイルを押し通すだけではなく、外からの意見を柔軟に受け入れる監督なのだなと感じます。

あるいは、いろいろなプレッシャーがあったほうが闘志に火がつく監督なのかもしれません。以前は比較的に楽観的で、現状維持のままチーム強化を進めていました。ところが、結果が出にくくなってさまざまな問題が露呈してきたことで、考え方が変わってきているように見えます。大迫勇也、齋藤学、久保裕也の起用などオマーン戦、サウジ戦を通じてハリルホジッチ監督が下した決断は、大きなプレッシャーがあったからこそで、このタイミングでしかできなかったものだと思います。

今後は日本サッカーがこれまで蓄積してきた組織プレイを生かしつつ、ハリルホジッチ監督のスタイルをうまく融合することができれば良いチームになっていくのではないかなと感じています。ただ、月日が経つのはアッという間で日本代表全員が集まれる時間がそうあるわけではありません。むしろ、ほぼないといっていいでしょう。そうしたなか、どう組織力を高めていくかが大きな問題で、こうした部分を日本サッカー協会がどう判断するか注目しています。

私は海外組を重視する方針も変えていいのではないかと思っています。現状、ハリルホジッチ監督のファーストチョイスは海外で試合に出ている選手となっています。私はもっとJリーグでプレイする選手にも目を向け、活躍している選手には積極的にチャンスを与えてほしいです。そうすることが日本サッカー全体のレベルアップにつながり、ひいては日本代表の強化につながると考えているからです。

構成/飯塚健司

theWORLD180号 2016年11月23日配信の記事より転載

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