ジダン監督はホンモノか? 首都決戦で見せた“猛プレス”と、それを可能にする抜群の説得力とは

選手への信頼を注ぎ続けるジダン

選手への信頼を注ぎ続けるジダン

レアルで監督としてのキャリアをスタートさせた photo/Getty Images

彼が悠然と振りかざすのは魔法の杖か、それともスパルタな鞭か。天下のレアル・マドリードを指揮する“誠実な”フランス人は今、確実に選手たちの信頼を獲得しつつある。

ユップ・ハインケスにファビオ・カペッロ、フース・ヒディンク、そしてビセンテ・デル・ボスケ。スペイン屈指の名門レアルを率いてきた天才たちの名を挙げれば枚挙に暇がないが、百戦錬磨の場数を踏んできたはずの彼らですら、要塞サンティアゴ・ベルナベウにおいてはその過度なプレッシャーに押し潰される。実際、2003年に同クラブを去ったデル・ボスケ以降、レアルで3年目を与えられた“長期在任者”はジョゼ・モウリーニョただ1人だ。彼の後釜として2013年夏にやってきたカルロ・アンチェロッティは白い巨人に10度目の欧州タイトルをもたらしたものの、国内リーグでは振るわず、3年目を与えられることはなかった。

そして今、この厄介な仕事を引き受けているのが、2015-16シーズン途中にわずか半年で解任されたラファエル・ベニテス前監督の座を受け継いだジネディーヌ・ジダンだ。レアルマドリード・カスティージャを指導していた元フランス代表の名手は、決して最高のタイミングとはいえない引き継ぎから見事な立て直しを実現し、最後にはウン・デシマ(11度目のUCL制覇)を達成してみせた。もちろんこのたった半年間のシンデレラストーリーだけが、彼の指揮官としてのポテンシャルを語る全てのエピソードではない。20日に敵地ビセンテ・カルデロンで3-0と快勝したアトレティコ・マドリードとの首都決戦が、この男の真髄を如実に表していた。ほぼパーフェクトな試合運びで難敵を破ったこの一戦で明らかに効いていたのは、一流のスーパースターたちによる献身的な囲い込みの守備だろう。ガレス・ベイルは前線からのチェックを怠らず、イスコ&ルカス・バスケスに至っては常にその足を稼働させ続けた。もちろんクリスティアーノ・ロナウドまでもが全力で守備に明け暮れたと言うつもりはないが、このポルトガル人は守備以上の大仕事をやってのけている。ハットトリックを達成したNo.7は例外として、ジダンは全てのプレイヤーに水準以上の走力を要求し、同時に“フォー・ザ・チーム”のムードを頑なに崩さない。現に体重過多や怠惰な練習態度といったネガティブな話題を振りまいたハメス・ロドリゲスは分かりやすく出場機会を失っている。

もちろん“フットボールにおいて走力が必須”であることは、なにもこのフランスの新米監督や、レスターのクラウディオ・ラニエリが初めて提唱したロジックではない。だが、ことレアル・マドリードにおいてそれを具現化させられるのはほんのひと握りの人間だけだ。カペッロやアントニオ・カマーチョを含む幾多の歴代指揮官がレアルでこの難題に取り組んできたが、そのストイックな方針故に選手を疲弊させ、短命に終わった。

そもそも、レアル・マドリードへやってくるスーパースターは皆それぞれの前所属クラブで多くを成し遂げてきたエース級であり、“走るため”にレアル移籍を敢行したわけではない。汗をかくことよりもゴールを決めることに専念してきたエリート軍団に対し、ハードワークを強制させるにはそれなりの説得力が必須だが、ジダンには他の監督に持ち合わせていない圧倒的な現役時代のインパクトが備わっている。レアル史上最も優雅で洗練されたテクニックを誇るフランスのレジェンドが自らの上司ともなれば、破格の移籍金でやってきたスター選手でさえも耳を貸さずにはいられないだろう。トップチームを指揮した経験がゼロでありながら、モウリーニョやベニテスといった名将がどう転んでも手に入れることができないレジェンドとしてのカリスマ性を誇るジダンは、近年のレアルを率いた監督の中で特異な存在といえる。現役時代の突出したキャリアが結果的にスター選手を走らせる説得力へと繋がっているジダンだが、一方で彼らへの愛情を示すことも怠らない。それはこのフランス人監督の就任以降、新規で獲得したプレイヤーが1人も存在しない事実からも窺い知ることができる。ポール・ポグバへの強い関心は明白だったが、ジダンが今夏に取り組んだ主なテーマは銀河系路線の推進よりも、むしろ既存戦力に十分な信頼を注ぎ、熟成させることだ。

これまで、晴れてレアル・マドリードへの就任を叶えた新指揮官たちは、得てして表向きには“既存戦力への信頼”を体裁よく語りながら、最終的に多くの一流プレイヤーとサインし、スカッドを自分色に染めたがる傾向にあった。2007年に白い巨人と契りを交わしたベルント・シュスター監督は、ヘタフェ在籍時代に「レアルというクラブは優秀なカンテラーノ(ユース出身選手)を保有しながら、それらを軽視し、ほとんど試合で起用しない」と糾弾。外野の身分からは、レアルがユース上がりの選手をより重視すべきとの見解を示していたが、いざ同クラブの監督として迎え入れられると、“カンテラの至宝”ロベルト・ソルダードに一切の出場機会を与えず、ゴンサロ・イグアインやハビエル・サビオラを優先したことは記憶に新しい。これでは選手との相互的な信頼を構築することなど不可能だろう。一方、ジダンはレアル指揮官として初めて迎えた夏の間、最後まで“1枚舌”だった。会見において常に既存メンバーへの信頼と満足感を示すと、ポグバへの関心も包み隠さずに認めている。自我が強く、ときにはボスへの攻撃も厭わないレアルのスーパースターたちだが、このフランス人から“不誠実な一面”を見出すことは現在のところ不可能に近いはずだ。

今や、選手が監督のハードな指示を黙って受け入れるだけの時代は終わりを迎えつつある。破格の年俸を受け取るメディアスターに多量の汗をかかせたいのなら、それに見合うだけの合理性と深い愛情を示さなければならない。ホワイトボードにミリ単位の戦術論を書き込み、頭ごなしにただただ吠えるだけのスタイルも構わない。だが、実際にピッチ上でそれらを体現するのはプレイヤーであり、マドリード・ダービーでレアルの選手があれほどのハードワークをこなしたのは決して“吠えられたから”ではないはずだ。監督と選手による相互の信頼と、それを生み出す誠実な言動が不可欠なことは何もレアルに限った話ではない。仕事をこなす上で必須ともいえるこの重要な共鳴こそ、ユルゲン・クロップやディエゴ・シメオネ、そしてジダンにはあって、カペッロやフェリックス・マガトといった鬼軍曹に欠けていた“ハートフルな要素”だ。

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