【ハリルジャパンへの提言 3】戦術の幅が狭い日本代表 最強の組織を作るために必要な選手とは

大事なのはポジションとタスクのバランス

大事なのはポジションとタスクのバランス
2002年、トルシエが日本代表監督だったとき、11人の明神智和がいれば勝てると言った。プレイうんぬんではなく、献身的な意識を指してのことだと思われるが、現実には同じタイプの選手を揃えて勝つのは難しい。野球で4番バッターばかりを揃えても勝てないのと同じだ。

組織のメンバーにはそれぞれポジションとタスクがある。さらに主役、脇役がいて、彼らを支える汗をかく人間などがいる。これがバランスよく配され、 個々の利益とチームの利益がマッチしたとき、組織は最強となる。

名前だけは充実 戦術の幅が狭い現状

名前だけは充実 戦術の幅が狭い現状

UAE戦では失点に絡み、ほろ苦いデビューになった大島僚太 photo/Getty Images

ハリルホジッチ監督のメンバー構成を見ると中盤と前線に似たタイプが多い。トップ下でスタイルこそ違うが香川真司と清武弘嗣、アタッカーの原口元気と宇佐美貴史、武藤嘉紀の3人も似たタイプで清武はこちらにも入る選手だ。

ボランチに目を向けると攻撃力が高いタイプが柏木陽介と大島僚太、長谷部誠と山口蛍はもともと攻撃的な選手だったが、バランスタイプとして成熟。ボランチはこの2パターンしか選択肢がなかった。

海外組の選手が並び、名前だけみれば充実したラインナップにみえる。だが、組織では同じタイプの選手を増やしてダブつかせてもプラスにはならない。個性の違う選手が同じポジションにいれば競争原理ば働くだろうば、選手のモチベーションとピッチでのプレイを考えると似たタイプは基本的に必要ない。

たとえば、アタッカー陣だが高速ドリブルが得意の齋藤学や予備登録に入っていないが中島翔哉、阿部浩之など汗のかける攻撃的MFが入るとメリハリがつく。1トップもハーフナー・マイクや豊田陽平、あるいは大久保嘉人がいれば変化を生み出せる。ボランチではボールを奪える能力が高い永木亮太や今野泰幸、米本拓司、細貝萌がいればボランチのコンビにも多様性が生まれる。

UAE戦のとき、ボランチは長谷部誠と大島僚太だったが、相手のカウンターが脅威だったので潰し役の永木か今野を軸にして、長谷部を起用せずとも大島、あるいは中村憲剛という攻撃的なボランチの選択肢があっても良かったはずだ。

大事なのは、個性プラス組合せによってピッチ上でどれだけプラスを生み出すことができるかだ。競争原理はその後についてくるものである。

そういう意味では、ハリルホジッチ 監督のメンバー選考と起用は十分に機能していると言い難い。UAE戦では後半、宇佐美、浅野拓磨、原口を入れたが、香川や本田圭佑も真ん中に入り、ゴール前は日本の選手がダブついて交通渋滞を引き起こし、効果的な攻撃ができなかった。齋藤のドリブルでサイドから打開するとか、ハーフナー・マイクや豊田を入れて空中戦で攻撃の幅を広げるとかがなく、起用する選手が似たタイプなので戦術的な幅が狭く、膠着した状況を打開しづらい。

歴史が物語る “盛り上げ役”の必要性

歴史が物語る “盛り上げ役”の必要性

必要視される中山雅史のような” 盛り上げ役” photo/Getty Images

長谷部がキャプテンだが今のチームの選手は全体的におとなしい選手が多い。UAE戦に負けた後、淀んだチームの雰囲気と選手の気持ちをうまく切り替え、同時にチームに明るさをもたらす存在の選手が必要だった。

フランスW杯最終予選、アウェイの韓国に勝ち、首の皮一枚残った状態で最終戦のカザフスタン戦に挑むとき、三浦知良と呂比須ワグナーは累積警告で出場停止だった。そのときに呼ばれたのが中山雅史だった。 岡田武史監督は「ゴンがきて暗い雰囲気のチームがパッと明るくなった。 あいつが来てくれて本当に助かった」と、その存在の大きさを語っていた。

翻って、UAEに逆転負けを喰らった際、マジメな長谷部をサポートし、うまく盛り上げてくれる選手がいればキャプテンもチームもかなり救われていただろう。槙野智章がいたらその役割を果たせたかもしれないが、長谷部の相談相手となるような中村憲剛らベテランを何かあったときにいれておくのは、リスクマネジメントの点からも必要だ。

歴史もその重要性を語っている。ドイツW杯ではキャプテン宮本恒靖のよき相談相手の田中誠がケガでチームを離脱すると宮本を理解し、 サポートして動いてくれる選手がいなくなり、オーストラリア戦の敗戦でチームが崩壊している。

ハリルホジッチ監督の頭の中には、まず海外組の存在があり、その選手たちを軸に国内組がその隙を埋めるような編成を考えている気がする。海外組は国際経験が豊富で能力が高いのは確かだが、しかしチームにフィットするかどうかは別問題である。

海外偏重主義はジーコのときもあったが、その結果、ドイツW杯で何が起きたかは周知の通りだ。改めて考えるべきは、メンバーの有機的な編成と組合せであろう。海外組だから。自分の好きな選手だから。それだけではもうアジアでは戦えない。UAE戦とタイ戦が示した教訓をチーム編成に生かさなければ今後、さらに痛い目に遭うことになる。

文/佐藤 俊

theWORLD178号 2016年9月23日配信の記事より転載

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