【特集/プレミア6強戦国時代 5】 強い相手に強い“ビエルサ派”  圧倒的な完成度でプレミアを席巻するトッテナム

名将ビエルサの遺伝子を受け継ぐ2人の監督

名将ビエルサの遺伝子を受け継ぐ2人の監督

第8節を終えた時点で、いまだ無敗のトッテナム photo/Getty Images

10月2日の第7節、トッテナムはマンチェスター・シティを2-0で破った。同じ日、リーガ・エスパニョーラではセルタがバルセロナに4-3で勝利している。イングランドとスペイン、場所もチームも違うのに、2つの試合はよく似ていた。

スパーズのマウリシオ・ポチェッティーノとセルタのエドゥアルド・ベリッソは、同じ遺伝子を持つ監督なのだ。彼らの“親”はマルセロ・ビエルサである。

ビエルサ派と呼ばれるスタイルがある。守備においてはマンツーマン気味のハイプレス、攻撃はしっかりとパスをつないでいく。非常にアグレッシブで、勇敢なプレイぶりで知られている。ビエルサがニューウェルズ・オールドボーイズの監督だったとき、ポチェッティーノとベリッソは選手としてプレイしていた。その後、ポチェッティーノはエスパニョールで、ベリッソはチリ代表でビエルサと再会(ベリッソはアシスタントコーチ)。2人ともビエルサに強く影響を受けている。

ビエルサ派の特徴は、「強い相手に強い」サッカーだ。通常、シティやバルサのような格上の相手と当たったときの選択肢は1つしかない。自陣に引いてスペースを埋め、攻撃力を可能なかぎり削り取ること。そして、わずかな隙をついたカウンターアタックによって数少ないチャンスを決めて勝つ。これしかない。ところが、ビエルサ派のやり方は全く違うのだ。引いて守備を固める籠城戦ではなく、敵陣から猛烈なプレスを仕掛けていく。プレスをくぐられると、シティやバルサに広大なスペースを与えることになるので、普通に考えれば自殺行為に等しい。しかし、ビエルサ派はこの方法でしばしば格上に勝ってしまう。しかも、圧倒して勝つことすらある。

無敵のバルサへ勇敢に挑んだ新米ポチェッティーノ監督

無敵のバルサへ勇敢に挑んだ新米ポチェッティーノ監督

エスパニョール時代、ポチェッティーノ(右)のもとでプレイした中村俊輔(左) photo/Getty Images

ポチェッティーノが監督のキャリアをスタートさせたエスパニョールでの最初の試合がバルサ戦だった。相手の監督はグアルディオラ、3冠を成し遂げた無敵のバルサである。ポチェッティーノ新監督に与えられた時間はわずか2回のトレーニングだけ。選手たちにハイプレッシャーを敢行すると告げると、「それは無理だ」という反応だったという。だが、バルサを迎えたホームゲームは0-0だった。なぜ無謀ともいえるハイプレスを実行したかについて、ポチェッティーノは「パーソナリティーだ」と答えている。そして「ピッチには、その人の生き方が表れるものだ。人生において勇敢なら、勇敢に戦うしかない。違うやり方はできないんだ。私は他の戦い方を知らないし、常に勇敢であることを好む」と語った。

リスクを冒しても勇敢に挑む。実は、それがバルサやシティには最も有効な戦い方なのかもしれない。ホームで2年連続バルサを粉砕したベリッソ監督のセルタはそれを示しているし、エスパニョール時代のポチェッティーノ、ビエルサ監督が率いたアスレティック・ビルバオもそうだった。

現在のバルセロナの戦術のルーツはアヤックスだ。アヤックスの哲学をリヌス・ミケルスとヨハン・クライフがバルセロナに持って来た。それを受け継いだグアルディオラが、バイエルン・ミュンヘン、マンチェスター・シティに広めていったわけだが、その対抗勢力であるビエルサ派も元をたどれば同じアヤックスである。ビエルサは、ルイ・ファン・ハール監督が率いていたアヤックスに感化された。アヤックスとの直接の接点はないが、研究して自分の戦術に落とし込んだ。直系と傍流の違いはあるが、シティとスパーズ、グアルディオラとポチェッティーノの源流は同じなのだ。

満を持して挑むプレミア制覇、スパーズは最有力候補か!?

満を持して挑むプレミア制覇、スパーズは最有力候補か!?

アジアNo.1と称され、トッテナムの攻撃を牽引するソン・フンミン photo/Getty Images

ポチェッティーノ監督はスパーズを率いて3シーズン目になる。最初のシーズンが5位、昨季は優勝寸前までいったが終盤に自滅してレスターにさらわれた。今季は優勝を狙っているだろうし、それだけの戦力も持っている。
ヤン・ヴェルトンゲンとトビー・アルデルヴァイレルトはアヤックス時代からのCBコンビ、ベルギー代表でも一緒なので、もう2人でワンセットみたいなものだ。SB(カイル・ウォーカー、ダニー・ローズ)はイングランド代表、MFのエリック・ダイアー、デレ・アリ、CFハリー・ケインもイングランド代表である。イングランド代表はスパーズがベースになっているわけだ。エリク・ラメラ(アルゼンチン)、ソン・フンミン(韓国)、ムサ・シソコ(フランス)、クリスティアン・エリクセン(デンマーク)のアタッカー陣の多国籍はプレミアらしいが、いずれもスピードがあってタフ。ハイプレスを敢行するポチェッティーノ戦術を実行できる資質を持っている。

シティを2-0で撃破した第7節の試合は、恐ろしくインテンシティの高い展開が続いていた。リスクを冒す戦いでカギを握るのは、その中でリスクをコントロールすることだ。その点で、スパーズに一日の長があったといえるかもしれない。「強い相手に強い」ビエルサ派だが、実は自らが最強になったことがない。ヨーロッパ初、このスタイルでタイトルを獲るとしたら、ポチェッティーノ率いるスパーズは最有力だろう。

文/西部 謙司

theWORLD 2016年11月号の記事より転載

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