[今語りたいフットボーラー! 6]雌伏のときを経て…… 復活を期すサムライたち

ドイツでケガに泣かされた武藤と清武

ドイツでケガに泣かされた武藤と清武

2年目のケルンで出場機会が減少した大迫勇也 photo/Getty Images

ヨーロッパに戦いの場を求める日本人選手の数が増えた分だけ、そこで活躍することの難しさをより一層強く思い知らされた。まもなくクライマックスを迎える2015-16シーズンは、そんな1年だったのではないだろうか。

今季を振り返ると、岡崎慎司の(所属クラブの成績も含めて)活躍こそあったものの、日本人選手は総じて苦しんだ印象が強かった。本田圭佑、長友佑都がシーズン後半に入り、いくらか盛り返しはしたが、それでも全体的な負の印象を覆すには至らなかった。

武藤はFC東京から移籍したばかりのシーズン序盤からチームの主力としてプレイ。決して強豪とは言えないマインツにあっては、守備に追われて思うように力を出せないこともあったが、概ねコンスタントに特徴を発揮していた。 チームメイトのユヌス・マッリが活躍できたのも、武藤の献身的かつ精力的なプレイの恩恵を受けたからだろう。
それだけに右ヒザのケガが痛かった。しかも、ようやくケガが癒え、復帰が見えてきたシーズン終盤にもまた別箇所を負傷してしまったこともあり、結果的にシーズンの約半分を棒に振ることになってしまった。

だが、現地での評価は高く、プレイ自体に問題があったわけではない。ケガさえ完治すれば、今季前半戦以上の活躍ができるはずだ。

同じことは清武弘嗣にも言える。ハノーファーで背番号10を与えられていることからも分かるように、チーム内での信頼は勝ち得ており、事実、試合に出れば度々決定的な仕事をやってのける。清武抜きでは攻撃はたちまち単調なものになることからも、彼が重要な戦力であることは間違いない。

しかし、清武もまた、ケガに泣かされた。それも日本代表での活動中に負ってしまったのは、あまりに皮肉な結果だ。Jリーグ時代からケガが少なくなかった清武だが、能力の高さには疑いがないだけに、シーズンをフルに戦えるコンディションが求められる。

武藤は23歳、清武は26歳と、彼らは年齢的にもまだ底を見せておらず、加えて、すでにドイツでも通用しているだけに、ケガからの回復と、シーズンをフルに戦えるコンディションを作ることが優先課題となる。言い換えれば、それさえ整えば、来季は今季を上回る活躍が十分にできるはずである。

とはいえ、すべての選手が不運の一言で片づけられるわけではない。

ポジションを失い不遇のときを過ごしたサムライたち

ポジションを失い不遇のときを過ごしたサムライたち

サウサンプトンでポジションを失った吉田麻也 photo/Getty Images

大迫勇也はFWとしてプレイしながら、今季ここまでにブンデスリーガでわずか1ゴールしか挙げていない。そもそもFWとして出場できず、サイドMFとして守備に追われることも少なくないのが現状だ。

ケルンの力を考えれば、ある程度守備的な戦いになることは仕方ないとしても、武藤を見れば、必ずしもそ うしたチーム戦術は自分の持ち味を発揮できないことの理由にはならない。年が明け、シーズン後半に入ってからは先発出場した試合が1試合しかなく、戦術うんぬんの以前に、 チーム内での信頼を勝ち得ていない様子が数字からもうかがえる。

吉田麻也も同様だ。UEFAヨーロッパリーグ出場を争うサウサンプトンにあって、開幕直後こそ先発出場を重ねたが、シーズンが進むにつれ、 出場機会は激減している。昨季は本職のセンターバックとは異なる右サイドバックで出場することも多かったが、今季はそれすらもなくなってしまった。

冬の移籍でハノーファー入りした山口蛍にしても、日本代表戦(3月29日、アフガニスタン戦)で顔に相手のヘディングを受け、重傷を負ったのは不運だったが、あれがなければ、と悔やむほどに充実した日々を送っていたわけではない。シーズン途中の移籍だったことは割り引いて考える必要があるだろうが、負傷以前も苦しんでいた印象は否めない。

ポテンシャルはあるはず 来季は復活のシーズンに

ポテンシャルはあるはず 来季は復活のシーズンに

今季はケガの影響で1度もピッチに立てていない内田篤人 photo/Getty Images

これまでにヨーロッパで活躍した(あるいは、現在している)日本人選手の動向を振り返っても、1年目からある程度の成績を残し、それを礎に地位を固めていった点が共通する。最初は不遇を味わいながらも、徐々に巻き返して後に大活躍という例はほとんどないのが現実だ。

しかし、その点では、吉田はサウサンプトン加入1年目から主力選手として活躍しており、翌年は出場機会が減少したものの、3シーズン目となる昨季は出場機会も増やした。また、大迫も同じく、ドイツ挑戦1年目のTSV1860ミュンヘンでは、2部リーグを戦うクラブながら絶対的存在として君臨。ケルン加入後も、昨季は主力選手として活躍している。2人とも今季は不遇のシーズンを過ごしたが、再びポジションを奪い返すポテンシャルがあることは間違いない。

右ヒザのケガで今季1試合も出場できていない内田篤人もそうだろう。長期間離脱していた選手に、簡単にポジションを用意してくれるほど、ブンデスリーガは甘い舞台ではない。が、内田はシャルケに6シーズン所属して培った経験と信頼がある。また内田は、ケガからの復帰後、必ずといっていいほど高いレベルでプレイしており、今回もリハビリ期間中に新たな武器を身に着けてピッチに戻ってきてくれるはずだ。

雌伏のときを過ごした選手には、来季の飛躍を期待したい。

文/浅田 真樹

theWORLD173号 2016年4月23日配信の記事より転載

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