名良橋晃の定点観測♯22「堅守をいかに崩すか? 日本代表にとってもユーロは参考になる」

フランスは地元で強い。優勝候補にあげられる

フランスでユーロ2016が開催され、アメリカではコパ・アメリカが行なわれています。8月にはリオ五輪が控えており、サッカー界はビッグイベントが目白押しです。ユーロやコパ・アメリカは現在の代表チームのトレンドが見られる大会なので、私も各国をチェックしてグループ戦術や選手個々のスキルなどを確認しています。

今回はユーロについてお話しします。私は開催国のフランスに注目しています。過去にフランスはW杯で1度(1998)、ユーロで2度(1984、2000)の優勝がありますが、このうち2度(1984、1998)が自国開催でした。地元で熱狂的なサポーターから後押しを受けて戦えるのはやはり大きなアドバンテージで、結果を出すことでさらにノッていけます。98年W杯を制したフランスがそうでした。

今大会のフランスも初戦のルーマニア戦、続くアルバニア戦に終了間際のゴールで劇的な勝利を収め、良いスタートを切りました。当初はカリム・ベンゼマがいないことで前線に不安がありましたが、オリヴィエ・ジルー、アントワーヌ・グリーズマン、ディミトリ・パイェの連係で良い攻撃のカタチを作っています。98年W杯のときもストライカーがいないと不安視されていましたが、大会がはじまるとティエリ・アンリやダヴィド・トレゼゲが活躍しました。前述の3人に加えて、アントニー・マルシャル、キングスレイ・コマン、アンドレ=ピエール・ジニャクなど攻撃陣のコマが豊富なフランスは、優勝候補にあげられます。
ただ、一抹の不安があります。お得意の内紛で、チームの調和が乱れることが一番恐いです。そういった意味では、ポール・ポグバが少し気になります。ルーマニア戦に先発するも存在が目立たず、アルバニア戦はベンチスタートでした。メディアとの対立も噂されています。ディディエ・デシャン監督がうまくまとめてくれるといいのですが……。

スペイン、イタリアも良いスタートを切りました。スペインは初戦で難敵のチェコに苦戦しながらもジェラール・ピケの決勝点で競り勝ち、勝負強いところを見せました。アントニオ・コンテ監督が大会後に退任するイタリアも侮れません。初戦でベルギーと対戦しましたが、私はタレントが豊富なベルギーに分があると考えていました。エデン・アザール、ケヴィン・デ・ブライネ、ロメル・ルカク、クリスティアン・ベンテケなど質の高い攻撃陣が揃っていて、大会前は優勝してもおかしくないと思っていました。

実際はイタリアの堅守がベルギーの攻撃をはね除けました。というより、ベルギーの攻撃は「個」に頼るものが多く、「組織」で崩すカタチがありませんでした。精神的支柱であるヴァンサン・コンパニがケガのため欠場しているのが影響しているのか、今大会のベルギーは元気がないように感じます。

組織的な守備をどう崩すか? 日本代表にも参考になる

大会の序盤戦から判断すると、フランス、イタリア、スペインが優勝候補にあげられます。イングランドはまだハリー・ケインがチームのなかで浮いている印象があり、トッテナムで見せているプレーができていません。ドイツもゲッツェを前線に起用するゼロトップが機能しておらず、中盤でパスはつなげるもののフィニッシュまでのカタチがなく、攻撃に迫力がありません。
ポルトガルも同じで、グループリーグのアイスランド戦ではボールをキープするもののゴールを襲うプレーが少なかったです。また、CBのペペとリカルド・カルバリーョの後方にスペースがあることが気になります。アイスランド戦でも失点しましたが、CBの背後を狙われると厳しいかもしれません。

逆に、ダークホースとして気になるのがクロアチア、オーストリア、スロバキアです。クロアチアの中盤にはルカ・モドリッチ、イバン・ラキティッチといった自分で試合を作れて、勝負も決められる選手がいます。予選を無敗で通過したオーストリアも完成度が高いチームですが、初戦のハンガリー戦に敗れました。しかし、ダヴィド・アラバがチャンスを決めていればという試合で、決して悪くありませんでした。グループリーグは3位でも突破できる可能性があるので、どう巻き返すのか注目しています。

マレク・ハムシク、ウラジミール・ヴァイスという強烈な武器を持つスロバキアも上位に進出する力を持っています。なにより、参加24か国のなかから16チームが決勝トーナメントに進出する今大会のレギュレーションを考えると、その他多くのチームにグループリーグ突破の可能性があります。ウェールズ、アイスランド、ハンガリー、チェコ、スイス、アイルランド……。いずれも守備がしっかりしていて、相手の良さを消すことで自分たちのペースに引き込み、勝点を拾っていけるチームです。これらのチームが勝ち上がったときは、一発勝負となる決勝トーナメントでどんな戦いを見せるか非常に楽しみです。

グループAでスイス、フランスと接戦を演じたアルバニアも、結果的に連敗しましたが組織的な良いチームでした。フランス戦では得点するチャンスがあったし、終了間際に失点するまで守備のバランスも崩れていませんでした。可能性を感じるチームで、ヨーロッパのレベルの高さを改めて感じました。

日本代表がアルバニアと戦ったら、あの組織的な守備をどう崩すか。アイスランドやウェールズの高さ&強さがある守備に対して、どういう攻撃を仕掛けるか。守備側をチェックするとともに、私は攻撃側の視点からもユーロを見ています。また、球際の激しさ、とくにCBのボディコンタクトは強烈で、一見の価値があります。高い技術を持つ選手たちが、「絶対に勝つんだ」という強い意欲を持って戦っています。グループ戦術や個人スキルとともに、そういった精神的な部分も大事なのだと改めて感じています。

構成:飯塚健司

theWORLD175号 2016年6月23日配信の記事より転載

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