[欧州新シーズンプレビュー 1]名実ともにプレミアは世界最高に 監督のクオリティが明暗を分ける

舞台が整ったプレミア 海外から多くの名将が集結

舞台が整ったプレミア 海外から多くの名将が集結

マンチェスターで改革を開始したモウリーニョ photo/Getty Images

2016−17シーズンのテーマは“知恵比べ”だ。バイエルン・ミュンヘンのカルロ・アンチェロッティ、アトレティコ・マドリードのディエゴ・シメオネを除く世界的な名監督が、新シーズンのプレミアリーグに集結。彼らが練り上げる戦略・戦術の巧拙が、各チームの行方を左右するに違いない。プレミリーグ初挑戦となるジョゼップ・グアルディオラ(マンチェスター・シティ)とアントニオ・コンテ(チェルシー)、夢にまで見たマンチェスター・ユナイテッドの監督に就任したジョゼ・モウリーニョ、短期間でトッテナム・ホットスパーを整備したマウリシオ・ポチェッティーノ、そして名門リヴァプールを、誰にも負けない情熱で復活に導こうとするユルゲン・クロップ。彼らのベンチワークとコメントが、世界中のメディアを喜ばせるに違いない。

しかし、イングランドのプロリーグにもかかわらず、8月15日時点でイングランド人の監督はクリスタルパレスのアラン・パーデュー、ボーンマスのエディ・ハウ、バーンリーのショーン・ダイチ、そしてハル・シティのマイク・フィーラン(暫定人事)……。わずか4人しかいない。英国系もウェールズ人のトニー・ピューリス(ウェストブロムウィッチ・アルビオン)、マーク・ヒューズ(ストーク・シティ)、スコットランド人のデイビッド・モイーズ(サンダーランド)の3人だけで、彼らの主戦場は残留争いとなる見込みだ。トップランクのチームを所有するオーナーは、英国系の監督にまったく興味を示していない。プレミアリーグやチャンピオンズリーグで成功を得るには、大枚をはたいてでも外国人監督を──といった傾向が非常に強い。

国産の監督は育たず 残留争いが関の山

国産の監督は育たず 残留争いが関の山

エディ・ハウは数少ないイングランド人監督の有望株 photo/Getty Images

なぜ英国系は敬遠されるのか。基本的にノープランだからだ。さきのEURO2016でも、ロイ・ホジソン監督(当時)は選手の能力におんぶにだっこ。窮地に陥った際の代案を用意しておらず、“稀代の間抜け”であることを露呈した。たとえばピューリスのように、「我々は点が取れない。したがってプレミアリーグの座を守るには、低めのライン設定が基本。エンターテインメント性は排除」と覚悟が決まっていれば評価できる。コレクティブなスタイルを導入し、戦力不足を補ったハウの努力も認めなければならない。しかし、多くの監督がなんとなくピッチに現れ、仏頂面を下げてベンチにただ座っているだけだ。対戦相手を研究してきた気配がない。つまり、監督としての責務をまっとうしていないのだ。莫大なテレビ放映権料により、英国系指導者のギャランティは右肩上がりのようだが、評価は下がりっぱなしだ。

過去の歴史を紐解いてみても、戦略・戦術的に優れていた英国系の監督は、1982年スペイン・ワールドカップのイングランド代表を率いた、ロン・グリーンウッドただひとりといわれている。攻守ともに洗練されており、いまも各方面で高く評価されている。もちろん、ニューカッスルやバルセロナの監督も務めたサー・ボビー・ロブソンは、チャーミングな人柄でメディア、サポーターに愛されていた。しかし、4−5で敗れても「敗戦は悔しいが、両チーム合わせて9ゴールも入った。サポーターの皆さんは喜んでくれたのではないかな」と、エンターテインメント性に重きを置くタイプだった。綿密な戦略を軸とする戦術家ではない。

また、サー・アレックス・ファーガソン(元ユナイテッド監督)のマネジメント、危機管理能力には敬服するが、研究熱心なスポーツライターが触手を伸ばすような戦術を用いたケースは、ほとんどなかった。

頭でっかちになり、専門知識ばかり採り入れることはない。理論は実践を下まわり、闘いの基本はあくまでも強い心と肉体だ。しかし、ノープランで勝てるほどプレミアリーグは易しくなく、選手たちの特性を生かし、相手の弱みに付け込む作戦を練り上げなくてはならない。また、ジャンクフードと炭酸飲料を禁止したり、イングランドの文化でもある飲酒をコントロールしたり、監督たるもの、選手の健康管理にも気を配るべきだ。

名将のプランをコピーしても、同じようなフットボールができるわけではない。そのスタイルを確立するに至った経緯を研究し、みずからのチームに採り入れる創意工夫が必要だ。グアルディオラをはじめとする優れた指導者の着任によって盛り上がるプレミアリーグだが、英国系指導者の立場は窮屈だ。知恵比べでも恥をさらすに違いない。

文/粕谷 秀樹

theWORLD177号 2016年8月23日配信の記事より転載

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